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拷問
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後ろに隠されていたエヴとペリエ嬢はまだ抱きしめ合って震えていた。
「あ、あんなに叔父様が、な、泣いて、叫ぶなんて、」
「お、お母様が、怖いぃ」
ロバート殿はエヴの頭を撫でて慰めていた。
「怒らせるとねぇ。ペリエ嬢ももうこれ以上、我が儘を仰らないようにお気をつけてください。さ、馬車に行きますよ」
「わ、分かったわ。お願い、いい子にするからと伝えて」
「分かりました。ご案内します」
ロバート殿がペリエ嬢を連れいこうとすると、部屋から叫び声が響いた。
「や、やめてくれぇ!」
「黙れ!よくも私の伴侶に手を出したわね!100年も生きられない、たかが人族の分際で!精魂すべて吸い出してやる!」
「あ!ああ!やめ!いやだ!うわああ!」
慌てたペリエ嬢が走って解放された扉に向かうのをジェラルド伯が肩を掴んで引き留める。
「ご覧にならない方がいい」
「でも、叔父様が」
「中に宰相がおられます。私も頃合いを見計らって中に入りますから。サキュバスの復讐なら女性に見られるのを憚られることです。先に行かれてください」
大公も愛しの姪御様に見られたらショックで倒れますと言うと静かに引き下がり、トリスとロバート殿を連れて通路へと急いで消えていった。
「エヴも聞かない方がいい。ジェラルド伯、失礼します」
「まだいたのか?早く行きなさい。グリーブス団長、娘をお願いします」
エヴの耳を塞いでジェラルド伯へ声をかけた。
どうやらペリエ嬢と行ったと思っていたらしい。
慌てて私達へ手を振って早くいけと追い払っている。
開いたままの扉からどうにも激しく責め立てられている声が漏れてくる。
「数えなさい、声が小さいわよ」
「大公、止まってますよ。さんじゅうごぉ」
「はいぃぃ、さ、さん、あ、あ、だめだぁ!むりぃぃ!さんじゅ、う、ごぉぉっああん!」
「数えるなんて余裕じゃない?!もっと鳴かせてやる!サキュバスの手管舐めないでよね!腕が入るまでにしてやる。ほら、もうここまで入った」
「ああ!あ!うおお!うおお!」
一段と声が大きくなって塞いでいたが聞こえたらしい。
エヴがぴゃっと飛び上がって後退り私の胸に背中がぶつかる。
「こ、怖いい」
行くぞと声をかけるのにプルプル震えてたのでそのまま後ろから腹に腕を回し、ひょいっと抱えて小走りで通路を抜ける。
「ベイリーフ、そろそろやめなさい」
後ろからジェラルド伯の諌める声が聞こえたが、三人ともやめる気はないらしく中休みの鐘が鳴るまで待てと答えていた。
日の傾きからもうすぐ鳴るが、大公がそれまで三人の責め苦に持つのか怪しく思えた。
王都に戻られてから復讐に動くか心が折れるか。
何にせよ大公一派の一掃も済んでいる今、何か出来ることもなかろう。
「お母様が怖いい」
私の胸にエヴの背中を合わせた状態で抱っこしていた。
腕にしがみついて泣くエヴを連れて通路を抜けて待つヤンとダリウスのもとへ戻った。
誤解されると面倒だと思ったがエヴがメソメソ泣きながら夫人が怒り狂ったことを話すので納得していた。
「ご自分で歩いてください」
ヤンの困り顔にエヴが首を振る。
「怖かったんだもん」
「抱っこして運んでいいですか?」
ダリウスの広げた手にエヴが捕まって寄っていくので仕方なくダリウスに譲った。
「私が運ぶのに」
「たまには俺がします」
白い牙をにゅっとはみ出させて目を細めた。
