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眼力

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新しく汲んだ水で洗顔を済ませて、エヴとロバート殿はお互いに鎧の身支度を終えた。
「あのね、エヴ。お兄様もずっと一緒は無理なんだよ?」
「…分かってるけどぉ」
見慣れたものでソファーにはまた膝に乗ったエヴがロバート殿の首にしがみついている。
先程の狼狽えた態度は微塵もない。
鎧越しなら平気なようだ。
「極力顔を出すから、今は甘えないの」
「…はぁい」
「あれ?気づかなかった。どうしたの?シンプルだけど可愛いね。似合うよ」
腕を剥がして隣に腰かけさせた途端に首の革紐を見つけた。
離れてやっと目についた首のチョーカーに指を入れて引っ張った。
「上手?」 
「作ったのか。最近、好きだね」
「うん。楽しい」
上手だよと誉めながら、指は離さない。
エヴは引っ張られて顔が前のめりに寄ったのに、近づけてロバート殿の顔に向けて見せびらかすように首をそらせた。
なぜかその従順な仕草にそわそわと落ち着かない。
「こういうのが好きなら私からも何か送ろうかな。これに下げる飾りとかいいね」
チョーカーに指をかけたままエヴの首を好きに引っ張っている。
「何にしようかな。無難に石かな。革細工でもいいけど。エヴは何でも似合うから悩むなぁ」
引っかけた指を首輪のリードのように左右に揺らしてエヴを愛でながら満足げに呟く姿に邪気が回る。
私は内心面白くない。
それも私が送りたい。
しかも優しくとは言えロバート殿が気ままに振り回しているのに。
慣れているのかうっすら笑みを浮かべて受け入れているエヴに眉をひそめた。
一息入れて、所詮兄だ、革紐は私とお揃いなんだから気にするなと自分に強く言い聞かせる。
「着けたら使いにくくなるからいいです。これはこのままで」
軽いから気に入ってると答えるので顔が緩むのを隠した。
「そうか。なら仕方ないね」
そう言って優しく微笑んだまま指をかけて遊んでいた。
ふつふつと湧く悋気を堪えながらそうしている間に暗かった外が先程より明るくなる。
鎧支度の終えたダリウスとヤンがカーテンを開けていた。
いい加減戻らねばならない。
退出を伝えて背を向けると、エヴがまたあとでと急いで声をかけて来た。
改めて立ち上がったロバート殿の礼を受けて、隣にいるエヴのチョーカーを見つめて笑った。
「そう言えば精力はまだ見えるのか?」
唐突に問うとエヴ以外の全員が固まった。
欲の絡んだ精力を好む夢魔の能力だ。
どう考えても下半身の性欲を目視で見破るものだと想像つく。
「え?あれ?そう言えば見えない」
んー、と唸って目を細めて私達を見つめた。
溺愛の妹に欲を知られる恐怖から特にロバート殿が後ずさっている。
「見ようとすると難しい。やり方は分かったけど。…集中すると見えます。今は皆、精力が薄く身体を巡ってます。特に頭と胸に沢山流れてる。昨日はお腹の下に沢山見えたのに。場所が変わるんだ。へぇー」
常時見えているわけではないと分かり、三人は安堵のため息を吐いた。
ロバート殿の狼狽える顔とヤン達の恥ずかしがる顔を見てから天幕に戻る。
道すがら三人のあの顔に少し溜飲が下がったと満足した。
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