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口直し

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三日目の討伐。
エヴは率先して異形を相手にメイスを振り回して叩き潰す。
全く泣かなくなった。
人前でだが。
休憩になれば回りから離れて隠れたところでえずいていた。
「ぅえっ、え、」
耳を側立てると、どぼどぼと音を立てて胃を引っくり返している。
「エヴ、口に出来るか?」
討伐の後始末をある程度つけて、エヴを追いかけていた。
見つけてきた柑橘の果物を片手に茂みの中へ進むと腰を屈めて後ろからエヴの長い黒髪をまとめて背をさするヤンがいた。
「食べなくても口がさっぱりする」
ヤンに支えられながら木陰に座り青白い顔を項垂れて手を出した。
「剥いてやるから待て」
その間にヤンから受け取った水袋を仰いで口をすすいでいる。
「…格好悪ぅ、はぁ、」
水袋を握ったまま、ぐったりと背中を丸めて膝の間に頭を沈めた。
動くのも億劫らしくその場で、べっとゆすいだ水を吐き捨てた。
「よ、と」
ため息を吐きつつ足の間に吐き捨てた水溜まりに足で乱暴に土をかける。
「逞しい」
めりめりと音を立てて分厚い皮を剥いて外した房をエヴの口許に寄せた。
「全然です」
手を添えて受け取った房をかぷっと噛んで汁を吸い、薄皮を飲み込むのはきついらしく萎れたカスを茂みに放り投げた。
いくつか汁を飲むと青かった顔が幾分ましになる。
「ああ、気分悪。でもありがとうございます。おかげでかなりましです」
手拭いで目元を拭いて口の回りの汚れも拭き取る。
「異形に怯んで後ろに隠れて逃げている者がいる中、よくやっている」
見慣れない造形に怖がるのはエヴだけではない。
「休憩が済んだら今日は戻るぞ」
「え、もうですか?」
眉を下げてがっくりと項垂れた様子から首を振った。
「ある程度進んだ。今日はここで終えて明日からまた違う水辺に向かう。一部、探索に出したら残りの者は帰還していい」
早めの帰還は気遣われているせいだと感じて落ち込んでいる。
「本当に気遣うなら参加させない」
少しこけた頬に手を添えた。
強情さから揉めると分かっていたので好きにさせているが、こちらも火力を頼りにしていることと本人の望みに沿うことを優先した。
「もとはクレインのことですから。ラウル達も動けないし、お兄様とベアードが動けないんだから私がしっかりしなきゃ」
強い眼差しに目を細めた。
ラウル達の不在で火力不足だ。
その上、上官のロバート殿とベアード殿は罪人の相手で忙しい。
不在の彼らの代わりにクレインの者として自分が動くのだと気概を見せる。
「責任感の強さはいいが、心配している。隣の顔も同じだ」
言うとエヴはヤンへと顔を向けた。
「あ、そうだよね。ごめんね、ヤン」
「いえ」
隠しているがエヴの様子に憔悴している。
要のエヴが崩れればダリウスとヤンも使い物にならない。
がさがさと聞こえた足音に顔を向けるとダリウスが濡れ鼠で現れた。
「新しい水袋をお持ちしました」
受け取って軽くまた口をゆすぐと手の甲でぬぐった。
「冷たくて美味しい。ダリウス、わざわざ新しい水をありがとう」
微笑むエヴにダリウスも目を細める。
飲むのに適した水が少し離れたところに湧いているのでそこまで注ぎに行っていたらしい。
水を切らした奴らも一緒に向かったのは知っていた。
立ち上がるとエヴも私に倣った。
「戻るんでしょう?」
「ああ、そのまま帰還する」
「はい」
ほっとした気配から今回の続いた討伐にかなり疲れているのが分かった。
「何か、褒美を考えねばならないな」
「え?」
「苦手な異形相手に気持ちが疲れたろう?よくやった。だから何か喜ぶものを、」
そう言うとぱっと目が輝いて私のマントを勢いよく捲って潜り込んできた。
「エヴ?!いっ!」
驚いて離れようとするのに、がっと尻尾を掴んでマントの中で抱き締めている。
自分が抵抗したせいだが、突っ張った尻尾の根本が痛くて叫んだ。
「これにします!」
「…好きな時に触っていいと言っていたろう?」
最近、触れてこないから不満だった。
「だって、団長だから。団長も私も」
機嫌のいい声が聞こえる。
モコモコと動くマントを肩越しから覗く。
「前は気にしてなかったろう?」
「団長がいないし、ずっと尻尾出さなかったし、本当は嫌だったのかなぁって」
ペリエ嬢がいる間は人型だった。
事情を聞かされていなかったエヴは避けられたと思い込みから反省していたようだ。
「襟巻きにしてやるのに」
「いりません!触りたいだけですっ」
からかいに言うと激しく拒絶するエヴの返答にヤンも苦笑いして私の顔を見つめる。
「動くからいいんだろ?」
「はい」
「あとは戻ってからにしてくれ。湯あみもまだだ」
エヴは手足を軽く洗った程度でなかなかの体液まみれだ。
皆と同じように水浴びをできればいいが、粘った液は軽く入ったくらいでは取れず団員らは鎧を脱いで裸で浴びるのが常ということからヤンと二人で禁止を言い渡した。
「では湯あみの後に」
マントの隙間から顔を出して喜ぶエヴが可愛くて笑みをこぼした。
エヴ達とは離れてお互いの団を率いて砦へと帰還の支度を進めた。
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