前抱きに首に顔を埋めるエヴの頭をぽんぽんと撫でていた。
「…私も運びたい」
ぽそっとヤンが呟くので思わずダリウスと振り返る。
エヴも目を丸くして見つめた。
目が合うとヤンが手を広げておいでおいでと手招きをして見せる。
「珍しい」
「ヤンもしたかったの?」
「したいですよ?たまには譲ってください」
「じゃあ、行く、うぷっ」
エヴが手を伸ばして行こうとしたらダリウスがぎゅうっと抱きしめて、いやだとごねた。
「俺、久々なのに」
「私は年をまたいでの久々だ。邪魔をするな」
「取り合いするとまたエヴが怒るぞ。ごねるな」
「う、」
渋々地面に下ろすとエヴがヤンに手を広げて抱っこをねだる。
「昔より目線が近いね」
「そうですね、エヴ様の背が伸びたから。よっと」
「これ抱っこじゃないよ?」
横抱きに抱えてエヴのおでこに頬を当てている。
「こうしたかったんです」
抱っこが嬉しいのかエヴは満足そうに笑う。
もういいと降りたがるのでヤンが大人しく床におろすので、試しに私も抱きしめたいと言うと腕に抱きつき、ぱっと離れるとすぐにヤンとダリウスの腕に手を組んで甘えた。
二人に挟まったエヴの頭を撫でると子どものように微笑む。
夫人に会ってから引っ付き癖が増えたように思う。
「こーら、エヴ。だめだと言ったろう?」
「お兄様」
片手で人間が一人乗れる板を抱えて戻ってきた。
「お兄様、手伝いますか?何に使うの?」
ロバート殿がエヴに頼む前にダリウスがすぐに板を受けとる。
「大公を乗せる。アグネリアの百叩きを受けたら歩けないだろう」
「ふーん、だからあんなに」
見えなかったとエヴは呟く。
「見ない方がいいよ」
「うん、怖かった」
今度はロバート殿の腕にぶら下がって遊び始めた。
「ダリウス、届けてきて。エヴといるよ」
「分かりました」
脇に抱えてさっさと奥へ向かう。
後ろ姿が見えなくなる頃、すぐに中休みの鐘が鳴った。
「あ、あんなに叔父様が、な、泣いて、叫ぶなんて、」
「お、お母様が、怖いぃ」
ロバート殿はエヴの頭を撫でて慰めていた。
「怒らせるとねぇ。ペリエ嬢ももうこれ以上、我が儘を仰らないようにお気をつけてください。さ、馬車に行きますよ」
「わ、分かったわ。お願い、いい子にするからと伝えて」
「分かりました。ご案内します」
ロバート殿がペリエ嬢を連れいこうとすると、部屋から叫び声が響いた。
「や、やめてくれぇ!」
「黙れ!よくも私の伴侶に手を出したわね!100年も生きられない、たかが人族の分際で!精魂すべて吸い出してやる!」
「あ!ああ!やめ!いやだ!うわああ!」
慌てたペリエ嬢が走って解放された扉に向かうのをジェラルド伯が肩を掴んで引き留める。
「ご覧にならない方がいい」
「でも、叔父様が」
「中に宰相がおられます。私も頃合いを見計らって中に入りますから。サキュバスの復讐なら女性に見られるのを憚られることです。先に行かれてください」
大公も愛しの姪御様に見られたらショックで倒れますと言うと静かに引き下がり、トリスとロバート殿を連れて通路へと急いで消えていった。
「エヴも聞かない方がいい。ジェラルド伯、失礼します」
「まだいたのか?早く行きなさい。グリーブス団長、娘をお願いします」
エヴの耳を塞いでジェラルド伯へ声をかけた。
どうやらペリエ嬢と行ったと思っていたらしい。
慌てて私達へ手を振って早くいけと追い払っている。
開いたままの扉からどうにも激しく責め立てられている声が漏れてくる。
「数えなさい、声が小さいわよ」
「大公、止まってますよ。さんじゅうごぉ」
「はいぃぃ、さ、さん、あ、あ、だめだぁ!むりぃぃ!さんじゅ、う、ごぉぉっああん!」
