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自由

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「娘がか弱いなら守る気になりますが、そうではありませんし。嫌なら跳ね退ければいいだけですから。娘にはそれだけの力がありますもの。昨夜、あなたもヤンも昨日は満身創痍だったそうですね?その前も」
全て聞いているのだろう。
謝罪の意を込めて頭を深く下げた。
「よろしいのよ?めげずに何度でも立ち上がれば。偶然とはいえ娘は治療の才を授かりましたし、あなた方もそのうち諦めるか慣れるかすることでしょうね」
含み笑いに頭を上げた。
顔が見たかった。
声から本気は伝わるが、確認したかった。
「夫人。…欲しければ奪う。それでよろしいのですね?」
「どうぞ?お好きになさって?私は止めません。奪うなり懐柔するなり、夢魔の弱味に漬け込むなり。ご自由に?夫と息子はこちらから一言伝えておきますわ。お互いの好きさせろと」
立ち上がると後ろにある執務室の机より一回り小さな書斎机に向かう。
鍵を掛けた引き出しを開けて何か箱を持って戻ってきた。
「死なれてはクレインの非になるからこれを渡しておきます」
箱の中から葉を一枚取り出して私の前に置いた。
「フェアリーの呪符ですか?」 
「あら、ご存じなの?」
「先程、ベアード団長から一枚頂きました」
胸当ての懐から取り出して見せると、ほう、と息を吐いて目を丸く見開いた。
「団長も、あなたを気に入ってるのね」
なら予備にもう一枚あげますわ、と微笑む。
「即死は免れますわ。エヴには必ず生かすように指示を出しておきます」
エヴそっくりの微笑みに頭を下げてありがたく受け取った。
「ありがとうございます。ご助力いただき、感謝しますっ」
興奮して声が上擦った。
奥方の賛同を得られたことに前進したと立ち上がって礼を言うと、私を丸い目で見つめた。
「あら、勘違いなさってる?夫と息子に一言は忠告するけど、二人があなた達の邪魔するのも止める気もありませんの」
「は?」
ころころと笑う様にぽかんとなった。
悠然と手元の箱を閉じてまたもとの引き出しに片付けている。
見とれているとこちらを見返してイタズラが成功したような含み笑いで答えた。
「夫と息子も娘を愛してるんですもの。好きにすればいいわ」
まさか、と考えがよぎる。
「他の者も?」
「ええ、求婚しているヤンとダリウスも。熱意を見なくては分からないしエヴの好みもあるでしょう?今日はだめでも明日なら気が変わるかもしれませんわ」
あまりにもはっきりとした物言いに目が眩む。
ため息を吐きながら椅子に腰かけた。
「お茶のお代わりはいかが?」
「…いただきます」
新しく注がれた紅茶に口をつける。
「ここまで極端に判断されるのはワルキューレだからでしょうか?」
「さあ?どうかしら。でも私はあなたを気に入りましたわ。ジェラルドに似ているし、英雄と呼ぶに相応しい風格を持ってらっしゃる」
両手の指を組んで何やら呪文を唱えた瞬間、ざわっと毛が逆立つ。
見ると何か膜のようなものが全身をまとい消えた。
「我が家の古いおまじないです。カリッド・グリーブスへ戦いの加護を」
「ありがとうございます」
何か劇的に変わったわけではないが、手を握ったり開いたりと感触を確かめる。
「白い膜に包まれて何か全身を通り抜けました」
「気質しか持たない私には見えませんの。それは人狼の能力?」
「獣化して目が良くなりました」
そう、と小さく満足げに呟いた。
扉のノックに二人で目を向ける。
入室した兵士が一礼し頭を上げる。
「奥様、問題が起こりました」
「何かしら?」
「公爵令嬢が搭乗を拒否してます」
「は?」
「なぜ?」
「大公と宰相が説得されてますが、残りたいと仰ってます」
「ジェラルドとロバートは?」
「同じように口添えしていますが、手間取りそうなので奥様にお知らせするように自分に、告げました」
顔色の悪い兵士を一瞥し、ふぅんと鼻を鳴らして立ち上がると私へ一礼をされた。
「失礼。お馬鹿さんの相手をしに行きますわ」
びりびりするほどの殺気におののいた。
「夫の手を煩わせるなんて、本当に悪いご令嬢ね。ロープを持ってらっしゃい。馬用のムチでもいいわ。ひっぱたいてやる」
開いた扉の後ろからひょこっとエヴが顔を出した。
「お母様ぁ」
ニコニコ笑う顔に夫人が止まって腕を広げた。
すぐにエヴが走って胸に抱きつく。
「あら、甘えん坊さんねぇ。エヴ、どうしたの?」
「通路でお話が終わるの待ってたの」
「まあ、知らなかった。ごめんなさいね、お話に混ざって良かったのに」
「呼ばれてないのに行くのはお行儀悪いでしょう?通路で待つのも本当はだめなのにごめんなさい」
「いいわよ、久しぶりに会えたのだから少しくらい」
機嫌の治った夫人はエヴを抱き締めて甘やかす。
「あなた、ジェラルドからの指示は?」
「はいっ、待機を求むとのことです」
びっと背筋を伸ばして告げると夫人は首を振った。
「本邸をいつまでも空ける訳にはいかないのよ。時刻には出立と告げて。アグネリアと無理に連れ出すと。エヴにも手伝わせるわ」
「はいっ!」
行けと言うと走って通路へ飛び出した。
「お母様、お姫様は帰りたくないんですか?」
「そうらしいわよ。ここに護衛に割く余分な人材はいないわ。ラウルへの件を許す気にもならない」
少し背の高い夫人が抱き締めたエヴの耳に頬を寄せて気を静まるようにゆらゆらと身体を揺らしている。
「帰る前に謝りに行っていいですか?泣かせちゃったから」
「ジェラルドから聞いているわ。あとでね?今は一緒にお茶をしましょう。グリーブス団長もご一緒にね?」
「はぁい」
手を繋いで並んでソファーに座ると姉妹にしか見えない。
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