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匂袋
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「だ、団長、本当にちょっと待ってくださいよ。どういうことっすか?」
「あちらと友好的だと耳にしている。居心地は良かろう。行ってこい」
「…いや、なんで急に?…俺、いらないんすか?」
半泣きに捨て犬のような情けない表情を浮かべ、さすがにやり過ぎたと説明の不足を反省した。
「そんなわけあるか。水辺の討伐の時は戻す。あちらが体術に興味があるそうだから教えてやれ。お前の人格なら任せられる。エドとスミスは他の仕事があるからな。それとお前が両団の潤滑剤となるのは歓迎だ」
スミスに比べて暇だろうがと言うと諦めて了承した。
「だが、伝言のひとつも満足にやる気を出せないのなら帰ってこなくていいと思っている。戻りたいと思うなら陸上ももう少し役立つようになれ。鍛えてこい」
「え?はっ、それは、本当にすいませんでした!」
勢いよく頭を下げた。
こいつはやる気のなさだけが問題なんだ。
「ああ、反省しろ。かなり怒っているからな?」
震えながら再度、謝罪を口にした。
「じゃあ、リーグはしばらく預かりますね」
「ああ。構わん。夜はこちらに戻せばいい。それと魔素溜まりだが、どうやって調べる?日程を組むのに必要なものや日数は?ある程度、予測をつけたい」
「そうですね、今は経過観察しか思い当たりません。二ヶ所の共通点を洗い出してからかなぁ」
「スミス、お前の意見はあるか?」
どもった様子にそこまで何か思い付くものはないらしい。ないなら構わんと声をかけて二人で話を再開する。
「次の予測も出来ないと言うことだな。減少傾向の魔素溜まりは見当たらなかったか?明日、新しく探索に行かせるべきか?」
ラウルと頭を付き合わせて机に地図を広げて話を広げる。
魔獣討伐もそろそろ開始すると言うと、合間でどう探索に向かうか、隊列の人数、時期をどうするかと疑問が尽きない。
「詳しく計測出来る者が少ない。その対策も。そちらの護衛もある。どう遣り繰りしたものか」
ふと、近かったラウルからいい匂いがしたので、軽く寄せてすんすんと鼻を鳴らす。
「匂いが移ってる」
「ああ、そりゃそうでしょうね。ちょっと、顔が近い。嫌なんですけど」
気持ち悪そうに逃げるところ、匂いが惜しくて肩を引き寄せた。
「待て、匂わせろっ」
「はあ?!ふざけんなっ」
「こっちは我慢させられてるんだ。頭を貸せ」
がしっと頭を両手で挟んで髪についたエヴ嬢の匂いを嗅ぐとラウルがぎゃーっと叫んだ。
「対面は嫌だ。気持ち悪い。背中を向けろ」
「おい!こら!こんの、馬鹿犬!」
「ちょ、ちょっと団長、ラウル、」
横でエドがおろおろと止めに入るが気にせずラウルの肩をぐるっと回して、無理やり後ろから頭だけを掴んで、すーっと嗅いだ。手を伸ばして顔を押し退けるが私の方が力が強い。手のひらが光る気配に片手で両手をまとめて、首に腕を巻いて羽交い締めにする。
「ああ、早く会いたい」
「離せっての!やめろよ!」
「大丈夫だ。ラウル目当てではない。番の匂いが移ってるのが悪い」
「キモいんだよっ」
匂いを嗅ぐだけで尻尾がバタバタ揺れる。
ふと見るとスミスが死んだ目でこっちを見ていた。
「なんだ?」
「…団長、ひどいです。ラウルを、リーグと仲良くさせて、しかも団長までそんな近くに」
「人徳だ」
リーグに関してはこれだ。
私はただ番の匂いを嗅ぎたいだけだ。
「ち、げぇ、よ!無理やりだろうが!」
ぎゃいぎゃい騒ぐラウルを捕らえたまま、エヴ嬢の匂いにすんすんと鼻を鳴らす。
「お前は今日帰ったら会えるだろうが。私はしばらく会えないんだぞ?頭くらい貸せ」
「だぁぁ!嫌だっつーてるのに!」
「団長ぉぉ!ひどいですぅぅ!」
「てめぇまで混ざってくるな!せめてこいつがいない時にしてくれよっ」
向かいから抱きつこうとするスミスの腹を蹴りとばして必死で逃げてる。
「お?ならしばらく匂袋になってくれるのか。助かる」
「あっ、くそ!口で嵌めやがってっ!このいかさまやろぉ!二枚舌!」
「お前が勝手に言った。嵌めてはいない」
「ちょっと団長、もう少し威厳を持ってください!」
叱責を飛ばしながらエドが割り込んでくる。
「エド、番が絡むとこんなもんだ。諦めろ」
