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対決

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スミス達と合流し、甲冑を脱いで各々腰巻きのみか簡単な着衣へと変えて支度をする。
用意している得物はないということで素手で行うことにした。
勝敗は片方が降参をするか、ロープの輪っかを手か足に緩く結び、それを奪った方の勝ち。
結びは紐自体を引っ張れば簡単に抜けるように、紐の片側を結んで反対は垂らすとうい形にした。
大事なことでもし水中なら必ずタップをしろ、相手の抵抗が消えたら気を付けろと説明をする。
模擬戦で死んでもらっては困る。
簡単な見本としてスミスと私が対決することに決めて支度をした。

「ハンデは?」

「そうですね。片手でどうでしょう?」

「勝つ自信あるが」

体格の差がある。
しかも獣化して腕力が倍に上がった。
解いてもかなり力が強い。
手のひら分の長さにたるませたロープで手首を短くつなぐ。そうやって稼働範囲を狭めた。
私としては隙間なく両手を繋げても良かったが。
これで勝てたらまた他のハンデを考えておこう。
浅瀬から深いところまでを範囲に指定してハンデの重さに悔しそうなスミスと向かい合う。
腰の深さまで進むと対岸の浅瀬からリーグがこちらを指さしてエヴ嬢と観戦していた。
これは張り切らねばと一瞬、気がそれた。
笑顔で手を振るエヴ嬢に見とれて開始の合図に気付かず、スミスからの一発を顔に食らって横倒れに水中へ沈んだ。
油断した反省をしているとスミスは上からのし掛かって私の腕の輪っかを掴んだ。
このまま引けば取れるが簡単にやるつもりはない。
対面のまま、がっと腹を蟹挟みに足を巻いてスミスと身体を反転させたら、水底に縫いとめる。
握られた輪っかがほどけないように、膝と腕で掴んだ手を挟みに鳩尾を強く押せば空気が勢いよく吹き出す。
タップをする暇もなかろう、なら手を緩めるかと瞬時に考えたが、根性で握り続けるロープの感触に感心してもう一度強く鳩尾を押すと指の力が抜ける。それから悠々と紐を奪った。

「私の勝ちだ」

抜いた紐を持ったままスミスを引き上げてやると、げえげえと水を吐いた。

「狙いは悪くなかった。よくやった」

私がよそ見している隙をついて躊躇なく一気に攻めた所は良かった。
誉めるとえずきながら頷いた。
見本を終えた私達は監視に回って三人の交代制の対戦を見学する。
ラウルとヤンの組手では、やはり息継ぎの苦手さからヤンが負けた。
水中に持ち込まれたら不利だった。
この中なら安定してダリウスの圧勝だ。
二人に比べて腕力が違う。
素手のルールで能力を使うとヤンだろうか。
それとも術式を自在に操るラウルか? 
得物があったら剛力のダリウスと素早さのあるラウルの絡みはどうなるのだろう。
色々と想像が膨らみ興味深い。
今もお互いの得手不得手を理解した戦いは面白かった。

「団長ー、すいませーん」

リーグの声に振り替えると、ザブザブと水を掻き分けて寄ってきた。
奥を見ると焚き火の側に毛布にくるまったエヴ嬢が暖を取っている。

「どうした?」

「エヴ嬢はもう抜けていいっすか?誰か天幕への送りに戻してほしいんすけど」

それならと、三人のうち誰か行ってこいと告げるとダリウスがヤンに行けと答えて、昨日の執着した様子から意外に思えた。
エヴ嬢とヤンが抜けると私の方へダリウスが寄ってきた。

「指導、願えませんか?」

「…わかった」

ラウルの忠告のこともあり、一瞬躊躇したが受け入れた。
いつもの無表情を装うが、この目付きから指導というより果たし合いだと感じたからだ。

「ハンデは?」

「いいえ。初めての対決です。無しでお願いします」

差があれば次からと答える。
そうと決まれば中央へ向かい、対峙する。
お目付け役のヤンと歯止めのエヴ嬢がいない間に決着を着けたいのだろう。
ラウルがキツく睨むが、ダリウスは目を合わさない。
ここで答えねば侮られる。
緊張感と、そして楽しみも感じた。
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