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事故
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「ふーっ」
街道から少し離れて誰もいない辺りまで来た。
まだ心臓がばくばくする。
ひと息入れて深呼吸をするが、番を怒らせたことがショックで腹まで痛くなった。
理不尽な暴力を嫌うエヴ嬢の前で失敗した。
そう言えばヤンも用心して離れた敷地の奥でラウル達をぼこぼこにしていたと思い出した。
意味さえあればエヴ嬢は自ら行使するが。
以前、嫌がるラウルにしつこく迫ったスミスを蹴り飛ばしたことがある。
今回は確実に腹いせだ。
反省している相手を蹴る必要はなかった。
また大きく息を吐いて額に手を当てた。
さっきまでシャリシャリの甘い実のおかげで気分がよかったが、エヴ嬢のたった一言、名を鋭く呼ばれただけで一瞬で奈落に落ちたような感覚だった。
思った以上のへこみ具合に戸惑い頭を抱えた。
しばらくすると、遠くからカンカン、コーンコーンと木を刈る音が聞こえてきた。
休憩に飽きて作業を開始した奴らがいるのだろう。
いい加減戻るかと来た道を急いで掻き分けて走る。
「だれ!」
「は?」
「来ないで!来ちゃダメ!」
走る勢いに止まれず茂みに飛び込むと、ばったりと真っ赤になったエヴ嬢と会った。
だが、タイミングが悪い。
少し拓けた茂みの中で裾を捲ってしゃがんでる姿に何をしてるか一目瞭然に察した。
「す、すまない!」
振り返れば肩の高さの茂みに引っ掛かり、草の根につま付いて転んだ。
慌てて飛び起きたのにまた転んで木に顔をぶつけた。
「ばか!」
這って離れるが後ろから石も飛んでくる。
「悪かった!わざとじゃない!」
鼻を押さえて飛んでくる石から頭をかばった。
塗るつく鼻の下に見る必要もない。
ぶつけて血が出たと分かる。
「エヴ様!」
「来ちゃだめ!ヤンのばか!きらい!」
見張りだったのか、奥から慌ててヤンも草を掻き分けて駆けつける様子が分かったが、そちらも蹴散らされている。
「ヤン!事故だ!覗きじゃない!」
この不届き者が、出てこい、とヤンのブチキレる声に慌てて声を張り上げる。
品のいい仮面が落ちて、ぶっ殺すと叫んでいた。
「団長ですか?!こんなところで何を、」
「誤解するな!奥にいたんだ!ここにいたことは知らなかったんだ!」
「そんなのどっちでもいい!こっちだって知らなかったんだから!団長のばかばか!ばぁぁかっ!死んじゃえっ!ばあああかっ!」
「悪かった!本当に悪かった!」
「うるさい!黙ってよ!」
「石を投げるのはやめろ!」
「いやっ!」
顔の横をすり抜けた石が木にめり込み、慌てて強化をかけて身を守る。
「もう側にいないだろうが!ヤン!止めろ!死ぬ!殺される!」
「エヴ様!お怒りは分かりますが身支度をされてください!済んだら好きなだけ罵りなさい!」
「まだなの!二人とも離れてよ!耳塞いでてよ!ばか!」
ヤンが急いで離れる気配がする。
私も慌てて耳を塞いだ。
「塞いだ!」
そう言うと静かになり、しばらくして事が終えるとごそごそと衣擦れの音が聞こえた。
人狼の耳は塞いだくらいじゃだめだった。
バレたら殺される。
とりあえず投擲は止んだ。
安堵から、ほーっと息を吐く。
深くめり込んだ石を見つめ、死ぬかと思ったと脱力した。
「もうよろしいですか?」
無言で、がさがさとヤンの方へ向かう気配と治まっていない怒気におののいて草むらの中でじっと身を潜めた。
