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習性

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今回はなんとか避けられたと両手で顔を覆い安堵から、ほーっと深く息を吐いた。
「よく、命があんなさった」
半笑いだったイグナスも息苦しそうに青ざめた顔を歪め、吹き出た汗を手でぬぐいながら寄ってきた。
「…死ぬかと思った」
少し目尻に涙が浮いていた。
「…団長、申し訳ありませんでした。不敬の、処罰を、何なりと」
サライエと、二人。
セルジオとコージーだ。
イグナスと同じ顔色の三人は言葉を詰まらせながら頭を下げた。
先程の態度だ。
上への反抗は処罰対象になる。
「…いい。…疲れた」
書式にまとめるのが面倒だ。
やりたくない。
私がエヴにメイスを投げつけられた下りを書く破目になる。
「メイス、また壊しちゃった」
横を見るとエヴがメイスを拾って曲がりを治そうと反りの反対に捻っていた。
「団長、隊の統率が取れず申し訳ありません。上官の管理不足として処罰は規定通りに、」
ガードが近寄って私に頭を下げる。
「…もういい。…信用したのなら、それで構わない」
頭を片手に抱えたまま、また大きくため息をつく。
疲れを全く隠せない。
こんなことは初めてだ。
エドの前でしか見せたことないのに。
「ガード、リーグは私が拾った。賢く延び代もある。番が絡んでいようが身代わりにはしない」
「はっ」 
番に目が眩んでリーグやラウルを身代わりにしたと思ったのだろう。
「私は全団員を守る義務を心得ているつもりだ。もっと上手く出来たはずと後悔することはあるが、恥じるようなことをした覚えはない」
「申し訳ありません」
「番に府抜けてるように見えていたろう?日がな夕な番に付いて回っていたから」
こめかみに手を添えたまま自嘲気味に言うと分かりやすく息を詰まらせて慌てている。
「あ、いえ、そんな、」
「実際に腑抜けている。私は番さえいればいい。だが、役目を疎かにするつもりはない。群れを守るのはリーダーの役目だ」
私は人狼だぞ、と言えば会得して力強く頷いた。
番に尽くすことも群れを守ることも全て本能だと理解したようだ。
「はい。その通りです。考えが至りませんでした」
「いい。構うな」
再度下げようとする気配に軽く手を振って制する。
「それにしても、クレインは怒らせると恐ろしい」
ため息に蓋をするように口許を覆う。
「すんませんねぇ、俺が唆したから。若いもんの扱いに慣れているつもりでああしたんですが、矛先が明後日の方に行っちまった」
イグナスが頭をかいて歯切り悪く呟いた。
「仕方ない。エヴの参戦は予想外だった。いや、多少は何かしゃべ、る」
と分かっていたが、と言おうとして、エヴと私を呼びながら、ガチャガチャと川上から走る音に遮られた。
「何があったんですか?!」
鎧を担いだヤンとダリウスを先頭に汚れを洗いに行った連中が半裸で身だしなみもそこそこに水を滴らせて戻ってきた。
団員がひとり、呼んできましたと声をかけた。
「イグナス、説明を頼んでいいか?」
「いいんですかい?」
「クレインのあなたからの方がごまかしもなく信憑性がある。こちらも部下の非を謝罪せねばならない」
「任せてくだせぇ」
すぐにエヴを囲むヤン達のもとへと進み、私はガード達と向かい合う。
「ガード、サライエ、お前達も。私の不足を鑑みて今回は不問にする。しかし辺境伯令嬢であり臨時兵団団長へのは非礼は別物だ。あちらから何かしら罰があるなら粛に受けろ」
その場はイグナスの取りなしに任せて彼らをエヴのもとへと追いやると、雑然と浮き足立つ団員らを指示して作業の続きを促した。
「王都兵団のグリーブス団長をすぐに叩こうとしないでください!規律違反に当たりますよ!それにいくら丈夫でも怪我をさせます!」
「…はい」
見るとあらかたの説明を聞き終えたヤンが頭を項垂れたエヴに叱っていた。
側のダリウスは手を顔に当てて項垂れている。
「ははは!気にしすぎだ。あんなもん痴話喧嘩だ。命懸けですがね」
イグナスがからかいに揶揄した。
「ちがいねぇや」
側の男らからどっと笑い声が広がった。
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