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指導

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せめて、子が望めぬとも夫婦の触れ合いがなくとも、それでも夫婦になれると伝えればよかっただけのこと。
今は育った不安に呑まれて言葉が届かなくなっている。
ああ、なんという。なんという役立たずどもめ。

「…色々と思うところがあったんだな」

とぐろを巻く内心を隠して怖がらせぬように兄君のロバート殿のような声を意識した。目を柔らかく細め、顔を合わそうとしないエヴ嬢の小さな形のよい頭頂を見つめた。

「お父様とお兄様は昔からずっと領地にいればいいって言ってたし、私もそっちがいい。お嫁さん、大変そうですもん」

「っ!」

ここでダメだと騒いでも怖がって嫌がりそうで言葉をだせない。
今は、頑ななだけだと頭の中で強く唱え、これからどうするか考えを巡らせる。

「私と、というより自分が結婚すると考えることが嫌か?」

こくりと頭が揺れる。
私を嫌ってるわけではないと思えば多少は頭に昇った血が落ち着く。

「グリーブスの栄誉を答えなきゃいけないのはわかります。でも、今はお母様に相談しないとわからないです。お母様は縁があれば結婚するっていつも言ってたんです。お勉強とか将来の旦那様の為にがんばりなさいって。みんなと違うこと言うから。私も知らなかったし。お母様にどうしたらいいのか聞きたいです」

「…ふーっ。…そうだな。…それから考えるといい」

エヴ嬢の結婚に前向きさをお持ちのお母上だ。
厳しさもあられるようだし、上手く諭すかもしれない。

「あなたのお母上にお会いしてみたい。どんな方だ?」

「お兄様に似てます。顔のこの辺とか髪の色とか」

話を変えたことでニコニコと笑った。
やっと笑ったとホッとする。

「そうか。私のことを気に入って貰えたらいいが」

「あ、お母様は私より強くて頑丈な人がいいって言ってました。いざとなったら相手が危ないからって。団長なら私より強いので喜びます」

「そうか」

頑丈さは守護持ちのエヴ嬢よりはないが、黙っておくことにした。
その後は精力を得たおかげか昨日より元気に泳いだ。
しかし、どうにも泳ぎは上達しない。

「…リーグに習うか?」

「え?なんでですか?」

「教えるのが上手い」

剣技の鍛練時から思っていたが、かなり勘が悪い。

「…すいません」

自覚があるようでしょぼくれた。

「私の教え方に問題があるのだろう。リーグなら指導の経験が多い」

団では貴重な水泳鍛練の指導員であり、実家では子供相手の指導をしている。

「へこまなくていい」

私が全部世話をしたいが、今日を入れてあと二日。参加は未定だが討伐までにある程度泳げるようになってもらいたい。
指導者が変わって上達することある。
内心は腹が立つが、スミスも試してみよう。
岩場から頭を出して二人を指導するリーグを大声で呼ぶと駆け寄ってきた。
リーグも即救助に対応出来るように腰巻きひとつの格好だ。

「どうしましたー?」

「エヴ嬢に教えてほしいがどうだ?」

「え?俺っすか?」

「ああ、時間がかかってる」

「ま、ちょっと見てみます」

ラウル達に休憩を伝えてこちらへと移動した。
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