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邪魔

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二の句が継げない。
こちらが呆れて言葉を出せずにいるとまた喜色を戻して微笑んだ。

「カリッド様、お気持ちはちゃぁんと分かっておりますから」

甘えた声音と秋波のたっぷり混じった視線、社交界で持て囃された妖艶な仕草。
その様にぞっとする。
気持ち悪さに胃液が上がってくる。
口許へ手を当てると何を誤解したのか満足そうに笑う。
すると、目を見開いて私の後ろへ視線を向けた。

「あなたっ!」

ずいっと身を乗り出して扇を投げた。

「わっ!何?!あぶなっ?!」

背後の叫び声に驚いてその先を見ると、ぱしんっと投げつけられた扇を片手で受け止めて驚くラウルがいた。

「ちょっと、なんですか?急に、」

訝しげに受け止めた扇をテーブルに置いて、手早くお盆を置いた。
驚いていたリーグも気を取り直して食器を載せていく。

「許さないから」

憎悪に混じった眼差しで睨み付けて、ラウルは無視して食事を乗せたお盆を抱え、リーグもそれに従う。

「ふぅん、…肝に命じます」

一瞥し、興味なさげに鼻を鳴らしたら踵を返してさっさとその場を抜けた。

「何を考えている?扇を投げつけるなど」

こちらの声は聞こえないようでぶるぶると怒りに震え、テーブルに置かれた扇は侍女が取りに行く。手渡されると少し落ち着いたようでまた微笑みを浮かべた。

「これのどこが慈悲深い行動だ」

「私ったら、おほほほ」

私以外もこの姿に嫌悪を抱くのか回りの団員らが忌避を持って見つめていた。
中には目を背ける者も。
私はこれに10年も執着されているのだ。
よく見ておけと内心この様を見せびらかしたくてしょうがなかった。

「ここは戦場で命を懸ける男共の食事場だ。扇を投げつけるなど、あなたのような令嬢が立ち入るところではない」

彼らに対して誠意のない行動だ。ラウル以外にしたとしても腹立つ。

「お優しいわ。やはり気遣ってくださる。うふふ」

目元を赤らめて見つめられて思考がおかしいと天を仰ぎたくなった。

「意味が分からない」

「こんな野蛮な男達の中に私のようなか弱い令嬢がいるのを心配してくださってる」

「違う。彼らへの冒涜に怒っている。ここは皆の安息の場だ。乱暴なことをする人間に立ち入らせたくない」

「扇を投げたくらい。屈強な男ならそんなことは平気でしょうに」

「いいや、痛みの問題ではない。侮辱だからだ。二度とされるな」

「カリッド様は大げさね?ふふ」

「上の者が部下を守るのは当然だ。彼らは私へ信頼を寄せて私はそれを応える。あなたはもう少しまともな側仕えを選ぶべきだ」

まともな側仕えならとうにここを連れ出して諌めている。
迎合する侍女らと焚き付ける性悪の存在も鬱陶しいと睨み付ける。

「あら、何か問題かしら?彼女達はとても献身的でいい子なんですのよ?」

満更でもない侍女らの顔に呆れた。
性悪は隠しているが、小馬鹿にして笑っている。

「あなたの醜態を広めているのにか。若い主が間違えば諌めるべきだ。この場で恥を晒している。そなたらに問う。主が誇らしいか?」

「ええ、私共のお嬢様は大変お優しいだけではなく、愛する方にこのように情熱的にお心を捧げて素敵ですわ」

熱に浮かされた侍女らは頷いた。

「筆頭公爵家、現宰相が娘にして王家筋に当たるパティ公爵令嬢ともあろう者が夜中に男の天幕に入るのも誇らしいか?裸で来もしない男を物悲しく待って、暇に明かせて天幕内の重要書類を漁り、私の番の手懸かりを探す。他の女達の手紙を勝手に開けて読んで終われば手紙を裂いて捨てる。主にそんな惨めな真似をさせてそなた達は何が誇らしい?側仕えとして恥ずかしくないのか?」

「いいえ、そのような。私共はお嬢様のお心のままに」

戸惑いつつも彼女らから微かに浮いた品のない笑みにペリエ嬢の人徳のなさが伺えた。

「あなたは敵ばかりのようだな」

微かによぎった同情に眉を下げた。

「私共はお嬢様に忠誠を捧げる身です。お望みのままに動くことが最上の喜び」

性悪が整った顔を歪ませて笑っていた。

「彼女達は素晴らしいでしょう?見目も良くて、私への忠誠心も篤い。自慢の側仕えですわ」

私は大きくため息を吐いた。

「エド、鎧の支度をする」

「は、…は?」

はい、と答えようとして言葉が止まった。

「疲れた。夜間討伐に行ってくる」

「隊列は、いかがいたしましょうか、」

「一人でいい」

「はあああ!?」

「天幕に寝ても忍び込まれる。外で寝る」

振り返って天幕へと向かった。
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