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下心

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苦しげに咳き込んで水を吐いたのをじっくり観察し、その間も触れた肌からじわじわと精力が流れる。

「ぁ、ぅ。…またぁ。あぁ、…もうコレやだぁ」

咳が落ち着くと鼻に絡んだ甘い声が耳に当たる。

「エヴ嬢?」

眉をしかめながらも恍惚とした表情から執着に翻弄されて溺れたのかと分かった。そのことに驚いたが、口には出さず心に止める。
ふるりと身体を震わせ、それ以上触れないようにしているのに私の胸や肩にふらふらと手を添えてぎゅっと皮膚を握る。

「吸いたいか」

とろんととけた瞳は焦点が合っていない。
手が柔らかく肌を撫でながら吸っている。
ヤン達は上達したからと、ここから少し離れた流れの速い川縁で泳いでいる。
ここよりも危険な川で練習中なので向こうに集中してるはずだ。そちらから岩場に阻まれて視界が悪い。
その上、あちらから覗いてもこの角度なら私の背に隠れて彼らからエヴ嬢は見えない。
この状況に私もむくむくと邪念が育つ。

「たっぷりやる。隠すから回りに見えない。大丈夫だ」

もう少し奥の、木陰の浅瀬に移動し、胸に顔を隠して精力を乗せた指で唇を撫でるとがぶっと伸ばした二本の指を食んだ。
がしっと腕に捕まり鼻息が荒い。
舌先に乗せるだけのつもりだったのに足らないとばかりに自分から喉の奥へと招く姿に驚きで目が開く。
情欲に塗れた顔で冷たい水に凍えたはずなのに頬を赤らめて、口内が火のように熱い。
どこまでも奥にズブズブと吸い込まれ、圧迫感から眉をしかめ目に涙を浮かべるのに。くふ、くふ、と苦しげに喉を鳴らしながらもまだ口内の奥へと貪欲に求めている。
躊躇のなさにまた機会を作ればいける、他の者を欲しがらないようにたっぷり注がねば、何としても隙をつかねばと下卑た心で唇を舐めて、その姿をひとつも見逃すまいと凝視する。

「んっぐっ、ふっ、ふぅぅっ」

涙を溜めて奥まで飲み込み、私の太い人差し指と中指を口内で味わうようにベッタリと大きく舌を這わせ、剣だこまみれの指の腹を余すことなく舌の腹でざらりざらり丹念に撫でてくすぐり、二本の指の隙間に舌を差し込みぬるぬるとせわしなく動く。

「ん、んっ、んっふ、」

伸ばした舌先で指の又までチロチロとつつかれた。同時にぐねぐねとうねりながら、ぎゅっぎゅっと喉と湿った肉に二本の太い指が繰り返し絞られる。指の口淫だけなのに乱れたその姿と相まって気持ちよさから私も堪えきれずに呻いた。
下品にも、自身の雄をここに入れたらどれだけの快感かと頭をよぎる。

「…ん、ふぅ、はあっ、」

息切れから口淫を止めて指が押し返されるが、いたずら心から快感を引き出すように指を捻り、舌を指に挟んでグリグリと擦ったら、吐息と共に口が開く。
舌を手放し、次はどこを触ろうと迷う指を追って赤い舌が下から上へと繰り返しなぞってきた。
あー、と口を開けたまま手のひらまでベッタリと涎をこぼしながら恍惚に酔った顔で。
小さいのにねっとりと大きく絡む赤い肉に、こんな風に自身の昂りを舐められたらと想像だけで頭を殴られたほどの目眩がする。
固いささくれた指でざらざらの舌の腹をなぞり、舌先を摘まんでくにくにと揉むとひくひくと揺れてうっとりと目を細めた。

「気持ちいいのか?」

うつろな表情で返事はない。
応えがなくとも、もっと喜ばせたくて精力を強め、口蓋を撫でて口内の肉を刺激したら顔に喜悦が浮かぶ。次第に、目に理性が戻り、ちゅぷっと湿りを帯びた音を立てて唇から離れた。

「も、もう」

以前より欲はないらしく吸われたのに自身
に何も負担はなく、余韻でしどけなさを漂わせつつも表情が落ち着いた。
抜けても湿った指で唇をふにふにと挟んで揉むと、はぅ、と小さく息を吐いて困ったと眉を下げつつも、ぼんやりととけた顔で受け入れた。

「ん、もう、や」

「あとで叱っていい。もう少し触らせてくれ」

毎回、寸止めなのだ。絶対、望まぬ以上のことはしないつもりだが、許される痴態まではたっぷりさせてほしい。
たっぷり唇を遊んで滾っていた欲も落ち着いた。

「何度も言うがあなたは私の番だ。何でも望みを叶えるから私を頼ればいい。沢山甘やかしてやる」

赤くぽてっとした唇をなぞりながら、わかったかと尋ねれば目をしばたたかせて首をかしげた。
名残で口の端から川の水滴以外にこぼれた涎で塗らし、きょとんと無邪気な顔を見せた。
その様子に何か間違ったのかと違和感を感じて動きが止まる。 

「エヴ嬢?」

「だめです。嫌です」

「…なぜ?」

思いの外きっぱりした拒否に理解が出来なかった。
このまま頷く流れではないのか。
三人へのベッタリした愛着のせいかと勘ぐった。
今朝はリーグについて回って、私が問えば好きだと答えていた。
それらが、ぱっと頭に浮かんでやはり扱いかねると苦虫を潰し、エヴ嬢の移り気な気質が恨めしく思えた。

「甘やかされて甘えてばっかりはダメってお母様が言ってました」

「…なるほど」

お父上のジェラルド伯と兄君のロバート殿の溺愛だけではなくお母上の厳しさもあるのかと納得する。
道理で甘えたなだけでなく努力家な面も持ち合わせているわけだ。

「だから、頑張らなきゃいけないって。将来の旦那様のお役に立つようにって」

抱きついていた私の腕から手を離すと肩に当たる水面でざばざばと顔を洗った。乱暴にぴっ、ぴっと目元や口許の水滴を手で払い、しどけなかった様相がいつもの顔に戻る。
顔を洗う様も額にかかる髪を後ろへ撫でる様も淑女らしからず、男所帯の影響を伺えた。

「私はあなたの夫になれそうか?」

いつものあっさりとしたすげない空気に悲しくなり、未練がましく問う。
いい返事など期待できないのに。

「え?団長が私をお嫁さんだって言ったじゃないですか?団長の番だから。団長は旦那様でしょ?去年、家庭教師からグリーブスの栄誉をちゃんとお勉強しましたし」

「あ、ああ。そうだ」

予想外の肯定に心臓が止まりそうなほど驚いた。
ちゃんと知ってるんですと胸を張る。
私の伴侶ということを受け入れていたのだと嬉しくなった。
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