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ワイン

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「あの頃のヤンはお嬢様のために、目の下にでかい隈をこさえて真っ青な顔でした。寝不足でふらついてるのに、無理やり鍛練に乗り込んでくるし、勉強も熱心で毎日、本を読んで学んで、魔人の襲来にも的確に動く。あいつは凄かったんです。誰もが一目置いていました。そんな奴の側で暮らして反省したようですよ」

空になったグラスに注いでやると、にっと笑って飲み干す。
話を促すと、酔ったみたいだと笑いながら話を続けた。

「今もヤンがボスですよ?旦那様が特別に目をかけて、俺達にとってもあいつは別格です。ベアード団長も自身と同等に扱われるくらい。ラウルとダリウス坊っちゃんの成長も認めますけどね。それより甘ったれと跳ねっ返りを躾けたヤンの手腕に感心します。どうやったんだか、ふふ、」

「気に入ってるんだな」

「ええ、ヤンを息子のように思ってます」

「息子というには少し年が近いように見える」

「本当ですか?じゃあ、兄で。でも自分、結構な歳ですけどね。ラウルとダリウス坊っちゃんもそれなりに可愛いですが、古株の多くはヤンを一番尊敬してます。仕えた年月が違いますし。16年ですよ?俺がここに仕えるより長く努力しています」

「全部、飲んでいいぞ」

合間で喉の乾きを癒すワインをまた継ぎ足してやる。

「お言葉に甘えて。ヤンが一目置かれるというより、まあ、ラウルはばら蒔いた術式が悪い。被害を受けた団員らは一生許せないかもしれん。俺も」

「何をした?」

「不能ですよ。おかげでヤりたいのに出来ないって糞みたいな一年でした。悶々とするのに動かねえ。あんな苦しいとは思わなかった。しかもあいつ、かけたの忘れてやがった。俺達がベアード団長に訴えて話が通ったんです。仲間内で術式を解こうと色んな術師に相談するのに解けねぇ。その時、新婚だったのに。とんでもないクソガキです」

「それは、気の毒に」

「呑気にそのうち消えると言ってたが、いつまでも消えない。これはおかしいと思って謝罪のついでに聞けば10年程でと答えやがったんですよ。人族の寿命で考えろってんだ」

そんな術式をかけられそうになっていたのかと身震いする。

「ベアード団長も拾った責任で何やら忙しくされてましたね。それからは甘やかしは減りました。俺達にもちょうどいいくらいです。おっと、これはしゃべりすぎたかな」

「私よりは穏やかな人柄と把握している。今のご様子からもそれは分かる」

「…団長の鍛練は凄まじいですね」

「そうか?」

ブラウンの遠い目に笑みがこぼれた。

「副団長よりは厳しいです」

「厳しくするように言っておこう」

「いえ、それは」

「はは、冗談だ。私の鍛練に付き合える者だけ私が見る。あなたもよくついてきている」

「お嬢様達には敵いませんが」

「彼らは別格だな」

「幼い頃を知ってるので越されるとは思いませんでした。みんな、立派になったと思います」

「羨ましくはあるか?」

「ありますよ?しかし、才能と努力が違います。血筋も。ヤンはもとより、ダリウス坊っちゃんも今は見違えるほど鍛練に集中して、ラウルも今までの経験を元に向上しています。…まあ、ラウルの男嫌いも、経験に寄るものと理解しています。無理もない。お嬢様も、俺達が不甲斐ないばかりに苦労をかけてしまった」

くっとグラスを煽ってひと息入れる。
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