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歓待

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エヴ達は客人を前に姿勢を正してはいるが、今まで果物や差し入れの魚を摘まみながら寛いでいたと分かった。
「お先しています」
お辞儀する彼らと四人に囲まれたベッドの真ん中でクッションを背中にもたれたリーグが動く手を振って微笑んだ。
「お世話になっております」
ガードがお礼を言うとエヴも頭を下げた。
「お邪魔してはいけないので私達は部屋を出ます。後で世話人が来ますのでそれまでリーグとゆっくりされてください」
「いえ、良ければご一緒に。姫君からリーグのお話を聞ければ幸いです」
首をかしげてヤンとリーグを振り返って二人の笑みに了承した。
「ラウルは部屋へ戻れ」
「…えー、やっぱり?」
「後で私も行く」
「わかった」
ヤンに促されて私達へ退室の挨拶をしてから扉へ向かった。
扉の側に立つブラウンはラウルと共に一礼して退室した。
「よお、怪我はどうだ?跳ねっ返り」
「痛いに決まってるでしょ。何言ってんの?」
「だよな、ヤンが来るまで話し相手してやるよ。くそがき」
「何?また説教?あり得ないんだけど」
「さすがにしねぇよ、馬鹿たれ」
扉を閉める前に微かに聞こえた会話だ。
お互いにつんけんしているが、内心の心配は理解しているらしく、二人で大人しく隣へと向かう足音と杖をつく音を聞いた。
「飲み物をお持ちいたします」
ヤンが席を外して扉を抜けていく。
「一旦退かすぞ」
ダリウスがリーグの確認してからベッドの傍らに置いた盆をサイドテーブルに避けている。
「それは?」
ガードが尋ねるとダリウスは川魚ですと答えた。
「こんなにですか?」
驚く声に惹かれて盆を覗くと椀に入ったスープの他に骨まで食べれそうな素揚げ、トロッとした煮魚、身をほぐした焼き魚が並んでいた。
「残れば私達で摘まむので」
ダリウスが優しく眼差しを向けるとリーグは顔を赤くして罰が悪そうに目を背けた。
「よかったら味見されますか?三人で来られると聞いていたので、少ないですが人数分あります。スープもちゃんと」
エヴが部屋に置かれた寸胴鍋の乗ったカートから新しい匙や小さな椀を出している。
「しておくので、どうぞリーグの側にいてください」
サライエが慌てて側に寄って代わろうとするが、意に介さないエヴに抗えず結局一緒に動いていた。
「代わろう」
エヴから鍋のお玉を取り上げて椀を注ぐ。
ガードもテーブルの支度をして動いていた。
「食欲は出たのか?」
隣に立って盆を持つエヴに問いかけた。
注いだ椀を盆に並べる。
「少しですが」
「兄君のおかげか?」
「はい」
「そうか」
何をしたかおいおい尋ねるとして食欲が少しは出たと聞いてほっとした。
「心配した」
「1食抜くくらい大丈夫です」
「続くかと思った」
「ご心配おかけしました」
椀を三人分、盆に乗せ終えるとエヴがベッド横のテーブルへ配膳をする。
ダリウスは皿に三人分をよそっていた。
半分に切り分けられた魚をそれぞれ盛り付けて盆に乗せると同じように運び、サライエも戸惑いながら手伝っている。
カートを押してヤンが戻ってきた。
「お茶とワインをご用意いたしました。ご一緒にどうぞ」
「ええ?!」
サライエが驚いて声をあげた。
どちらも上級な客人へのもてなしのものだ。
「過分なおもてなしに、」
上官にあたる三人からの給仕にガードと二人で恐縮している。
「今日は特別ですから。お魚も沢山ですし、リーグのことで心配おかけしました」
「しかし、そのような雑事を。お三方の手をわずらせてしまい申し訳ありません」
「いえ、不自由させてごめんなさい。ここには専門の使用人がいませんから」
あっけらかんと話すエヴに戸惑いがやまないらしい。
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