上 下
69 / 315

求婚

しおりを挟む
「分かっているなら私と結婚してくれ。一刻も早くだ」

「え、無理」

「は?」

両肩を掴み喜色満面に頼んだ途端、真顔で横に首を振るのでまた頭がぐわんと揺れた。
なぜと口を動かすが声にならない。

「私じゃダメですもん。おかしいから」

「ダメなわけないだろうっ!何を言っている?!」

私の番なのだ。
色魔がいようがヤン達がどれだけ岡惚れしようが構うか。
声を荒げたせいで、びくっと揺れて怯んだ。

「大声をすまない。だが、なぜだ?」

「だって、守護持ちはお嫁さんのお仕事が出来ないから結婚できないって皆が言ってたから。旦那様に答えられないし、子供も出来ないから無理って。何にも出来ないのに結婚するのおかしいでしょう?」

優しく謝りつつも私の強い圧に半泣きで懸念を露吐する。
守護持ちの女性は未婚ということも理解していて戸惑ったのだろうと察した。
このまま強引に話を推し進めたいが禍根を残す形は避けたい。
少しでも非があればジェラルド伯とあの三人、エヴ嬢を慕うクレイン領の全ての者達が全力でエヴ嬢を囲う。
クレイン領のみのらずエヴ嬢自体にも黒獅子を退けた功績からこちらの要求を突っぱるだけの影響力がある。
あの夜のうちにグリーブス家宛に現状と番の報告を送り、先日、父である統主からの私信が届いた。
端的に、自身で解決せよと綴られていた。
遠い辺境へ影響を与えることが難しく、また王宮より認められたクレイン領への敵対は絶対許されぬこと、そしてエヴ嬢の武人としての能力の高さから積極的に公爵家へと囲い混むことも周囲への反発を生むと。
何としてもエヴ嬢本人が私を伴侶と望む形を目指さねばならない。

「それを気にしていたのか。あなたが守護持ちであろうと何の問題もない。私が死ぬほどあなたを愛してるから。あなた以外欲しくないんだ。それに世の中には色んな夫婦がいるのだから気にしなくていい」

噛み砕いて諭すも渋い表情に納得していないと分かる。
ここからどう不安を崩すか言葉を選ぶが思い浮かばない。

「それで皆というのは誰だ?」

「団の皆です。鬼ごっこの時。守護持ちの女性が結婚してどうなるのかって話になって、私も知らないから聞いたんです。守護持ちは旦那様のお世話が出来ないとか子供が絶対出来ないとか知らなくて。自分が子供を産むって考えたことなかったんです。ごめんなさい、女の人が子供を産むのはちゃんと知ってたんですけど」

「いや、子供が出来なくても問題ない。私の世話なんて何もない。あなたがいればそれだけでいい」

先程のことがあるだけで充分とは口に出来ない。
この場であれが世話の一部になるとどう説明する。

「副団長も、問題ないって言ってたけど。でも私どうすればいいかわからないし、向かないなら結婚したくないです。グリーブスの栄誉だけど。お嫁さんって分かってるけど、お嫁さんになりたくない。…お父様も心を強く決めてからって言ってたし」

下げた眼差しと頑なさからどうにもならないと観念し、エヴ嬢に感情のぶつける前に怒りの矛先をあいつらに向けた。
あいつら締める。
自身のことなのに今まで知らなかったのかと驚いたが、ジェラルド伯達は悩ませないように大事に育ててらっしゃったと伺えた。
それなのに、本来なら見ることも許されない高位のご令嬢相手にあいつらは。
ふつふつと腹の底から怒りが沸いた。
特に信用して預けたのにと残念な二人に腹立ちが集中する。
エドとスミスだ。
守護持ちの女性が未婚と言うことは通説なので、遅かれ早かれ知ることなのだから仕方ないとも言えた。
だが、あの二人はエヴ嬢の機微に気づかず、芽生えた婚姻への忌避感を放置したことが問題だ。
ただの世間話と軽く見て私への報告もない。
エドは的はずれな軽口しか言えない口下手だ。
エヴ嬢本人の暴走と回りの軽口に流されて場を治められなかったのだろう。
スミスもあの鈍さで馬鹿正直に周囲へ同調を見せただろう。
二人ともリーグと違い、他人の機微に疎い。
心情に気づくはずがない。
守護持ちなんぞで私がめげてないと言えばよかったことだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

婚姻初日、「好きになることはない」と宣言された公爵家の姫は、英雄騎士の夫を翻弄する~夫は家庭内で私を見つめていますが~

扇 レンナ
恋愛
公爵令嬢のローゼリーンは1年前の戦にて、英雄となった騎士バーグフリートの元に嫁ぐこととなる。それは、彼が褒賞としてローゼリーンを望んだからだ。 公爵令嬢である以上に国王の姪っ子という立場を持つローゼリーンは、母譲りの美貌から『宝石姫』と呼ばれている。 はっきりと言って、全く釣り合わない結婚だ。それでも、王家の血を引く者として、ローゼリーンはバーグフリートの元に嫁ぐことに。 しかし、婚姻初日。晩餐の際に彼が告げたのは、予想もしていない言葉だった。 拗らせストーカータイプの英雄騎士(26)×『宝石姫』と名高い公爵令嬢(21)のすれ違いラブコメ。 ▼掲載先→アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...