「…団長、どこ?…出てきてください」
エヴ嬢の低い声にビクつく。
大人しく茂みから立ち上がった。
鼻からはだばだば血が垂れている。
隣に立つヤンの眉がぴくりと跳ねたのが見えて両の手のひらを上げて降参の姿勢を見せた。
「誤解するな。鼻血は顔をぶつけたせいだ。よく見てもらえれば顔が腫れてると分かる。本当に覗きじゃない」
ヤンは判断しかねると首をかしげてエヴ嬢へ視線を向けた。
濃い紋様を浮かべ、顔を真っ赤にして睨んでいる。
許される気がしない。
「…見た」
「見てない」
「目が合った」
「一瞬だった」
「何してるか分かった」
「…それは、分かった。すまな、いっ!」
振りかぶって何か投げてきたのでとっさに避ける。
ごっとデカイ音と共に後ろの木にメイスが刺さっていた。
「…」
何も言えずに長さの半分ほど刺さったメイスを見つめ、ぎしぎしと軋む首を回してエヴ嬢へ目を向けた。
メイスはもう一本ある。
次に飛んできたら避けなくてはいけない。
怖くて見れないなどと萎れていたら死ぬ。
ヤンも固まって青ざめていた。
「…ふーっ、もういいです。これで、怒るの終わり」
ぱきぱきと音をたてて強化が解ける。
怒気は治まったようだが、まだ顔は赤く今は羞恥で震えていた。
「メイス、持ってきてください」
なんとか引っこ抜いてエヴ嬢へ渡した。
子供の頃、父に叱られた時以上にびくびくする。
「しばらく嫌いです。顔も見たくない」
冷たい物言いに怒りの程が分かる。
ぐっさり刺さった言葉に項垂れた。
「…久しぶりの毛皮でも許してもらえないか?」
あれからずっと獣化していない。
天幕に着替えを取りに行けないからだ。
触らせるから許してほしい。
「…あとで触ります」
不機嫌にむぅと口を突きだしてはいるが、少し許してもらえたようだ。
街道から少し離れて誰もいない辺りまで来た。
まだ心臓がばくばくする。
ひと息入れて深呼吸をするが、番を怒らせたことがショックで腹まで痛くなった。
理不尽な暴力を嫌うエヴ嬢の前で失敗した。
そう言えばヤンも用心して離れた敷地の奥でラウル達をぼこぼこにしていたと思い出した。
意味さえあればエヴ嬢は自ら行使するが。
以前、嫌がるラウルにしつこく迫ったスミスを蹴り飛ばしたことがある。
今回は確実に腹いせだ。
反省している相手を蹴る必要はなかった。
また大きく息を吐いて額に手を当てた。
さっきまでシャリシャリの甘い実のおかげで気分がよかったが、エヴ嬢のたった一言、名を鋭く呼ばれただけで一瞬で奈落に落ちたような感覚だった。
思った以上のへこみ具合に戸惑い頭を抱えた。
しばらくすると、遠くからカンカン、コーンコーンと木を刈る音が聞こえてきた。
休憩に飽きて作業を開始した奴らがいるのだろう。
いい加減戻るかと来た道を急いで掻き分けて走る。
「だれ!」
「は?」
「来ないで!来ちゃダメ!」
走る勢いに止まれず茂みに飛び込むと、ばったりと真っ赤になったエヴ嬢と会った。
だが、タイミングが悪い。
少し拓けた茂みの中で裾を捲ってしゃがんでる姿に何をしてるか一目瞭然に察した。
「す、すまない!」
振り返れば肩の高さの茂みに引っ掛かり、草の根につま付いて転んだ。
慌てて飛び起きたのにまた転んで木に顔をぶつけた。
「ばか!」
這って離れるが後ろから石も飛んでくる。
「悪かった!わざとじゃない!」
鼻を押さえて飛んでくる石から頭をかばった。
塗るつく鼻の下に見る必要もない。
ぶつけて血が出たと分かる。
「エヴ様!」
