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相談

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報告をするとジェラルド伯はこめかみをグリグリと押さえて呻いていた。

「…次から次にぃ…ああああ」

「申し訳ありません」

「…昨日の件ですぐに帰ると思ったのですが、なかなか根性のあるご令嬢ですね」

ロバート殿は遠い目をして呟いた。
王家筋に当たる高位貴族の令嬢が横恋慕を画策し、エヴ嬢に敵意があると周知した上でこちらと同じ箝口令を敷くことになった。私の家名と同様、クレイン領でペリエ嬢の名は知られていなかった。

「あぁ、どうせなら城内に娘を置きたい。なのに、いるのはあれだ。はぁ」

「湯あみなどがあるから城内を自由に行き来されるでしょうね。エヴは今まで通り天幕に置いておきましょう」

「ああ、しかも腹が立つことに娘の部屋を気に入り勝手に居座ってる。この未曾有の中でやっと修繕がすんだのに。許せるか?ロバート…」

「…は?…エヴの部屋に?」

「昨日の部屋を気に入ったと言うので案内した客間のことかと思ったら娘の部屋だ。勝手に入り込んでなんと無作法な。…あれのために用意したのではないというのに」

拳を握りしめて顔を赤く髪の毛を逆立てた。
あれはそういう娘だと納得した。

「娘の部屋だから遠慮を願うのに自分に似合うと呑気に。似合うのは娘にだ。あんな夜中に忍び込むようなあばずれにではない」

ふつふつと怒りに揺れて言葉が多くなり、対照的にロバート殿は温度の下がった表情で空気を冷たく凍えさせている。

「…天幕に居座る気なら部屋を使うのは控えるでしょう。それと以前、私に用意した部屋を提案されてはどうですか?私の部屋だと言えば喜んで移動するかもしれません」

一番広い客間を用意していただいた。使用していないとは言え、まだ私が滞在中なので残してるはずだ。

「…試してみましょう」

ロバート殿は低く答えた。
朝の騒動で疲れた。
話し合いを終えたら、クレイン領の陣営を抜けた。途中、隊列の準備が整ったと報告が届く。
自身も探索に出るはずだったのに予定より大幅に遅れている。天幕から荷物の運び出しが終わったか確認もまだだ。
今、身に付けているのは軽装の革鎧。
胸当てと胴のみ。
今からの支度を考えるとまた遅れてしまう。諦めて先にラウルとスミスらを含めた隊列を送り出させた。大型と対峙できるラウルがいるなら戦力として不満はない。
空腹に気がつき大幅に遅れて人の少ない食事処へと着くとエヴ嬢がヤンとダリウスを連れて帰るところだった。
離れていたのにわざわざこちらへと寄って微笑んでくれた。

「団長、今日は遅いんですね」

「ああ、あなたも」

珍しい。
この時間帯なら済ませて天幕に戻っている頃だ。討伐があるならもう隊列に加わって並んでいる。

「私は今日もお休みなのでやることなくって。急ぐことないからゆっくりご飯に来ました。食べるのもゆっくりです」

「そうか。約束をすまなかった」

休みと言いながらいつも通り革鎧を身に付けて、おっとりした笑みに芯から癒された。

「あの、きっとまた時期を見て教えてくれるってリーグが言ってました。本当かなって聞きたくて」

もじもじと期待と不安の混じった瞳で見つめられて顔が赤くなりそうだった。

「ああ、甲冑を着たまま泳げるようにする約束だった。ダリウスももう一回くらいやりたいだろう?模擬戦を」

エヴ嬢を見ていられずダリウスへ視線を移して拳を見せると黙って頷いた。
いつもより穏やかに目を細めている。

「少しヤンを借りれるか?」

「どうぞ」

「先に戻ってくれ」

「え?待ってようかと思ってたんですけどだめですか?予定もないし」

「このあと、旦那様のところへ行くのでお待ちにならないで天幕へお戻りください。今日は久しぶりにお勉強を致しますよ?随分机から離れていたので復習から」

「はぁい」

ヤンに促されて素直に頷いた。テーブルの隙間を縫ってふたりはゆったりと離れていく。

「リーグから話は伝わったか?」

「はい。心労はいかばかりかとお察し申し上げます」

揶揄することもなく同情を浮かべて眉を下げる。
ラウルにもだが、意外とこういうことには同情的になる。

「私もご相談したいことがあったのでちょうど良かったです」

「先に言え」

「はい」
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