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合流
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「カリッド様!こちらにいらっしゃるんですね!退きなさいよ!通して!」
天幕の外から聞こえた声に身が固まる。
見張りに止められながらも無理やり入ろうと垂れを引いて顔を出すので目が合った。
「うおお、睨まれた。目が合った。団長、離せってのっ、絡まれるじゃねぇか」
「ああ、悪かった。悪ふざけが過ぎた」
さっと手を離して距離をとった。
「出れねぇし、どうすんだよ。これ」
「さすがに騒ぎすぎた。仕方ないから打ち合わせを続けるか」
「この状況でかよ?」
「ああ、構わないだろう。いなくなるまで時間かかる。必要ならあちらに鳥を飛ばせ」
さっさと地図に向き合い、ラウルを手招きすれば、仕方ないとラウルも観念し、エドらも交えて討伐と観察の予定を大まかにたてた。
「あー、もう戻りたいのに。まだ騒いでる。…主に連絡入れとかなきゃ」
ぶつぶつと文句を言いながら手から鳥を飛ばした。
その間も入り口の喧騒はいつまでも響いていて、げっそりとやつれた見張りが声をかけるまでにかなり綿密な予定がたてられた。
「食事に行くか」
辺りは薄暗くちょうど夕飯時。あちらも諦めて食事に行ったようだった。
立ち上がって皆で食事処へ向かうことにした。
ちょうどエヴ嬢の来るタイミングでもあり、ラウルとリーグもそこで合流すると話す。
「どうにか追い返せないんですか?」
「手だてが思い付かん」
先程の荒ぶりが落ち着いてからは口調が変わった。小さく声をひそめて顔を寄せる。身長差から私も屈めて話をした。
「バレたからって、実際どうなりますか?か弱いわけでもないし、こちらの身分が低いわけでもない。何が出来るって言うんですか?暗殺ですか?」
少し鼻で笑った気配に眉をしかめる。
「そんなことに負けるとは思っていない」
徒党を組んで襲われたとしても、武力としての優位は確実にエヴ嬢だ。だが、今回は腕力だけでは困るのだ。
「逆の心配をしている。粘着質と剛力の勝負だ。最悪の形で対峙した時にお互い何をするのか分からん。勝敗は分かっているが、王家の溺愛を集める相手に何かしたら咎を受けるのは分かるだろう」
「黒獅子の功労者に?」
「度を越えた溺愛だ。あちらが口答えできないような形にしたい」
「今でも充分だと思いますけど?」
「このくらい、まだまだ。悪気がないと言い張れば母親と叔父の前陛下は無条件に信じる。宰相の父親はこれ幸いに乗っかる。まだお若い陛下は強く抗えない。鷺を烏と言えば烏となるのを目の前で見たいか?」
「…厄介だな」
このくらいなら溺愛の彼らは許す。
盗られた手紙を取り返して突きつけられるなら。
それも弱いだろうか?
迷惑被ってるのは私達なのに。
皆で席に着いて運ばれた食事を口にする。普通の団員は自分で運ぶが、上官用のテーブルだと周囲が給仕する。
このテーブルの回りに団員はいない。エドとスミス、リーグも同席し、リーグは小さく身を縮め影に徹している。
「リーグ、お前はどう思う?」
食べながら問うとリーグが驚いて顔をあげた。
「は?俺っすか?」
「ああ、そうだ」
視線を浴びて居心地悪そうに眉を下げる。
「女は慣れてるだろう?」
「そうなのか?」
「女?お前がか?」
こいつの身持ちの固さを知るスミスとエドが目を見開いて驚いている。
ラウルは意外だと驚いて、それから軽蔑を浮かべて微かに鼻白んだ。
「誤解をされるようなこと言わないでくださいっ。実家が繁華街で飯屋をしていて、チビの頃から商売っけのある女を見慣れているだけっす」
「で、その経験から意見はあるか?逃げるなよ?」
じろっと睨めば観念して口を開いた。
先程から飄々とした顔でこちらの話を黙って聞いている。刃傷沙汰を見慣れている経験からか、会話の折に触れて微かに首肯し、納得した気配を漂わせていた。
「…あー。…ああいう人いるなぁーって。男も女も。執着が強すぎる人。余裕がなくて、相手の都合を無視する所とか…そういう人って情人を家から出さずに囲い混むとか。仕事を辞めさせるとか人と会わさないとか…。相手に対して我慢が効かないんすよねー。最悪、誘拐とか刃物持ち出すとか。いわゆる過激派っす」
「あしらい方はあるのか?」
「俺の話なんか参考にはなんないっすよ?どうやってんのか知らないけど、上手い奴はそういうのをズルズル金蔓にして最後はポイっす」
「恨まれたらどうすんだ?」
エドの質問にスミスが頷いて、リーグは目を丸くした。
「そんなの知ってるでしょうに。店の女達には用心棒がいますからね。女が言えば入り口で男をぼこぼこにして終わりっす。それでもしつこいと裏の奴らがあらわれて海の藻屑っす。用心棒がいない一般人は働き口や住む場所を変えます。最悪、存在を消すって感じで街の外へ逃亡っす。よくある話っすよ」