「団長おおおっ、開き直らないでくださいよおおおっ」
空気に徹するリーグはこのやり取りを遠い目で眺めていた。
「あちらと友好的だと耳にしている。居心地は良かろう。行ってこい」
「…いや、なんで急に?…俺、いらないんすか?」
半泣きに捨て犬のような情けない表情を浮かべ、さすがにやり過ぎたと説明の不足を反省した。
「そんなわけあるか。水辺の討伐の時は戻す。あちらが体術に興味があるそうだから教えてやれ。お前の人格なら任せられる。エドとスミスは他の仕事があるからな。それとお前が両団の潤滑剤となるのは歓迎だ」
スミスに比べて暇だろうがと言うと諦めて了承した。
「だが、伝言のひとつも満足にやる気を出せないのなら帰ってこなくていいと思っている。戻りたいと思うなら陸上ももう少し役立つようになれ。鍛えてこい」
「え?はっ、それは、本当にすいませんでした!」
勢いよく頭を下げた。
こいつはやる気のなさだけが問題なんだ。
「ああ、反省しろ。かなり怒っているからな?」
震えながら再度、謝罪を口にした。
「じゃあ、リーグはしばらく預かりますね」
「ああ。構わん。夜はこちらに戻せばいい。それと魔素溜まりだが、どうやって調べる?日程を組むのに必要なものや日数は?ある程度、予測をつけたい」
「そうですね、今は経過観察しか思い当たりません。二ヶ所の共通点を洗い出してからかなぁ」
「スミス、お前の意見はあるか?」
どもった様子にそこまで何か思い付くものはないらしい。ないなら構わんと声をかけて二人で話を再開する。
「次の予測も出来ないと言うことだな。減少傾向の魔素溜まりは見当たらなかったか?明日、新しく探索に行かせるべきか?」
ラウルと頭を付き合わせて机に地図を広げて話を広げる。
魔獣討伐もそろそろ開始すると言うと、合間でどう探索に向かうか、隊列の人数、時期をどうするかと疑問が尽きない。
「詳しく計測出来る者が少ない。その対策も。そちらの護衛もある。どう遣り繰りしたものか」
ふと、近かったラウルからいい匂いがしたので、軽く寄せてすんすんと鼻を鳴らす。
「匂いが移ってる」
「ああ、そりゃそうでしょうね。ちょっと、顔が近い。嫌なんですけど」
気持ち悪そうに逃げるところ、匂いが惜しくて肩を引き寄せた。
「待て、匂わせろっ」
「はあ?!ふざけんなっ」
「こっちは我慢させられてるんだ。頭を貸せ」
がしっと頭を両手で挟んで髪についたエヴ嬢の匂いを嗅ぐとラウルがぎゃーっと叫んだ。
「対面は嫌だ。気持ち悪い。背中を向けろ」
「おい!こら!こんの、馬鹿犬!」
「ちょ、ちょっと団長、ラウル、」
横でエドがおろおろと止めに入るが気にせずラウルの肩をぐるっと回して、無理やり後ろから頭だけを掴んで、すーっと嗅いだ。手を伸ばして顔を押し退けるが私の方が力が強い。手のひらが光る気配に片手で両手をまとめて、首に腕を巻いて羽交い締めにする。
「ああ、早く会いたい」
「離せっての!やめろよ!」
「大丈夫だ。ラウル目当てではない。番の匂いが移ってるのが悪い」
「キモいんだよっ」
匂いを嗅ぐだけで尻尾がバタバタ揺れる。
ふと見るとスミスが死んだ目でこっちを見ていた。
「なんだ?」
「…団長、ひどいです。ラウルを、リーグと仲良くさせて、しかも団長までそんな近くに」
「人徳だ」
リーグに関してはこれだ。
私はただ番の匂いを嗅ぎたいだけだ。
「ち、げぇ、よ!無理やりだろうが!」
ぎゃいぎゃい騒ぐラウルを捕らえたまま、エヴ嬢の匂いにすんすんと鼻を鳴らす。
「お前は今日帰ったら会えるだろうが。私はしばらく会えないんだぞ?頭くらい貸せ」
「だぁぁ!嫌だっつーてるのに!」
「団長ぉぉ!ひどいですぅぅ!」
「てめぇまで混ざってくるな!せめてこいつがいない時にしてくれよっ」
向かいから抱きつこうとするスミスの腹を蹴りとばして必死で逃げてる。
「お?ならしばらく匂袋になってくれるのか。助かる」
「あっ、くそ!口で嵌めやがってっ!このいかさまやろぉ!二枚舌!」
「お前が勝手に言った。嵌めてはいない」
「ちょっと団長、もう少し威厳を持ってください!」
叱責を飛ばしながらエドが割り込んでくる。
「エド、番が絡むとこんなもんだ。諦めろ」
「団長おおおっ、開き直らないでくださいよおおおっ」
空気に徹するリーグはこのやり取りを遠い目で眺めていた。
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