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火力

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空を見る青い空を突き抜けて白い鳩が真っ直ぐこちらに向かってくる。
胸に飛び込むと衝撃もなく、ふわっと消えて頭に文字が浮かぶ。
『本日より水辺討伐エヴ、ヤン参加希望、返答求む』
昨日の時点では特に変更の話題はなかったのでそのまま整備に回すつもりだったのだが。
急になぜとエヴの心変わりに首を捻る。
「何かありましたか?」
「今から隊列の変更は…、混乱のもとか。だめだな。…エド、喜べ。火力の問題は解消された」
すぐに側の団員に声をかけて、エヴへ了承を伝えた。
火力はあっても、まだ大して泳げないエヴは陸地での後方支援しか出来ない。
専門とは違い、他の団員らと同程度の扱いだ。
模擬戦をこなし始めた程度でしかない未経験のヤンもまだ危うい。
二人合わせてリーグ並、いや、経験のなさから少し下か。
使いどころが難しいが、戦力としては満足した。
現地には通常通り小型の船の他に、金属製の網や鍵爪のついたロープを予定より大量に持ち込んだ。
専門部隊が追い詰めた魔獣を網や鍵爪に引っ掻けて剛力で強化時間の長いエヴが釣りのように引き上げている。
「きゃぁぁぁぁ!」
大事なことを忘れていたが、エヴは蛇や虫が嫌いだった。
生理的に無理なものを引き上げると絹を裂くような悲鳴をあげる。
魚のような形ならいいが、ヒルやミミズのようなのを釣り上げるとその度に号泣している。
今度は網で足の多い中型の虫が大量に獲れたのでまた泣いている。
「みんな、ごめん!ごめんなさい!怖いぃ!怖いぃ!触れないぃ!うえええん!」
逃がさぬように片手に縄の束をしっかり握りメイスを構えるが及び腰に涙と鼻水を垂らしながら叫んでいた。
「…面白い」
さすがのエヴも女らしく悲鳴を上げるのかと笑ってしまった。
引き上げてしまえば他の泳げない団員らが片付けるので、それをしてくれるだけでこちらは助かる。
「本当にごめんー!うわぁぁん!次頑張るからぁ!」
それでも嫌がらずにせっせと網を引き上げて外れを引く度に叫んで終わったあともわんわん泣きまくる。
「ひっく、ひっん、ご、ごめんね?怖くて、魚しか、殺れなかったぁ。ごめんなさいぃ」
いつまでも手拭いに顔を埋めて謝った。
子供返りしてヤンとダリウスにしがみつこうとするが、二人の全身にたっぷりかかったぬるぬるの体液を見て仰け反り頭をブンブン横に振って泣いた。
「うああっ!無理ぃ!いやだぁ!ぬるぬるがついてるぅ!触れないぃ!」
「…申し訳ありません」
「…すいません」
二人とも手を広げて駆け寄るエヴに同じように手を広げていたのに、拒絶の態度で泣き叫ばれて肩を落とした。
「団長はっ!?」
ばっと勢いよくエヴが私に目を向けた。
私は全体の指揮をしていたので頭や肩から被るようなことはしていない。
足に軽くかかっただけの私を見て走ってきた。
「団長ぉ!」
「おっと、」
私の胸に体当たりしてきたのを抱きとめる。
人目があるので両手をあげて号泣してしがみつくのに任せた。
私達の様子にダリウスは寂しそうに眉を下げたが、ヤンは仕方ないとため息をついて、お世話になりますと頭を下げた。
「ダリウス、洗いにいくぞ」
「…ん」
ヤンはショボくれたダリウスと頭から体液を被った連中と共に少し離れた川上へと向かった。
残りは魔獣の死骸を集めて重ねている。
午前の討伐は終えて、午後から領民と資源としてこれらの死骸の回収に来る。
使えないものはまとめて燃やすので軽く選別をしていた。
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