「数えるなんて余裕じゃない?!もっと鳴かせてやる!サキュバスの手管舐めないでよね!腕が入るまでにしてやる。ほら、もうここまで入った」
「ああ!あ!うおお!うおお!」
一段と声が大きくなって塞いでいたが聞こえたらしい。
エヴがぴゃっと飛び上がって後退り私の胸に背中がぶつかる。
「こ、怖いい」
行くぞと声をかけるのにプルプル震えてたのでそのまま後ろから腹に腕を回し、ひょいっと抱えて小走りで通路を抜ける。
「ベイリーフ、そろそろやめなさい」
後ろからジェラルド伯の諌める声が聞こえたが、三人ともやめる気はないらしく中休みの鐘が鳴るまで待てと答えていた。
日の傾きからもうすぐ鳴るが、大公がそれまで三人の責め苦に持つのか怪しく思えた。
王都に戻られてから復讐に動くか心が折れるか。
何にせよ大公一派の一掃も済んでいる今、何か出来ることもなかろう。
「お母様が怖いい」
私の胸にエヴの背中を合わせた状態で抱っこしていた。
腕にしがみついて泣くエヴを連れて通路を抜けて待つヤンとダリウスのもとへ戻った。
誤解されると面倒だと思ったがエヴがメソメソ泣きながら夫人が怒り狂ったことを話すので納得していた。
「ご自分で歩いてください」
ヤンの困り顔にエヴが首を振る。
「怖かったんだもん」
「抱っこして運んでいいですか?」
ダリウスの広げた手にエヴが捕まって寄っていくので仕方なくダリウスに譲った。
「私が運ぶのに」
「たまには俺がします」
白い牙をにゅっとはみ出させて目を細めた。
前抱きに首に顔を埋めるエヴの頭をぽんぽんと撫でていた。
「…私も運びたい」
ぽそっとヤンが呟くので思わずダリウスと振り返る。
エヴも目を丸くして見つめた。
目が合うとヤンが手を広げておいでおいでと手招きをして見せる。
「珍しい」
「ヤンもしたかったの?」
「したいですよ?たまには譲ってください」
「じゃあ、行く、うぷっ」
エヴが手を伸ばして行こうとしたらダリウスがぎゅうっと抱きしめて、いやだとごねた。
「俺、久々なのに」
「私は年をまたいでの久々だ。邪魔をするな」
「取り合いするとまたエヴが怒るぞ。ごねるな」
「う、」
渋々地面に下ろすとエヴがヤンに手を広げて抱っこをねだる。
「昔より目線が近いね」
「そうですね、エヴ様の背が伸びたから。よっと」
「これ抱っこじゃないよ?」
横抱きに抱えてエヴのおでこに頬を当てている。
「こうしたかったんです」
抱っこが嬉しいのかエヴは満足そうに笑う。
もういいと降りたがるのでヤンが大人しく床におろすので、試しに私も抱きしめたいと言うと腕に抱きつき、ぱっと離れるとすぐにヤンとダリウスの腕に手を組んで甘えた。
二人に挟まったエヴの頭を撫でると子どものように微笑む。
夫人に会ってから引っ付き癖が増えたように思う。
「こーら、エヴ。だめだと言ったろう?」
「お兄様」
片手で人間が一人乗れる板を抱えて戻ってきた。
「お兄様、手伝いますか?何に使うの?」
ロバート殿がエヴに頼む前にダリウスがすぐに板を受けとる。
「大公を乗せる。アグネリアの百叩きを受けたら歩けないだろう」
「ふーん、だからあんなに」
見えなかったとエヴは呟く。
「見ない方がいいよ」
「うん、怖かった」
今度はロバート殿の腕にぶら下がって遊び始めた。
「ダリウス、届けてきて。エヴといるよ」
「分かりました」
脇に抱えてさっさと奥へ向かう。
後ろ姿が見えなくなる頃、すぐに中休みの鐘が鳴った。
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