「そうだな。珍しくはない」
時折、街の警備から報告が来る。
二人とも頭から抜けていたのか思い出したように納得した。
「でしょ?だから俺の話なんか意味ないっすよ」
「そうでもない。自分の執着に我慢が効かなくて相手を思い通りにするのを好み、姿が見えなくなるまで追い回すと分かった。経験者のお前からはそれと同類に見えると言うわけか」
「あー、そうっすね。あの人目を憚らず突進するのとかやべぇっすよ。貴族でしょうに。でも経験者は否定しますよ?見慣れてるだけっす」
「人間について詳しいなぁ、リーグ」
ラウルが感心し見つめるのを困った顔で首をかしげる。
「こんなの知っててもどうかと思いますよ。夜のことばっか。それだって知ってるうちに入んねぇし。もっとすごい人いるし。団長とか」
以前、言い当てたことを言ってるのかと思ってリーグに目線を向ける。
「団長なら女じゃなくても王都一になりそうっす。それかぜげん、あで!」
スミスに叩かれて頭を抱えた。
「結局目線はそこか!多少感心したのに!」
「いてて、庶民ならっすよ?」
「あり得ん!」
「頭固いっすね。もっともしかしたらと想像して動かなきゃ。だからラウルの気持ちが分からないんすよ?言っておくけど先輩も執着を我慢できないタイプっすからね?気をつけてください」
「はあ?!大きなお世話だ!」
「もう少し相手を見て動かないと嫌われますよ?ね、ラウル?」
「…本当だよ。…リーグがいなきゃ今日も1日うんざりしてた」
顔をしかめてスミスを睨み付けて怒っている。
「団長の例え話だって、もし自分より身分が低かったらそういう態度っしょ?」
「そうだろうね?俺のことだって、最初は庶民の田舎術師と馬鹿にしていた。変わり身が早いよ。…あり得ない」
「ら、ラウル。謝って許してくれたじゃないか?そんな、」
「許していたけど許されてもう終わったつもりの態度がムカつきます。そのくせこっちは嫌がってるのにぐいぐい来るし。…俺は主に全てを捧げてるっつってるのに聞いちゃいねぇ。…その耳は飾りかってんだ」
「お疲れっす」
「今日はありがとうな。助かった」
「いえいえ、あれはあんまりかと思ったんで。役に立ったなら良かったっす」
二人で黙々と止まっていた食事を始めて、スミスがおろおろとラウルにまとわりつく。
天幕の外から聞こえた声に身が固まる。
見張りに止められながらも無理やり入ろうと垂れを引いて顔を出すので目が合った。
「うおお、睨まれた。目が合った。団長、離せってのっ、絡まれるじゃねぇか」
「ああ、悪かった。悪ふざけが過ぎた」
さっと手を離して距離をとった。
「出れねぇし、どうすんだよ。これ」
「さすがに騒ぎすぎた。仕方ないから打ち合わせを続けるか」
「この状況でかよ?」
「ああ、構わないだろう。いなくなるまで時間かかる。必要ならあちらに鳥を飛ばせ」
さっさと地図に向き合い、ラウルを手招きすれば、仕方ないとラウルも観念し、エドらも交えて討伐と観察の予定を大まかにたてた。
「あー、もう戻りたいのに。まだ騒いでる。…主に連絡入れとかなきゃ」
ぶつぶつと文句を言いながら手から鳥を飛ばした。
その間も入り口の喧騒はいつまでも響いていて、げっそりとやつれた見張りが声をかけるまでにかなり綿密な予定がたてられた。
「食事に行くか」
辺りは薄暗くちょうど夕飯時。あちらも諦めて食事に行ったようだった。
立ち上がって皆で食事処へ向かうことにした。
ちょうどエヴ嬢の来るタイミングでもあり、ラウルとリーグもそこで合流すると話す。
「どうにか追い返せないんですか?」
「手だてが思い付かん」
先程の荒ぶりが落ち着いてからは口調が変わった。小さく声をひそめて顔を寄せる。身長差から私も屈めて話をした。
「バレたからって、実際どうなりますか?か弱いわけでもないし、こちらの身分が低いわけでもない。何が出来るって言うんですか?暗殺ですか?」
少し鼻で笑った気配に眉をしかめる。
「そんなことに負けるとは思っていない」
徒党を組んで襲われたとしても、武力としての優位は確実にエヴ嬢だ。だが、今回は腕力だけでは困るのだ。
「逆の心配をしている。粘着質と剛力の勝負だ。最悪の形で対峙した時にお互い何をするのか分からん。勝敗は分かっているが、王家の溺愛を集める相手に何かしたら咎を受けるのは分かるだろう」
「黒獅子の功労者に?」
「度を越えた溺愛だ。あちらが口答えできないような形にしたい」
「今でも充分だと思いますけど?」
「このくらい、まだまだ。悪気がないと言い張れば母親と叔父の前陛下は無条件に信じる。宰相の父親はこれ幸いに乗っかる。まだお若い陛下は強く抗えない。鷺を烏と言えば烏となるのを目の前で見たいか?」
「…厄介だな」
このくらいなら溺愛の彼らは許す。
盗られた手紙を取り返して突きつけられるなら。
それも弱いだろうか?
