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荷運び

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「天幕にいるのはペリエ・パティ嬢だ。彼女の滞在期間、全団員に箝口令を敷く。番に関する一切の口外を禁ず。番への害だと理解しろ」

興味津々だった周囲がざわついた。ペリエ嬢の執着は有名で、皆は私が嫌っているのを分かっている。夜這いをかけられハメられたと思ったことだろう。

「破れば大型魔獣の討伐を一人でさせてやろう。運が良ければ命はある。だが、それでも許す気にならん。寿命が尽きるまで延々いたぶってやる。団を辞めて逃げられると思うな。我が身が大事ならば独り言も酒の肴にもするな。頭から忘れろ」

心当たりに青ざめる数人がいた。

「身分を傘に従わす相手に迎合するな。王都騎士団のお前らに唯一命令を出来るのは誰だ?全員で言ってみろっ」

「カリッド・グリーブス団長です!」

一斉にざっと姿勢を正し、胸に手を当てる全員の唱和を確認し、側のエドと向き合い話を続ける。

「クレイン領側には私が行きますか?」

「エドは女達の指示に残れ。中で女騎士が抜刀せんとも限らん。外の私兵共も信用ならん。複数で天幕越しに待機しろ。あちらの陣営にリーグを使いにやれ。いや、私が行く。リーグはラウル達のもとだ」

この時間帯ならあちらの陣営に主要上官のジェラルド伯ら全員揃っているはず。

「来い、リーグ」

さっと人だかりから飛び出してきた。
青ざめたまま膝をついた。

「まずはヤンかラウルに箝口令と事の顛末を伝えろ。報告は判断に任すと言えば分かる」

「はっ!」

「こちらへの訪問は禁止だということも。私も控える。本人に伝えて謝罪をして来い。不快を与えぬよう上手くやれ」

走れと言えばすぐさま走って行く。

「運び出した書類と甲冑は、」

「お前の天幕だ。しばらく寝泊まりもそこにする。お前は移動するなよ?一人になるわけにはいかないのだから」
「分かりました」

騎士の礼を続ける団員らに解散と告げて、クレイン領の陣地に行こうとして土下座し続ける見張りに目を向けた。
見ると蹴りたくなるから治療に行けと追い払う。

「待て。ヤン達から私の所在を聞いたのはお前らか?」

たたらを踏んで立ち止まり、仲間の肩に寄りかかって立ち上がる二人に問うと頷いた。

「なぜエドに知らせなかった?伝言の内容もだ。詳しく聞きたい」

「ダリウス殿から話が弾んで遅くなると聞いたので、それは副団長に告げました。二回目にラウル殿が来られて魔人の見張りに参加されるのであちらの天幕で朝まで過ごすと聞きましたが、副団長は夜半の見回りに行かれていたのでお知らせが遅れました。どちらも私共以外にまだ人はいたのでお二人を見た者がいます」

星の位置と就寝の鐘の音を参考に正確な時刻と誰が側にいたか、ダリウス達の話を聞いた者を答えた。同衾したと虚言を騒がれる前にヤン達以外の証言が欲しかった。潔白の証明に使うので名が分かる者は書面にしとけと告げると頭を下げた。

「それと誰もいない夜更け過ぎにガウンを羽織ったご令嬢とお付きの女達があらわれました。装いからも高位と分かりましたので騒ぐのも力ずくで止めることも躊躇しました。…入り口で揉めていたら、どなたか分かって、申し訳ありません。口止めされて。…高位のご令嬢の、あ、あんな行いを口にするのは憚られて副団長への報告もすることも戸惑ってしまった。…本当に…どうすればよかったのか」

見張りは真面目な若い男だ。
相手が商売慣れした女ならもう少し慌てずに対応出来たのかもしれん。

「あれが王都へ戻り次第、減刑を検討する。突飛な状況だと理解した。態度によっては元に戻す。今は治療だ。行け」
「はい、ありがとうございます」

新入りでも貴族の男が荷運びなどあり得ない。
かなり重い罰ではあった。
それにおそらく私の蹴りで骨が折れたろう。
さっさとあれが帰るなら荷運びなどせずに済むが何時までも居座るなら、いずれ完治後に荷運びを生業にする庶民出の男らに囲まれて過ごすことになる。
踵を返し急いでグリーブス領陣営に向かった。
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