「来ちゃだめ!ヤンのばか!きらい!」
見張りだったのか、奥から慌ててヤンも草を掻き分けて駆けつける様子が分かったが、そちらも蹴散らされている。
「ヤン!事故だ!覗きじゃない!」
この不届き者が、出てこい、とヤンのブチキレる声に慌てて声を張り上げる。
品のいい仮面が落ちて、ぶっ殺すと叫んでいた。
「団長ですか?!こんなところで何を、」
「誤解するな!奥にいたんだ!ここにいたことは知らなかったんだ!」
「そんなのどっちでもいい!こっちだって知らなかったんだから!団長のばかばか!ばぁぁかっ!死んじゃえっ!ばあああかっ!」
「悪かった!本当に悪かった!」
「うるさい!黙ってよ!」
「石を投げるのはやめろ!」
「いやっ!」
顔の横をすり抜けた石が木にめり込み、慌てて強化をかけて身を守る。
「もう側にいないだろうが!ヤン!止めろ!死ぬ!殺される!」
「エヴ様!お怒りは分かりますが身支度をされてください!済んだら好きなだけ罵りなさい!」
「まだなの!二人とも離れてよ!耳塞いでてよ!ばか!」
ヤンが急いで離れる気配がする。
私も慌てて耳を塞いだ。
「塞いだ!」
そう言うと静かになり、しばらくして事が終えるとごそごそと衣擦れの音が聞こえた。
人狼の耳は塞いだくらいじゃだめだった。
バレたら殺される。
とりあえず投擲は止んだ。
安堵から、ほーっと息を吐く。
深くめり込んだ石を見つめ、死ぬかと思ったと脱力した。
「もうよろしいですか?」
無言で、がさがさとヤンの方へ向かう気配と治まっていない怒気におののいて草むらの中でじっと身を潜めた。
「…団長、どこ?…出てきてください」
エヴ嬢の低い声にビクつく。
大人しく茂みから立ち上がった。
鼻からはだばだば血が垂れている。
隣に立つヤンの眉がぴくりと跳ねたのが見えて両の手のひらを上げて降参の姿勢を見せた。
「誤解するな。鼻血は顔をぶつけたせいだ。よく見てもらえれば顔が腫れてると分かる。本当に覗きじゃない」
ヤンは判断しかねると首をかしげてエヴ嬢へ視線を向けた。
濃い紋様を浮かべ、顔を真っ赤にして睨んでいる。
許される気がしない。
「…見た」
「見てない」
「目が合った」
「一瞬だった」
「何してるか分かった」
「…それは、分かった。すまな、いっ!」
振りかぶって何か投げてきたのでとっさに避ける。
ごっとデカイ音と共に後ろの木にメイスが刺さっていた。
「…」
何も言えずに長さの半分ほど刺さったメイスを見つめ、ぎしぎしと軋む首を回してエヴ嬢へ目を向けた。
メイスはもう一本ある。
次に飛んできたら避けなくてはいけない。
怖くて見れないなどと萎れていたら死ぬ。
ヤンも固まって青ざめていた。
「…ふーっ、もういいです。これで、怒るの終わり」
ぱきぱきと音をたてて強化が解ける。
怒気は治まったようだが、まだ顔は赤く今は羞恥で震えていた。
「メイス、持ってきてください」
なんとか引っこ抜いてエヴ嬢へ渡した。
子供の頃、父に叱られた時以上にびくびくする。
「しばらく嫌いです。顔も見たくない」
冷たい物言いに怒りの程が分かる。
ぐっさり刺さった言葉に項垂れた。
「…久しぶりの毛皮でも許してもらえないか?」
あれからずっと獣化していない。
天幕に着替えを取りに行けないからだ。
触らせるから許してほしい。
「…あとで触ります」
不機嫌にむぅと口を突きだしてはいるが、少し許してもらえたようだ。
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