迷惑被ってるのは私達なのに。
皆で席に着いて運ばれた食事を口にする。普通の団員は自分で運ぶが、上官用のテーブルだと周囲が給仕する。
このテーブルの回りに団員はいない。エドとスミス、リーグも同席し、リーグは小さく身を縮め影に徹している。
「リーグ、お前はどう思う?」
食べながら問うとリーグが驚いて顔をあげた。
「は?俺っすか?」
「ああ、そうだ」
視線を浴びて居心地悪そうに眉を下げる。
「女は慣れてるだろう?」
「そうなのか?」
「女?お前がか?」
こいつの身持ちの固さを知るスミスとエドが目を見開いて驚いている。
ラウルは意外だと驚いて、それから軽蔑を浮かべて微かに鼻白んだ。
「誤解をされるようなこと言わないでくださいっ。実家が繁華街で飯屋をしていて、チビの頃から商売っけのある女を見慣れているだけっす」
「で、その経験から意見はあるか?逃げるなよ?」
じろっと睨めば観念して口を開いた。
先程から飄々とした顔でこちらの話を黙って聞いている。刃傷沙汰を見慣れている経験からか、会話の折に触れて微かに首肯し、納得した気配を漂わせていた。
「…あー。…ああいう人いるなぁーって。男も女も。執着が強すぎる人。余裕がなくて、相手の都合を無視する所とか…そういう人って情人を家から出さずに囲い混むとか。仕事を辞めさせるとか人と会わさないとか…。相手に対して我慢が効かないんすよねー。最悪、誘拐とか刃物持ち出すとか。いわゆる過激派っす」
「あしらい方はあるのか?」
「俺の話なんか参考にはなんないっすよ?どうやってんのか知らないけど、上手い奴はそういうのをズルズル金蔓にして最後はポイっす」
「恨まれたらどうすんだ?」
エドの質問にスミスが頷いて、リーグは目を丸くした。
「そんなの知ってるでしょうに。店の女達には用心棒がいますからね。女が言えば入り口で男をぼこぼこにして終わりっす。それでもしつこいと裏の奴らがあらわれて海の藻屑っす。用心棒がいない一般人は働き口や住む場所を変えます。最悪、存在を消すって感じで街の外へ逃亡っす。よくある話っすよ」
「そうだな。珍しくはない」
時折、街の警備から報告が来る。
二人とも頭から抜けていたのか思い出したように納得した。
「でしょ?だから俺の話なんか意味ないっすよ」
「そうでもない。自分の執着に我慢が効かなくて相手を思い通りにするのを好み、姿が見えなくなるまで追い回すと分かった。経験者のお前からはそれと同類に見えると言うわけか」
「あー、そうっすね。あの人目を憚らず突進するのとかやべぇっすよ。貴族でしょうに。でも経験者は否定しますよ?見慣れてるだけっす」
「人間について詳しいなぁ、リーグ」
ラウルが感心し見つめるのを困った顔で首をかしげる。
「こんなの知っててもどうかと思いますよ。夜のことばっか。それだって知ってるうちに入んねぇし。もっとすごい人いるし。団長とか」
以前、言い当てたことを言ってるのかと思ってリーグに目線を向ける。
「団長なら女じゃなくても王都一になりそうっす。それかぜげん、あで!」
スミスに叩かれて頭を抱えた。
「結局目線はそこか!多少感心したのに!」
「いてて、庶民ならっすよ?」
「あり得ん!」
「頭固いっすね。もっともしかしたらと想像して動かなきゃ。だからラウルの気持ちが分からないんすよ?言っておくけど先輩も執着を我慢できないタイプっすからね?気をつけてください」
「はあ?!大きなお世話だ!」
「もう少し相手を見て動かないと嫌われますよ?ね、ラウル?」
「…本当だよ。…リーグがいなきゃ今日も1日うんざりしてた」
顔をしかめてスミスを睨み付けて怒っている。
「団長の例え話だって、もし自分より身分が低かったらそういう態度っしょ?」
「そうだろうね?俺のことだって、最初は庶民の田舎術師と馬鹿にしていた。変わり身が早いよ。…あり得ない」
「ら、ラウル。謝って許してくれたじゃないか?そんな、」
「許していたけど許されてもう終わったつもりの態度がムカつきます。そのくせこっちは嫌がってるのにぐいぐい来るし。…俺は主に全てを捧げてるっつってるのに聞いちゃいねぇ。…その耳は飾りかってんだ」
「お疲れっす」
「今日はありがとうな。助かった」
「いえいえ、あれはあんまりかと思ったんで。役に立ったなら良かったっす」
二人で黙々と止まっていた食事を始めて、スミスがおろおろとラウルにまとわりつく。
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