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下克上
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予想外だったのはエヴ嬢が思ったよりリーグになついたことだ。
次の日水泳の場所に向かうと、先に来ていたエヴ嬢は支度をするリーグについて回っていた。
私の来訪にも気づかずリーグ、リーグと夢中な様子に青筋が浮きそうになる。
「ねえねえ、リーグ。枯れ木、このくらい?」
「まだっす。もっとお願いします」
「はーい」
「リーグ、ねえ、リーグ」
ニコニコとなつくエヴ嬢とはいはいと応えるリーグ。
ヤンとラウルはおらず、ダリウスが昨日の鍋に水を汲んで湯の支度をしている。それが済めばスミスにすぐに甲冑を着るか尋ねて、頷くと木陰に積んだ甲冑の側へ移動して着替え始めた。
「おはようございます。団長、スミス先輩。もうすぐ支度は整いますので、」
「…リーグ、これはどういうことだ」
「これ?これって?…あぁ、これっすね。…変な誤解しないでほしいんすけど?」
抱えていたラグを地面に置いて、ジト目の私を真っ直ぐ睨み返し、私より小柄な体なのに手を腰に当てて堂々と達振る舞った。
横にいたスミスがまた何か叱るかと思ったが、見たことのない反抗的なリーグに気をされている。
「品のない勘繰りはなしっすよ?エヴ嬢にそういうの何もないんすから」
「ほぉ、お前にもか?」
ちらっと川原から枯れ木を拾って喜ぶエヴ嬢を視界に入れて改めてリーグを見る。
「当たり前っすよ?団長の番に手を出す馬鹿じゃねぇし、弟妹の世話に慣れたオレを気に入っただけっすよ」
あんな危なっかしいの趣味じゃねぇんで、と嫌そうに締めくくった。
はっきりした物言いに口許が緩んだ。
エヴ嬢の気持ちがどうであれ、こいつに突っかかるのはお門違いだったと反省する。先程のカッカした気分も治まり、ならいいと話を終えようとしたらスミスがリーグの前に肩を怒らせて割り込む。
「リーグ!団長の番であるエヴ嬢に馴れ馴れしい上に上官に対してその口はなん、」
不敬を叱ろうとスミスが口を開き、軽く手をあげて制そうとしたらリーグからぎろっと睨まれて逡巡する。
「だから、誤解すんなっつってるじゃないすか?先輩?お二人を尊敬してんのに誤解されて勘繰られるのは迷惑っす。それとこれとは別っすよ?だから団長にはっきり違うって答えてるのに分からないんすか?」
低く唸る返事にスミスが固まり、顔を真っ赤に怒りだした。
「なっ、この!おまえっ」
はん、と鼻で笑い、つんとそっぽを向いてますますスミスが激昂した。
リーグの態度に、珍しいと興味を惹かれ口をつぐんで二人のやり取りを眺めた。
「ああ、そうだ。ラウルがそっちの草むらで着替えるって向かったところっす。今ならちょうど真っ裸っすよ。挨拶してきたらどうっすか?」
離れた草むらへ指を向け、リーグの半笑いの揶揄に尖った耳を赤く染めてパクパクと魚のようになる。
「り、リーグ!貴様!」
「えー?何悶えてるんすか?やーらしく誤解しないでほしいっすね。甲冑の着替えに手伝い頼まれてたけど、こっちの支度で断ったんすよー。困ってるかもー?先輩、行ってくれません?」
自分より背の高いスミスに掴みかかられながら、さらっと餌を巻いて動きを止めると、いるであろう草むらの方向へスミスの背中を押す。
「リーグ、手伝いが必要か?ヤンがいるだろう?」
そう問えば、スミスもはっとして騙されまいとリーグを睨む。
「いないっすよ?ジェラルド伯の用事で遅れるそうっす。甲冑って、一人で着るの時間かかるし、手伝うとラウルが助かるんじゃないすか?つーわけで、先輩いってらー。オレは支度が終わってないんで。団長、もう八つ当たりなしでお願いしやっす」
さっさと下に敷く厚手のラグを抱えて私達から離れ、私はスミスのおちょくられ具合が堪らず肩が震えた。
リーグの初の下克上は成功だ。
次の日水泳の場所に向かうと、先に来ていたエヴ嬢は支度をするリーグについて回っていた。
私の来訪にも気づかずリーグ、リーグと夢中な様子に青筋が浮きそうになる。
「ねえねえ、リーグ。枯れ木、このくらい?」
「まだっす。もっとお願いします」
「はーい」
「リーグ、ねえ、リーグ」
ニコニコとなつくエヴ嬢とはいはいと応えるリーグ。
ヤンとラウルはおらず、ダリウスが昨日の鍋に水を汲んで湯の支度をしている。それが済めばスミスにすぐに甲冑を着るか尋ねて、頷くと木陰に積んだ甲冑の側へ移動して着替え始めた。
「おはようございます。団長、スミス先輩。もうすぐ支度は整いますので、」
「…リーグ、これはどういうことだ」
「これ?これって?…あぁ、これっすね。…変な誤解しないでほしいんすけど?」
抱えていたラグを地面に置いて、ジト目の私を真っ直ぐ睨み返し、私より小柄な体なのに手を腰に当てて堂々と達振る舞った。
横にいたスミスがまた何か叱るかと思ったが、見たことのない反抗的なリーグに気をされている。
「品のない勘繰りはなしっすよ?エヴ嬢にそういうの何もないんすから」
「ほぉ、お前にもか?」
ちらっと川原から枯れ木を拾って喜ぶエヴ嬢を視界に入れて改めてリーグを見る。
「当たり前っすよ?団長の番に手を出す馬鹿じゃねぇし、弟妹の世話に慣れたオレを気に入っただけっすよ」
あんな危なっかしいの趣味じゃねぇんで、と嫌そうに締めくくった。
はっきりした物言いに口許が緩んだ。
エヴ嬢の気持ちがどうであれ、こいつに突っかかるのはお門違いだったと反省する。先程のカッカした気分も治まり、ならいいと話を終えようとしたらスミスがリーグの前に肩を怒らせて割り込む。
「リーグ!団長の番であるエヴ嬢に馴れ馴れしい上に上官に対してその口はなん、」
不敬を叱ろうとスミスが口を開き、軽く手をあげて制そうとしたらリーグからぎろっと睨まれて逡巡する。
「だから、誤解すんなっつってるじゃないすか?先輩?お二人を尊敬してんのに誤解されて勘繰られるのは迷惑っす。それとこれとは別っすよ?だから団長にはっきり違うって答えてるのに分からないんすか?」
低く唸る返事にスミスが固まり、顔を真っ赤に怒りだした。
「なっ、この!おまえっ」
はん、と鼻で笑い、つんとそっぽを向いてますますスミスが激昂した。
リーグの態度に、珍しいと興味を惹かれ口をつぐんで二人のやり取りを眺めた。
「ああ、そうだ。ラウルがそっちの草むらで着替えるって向かったところっす。今ならちょうど真っ裸っすよ。挨拶してきたらどうっすか?」
離れた草むらへ指を向け、リーグの半笑いの揶揄に尖った耳を赤く染めてパクパクと魚のようになる。
「り、リーグ!貴様!」
「えー?何悶えてるんすか?やーらしく誤解しないでほしいっすね。甲冑の着替えに手伝い頼まれてたけど、こっちの支度で断ったんすよー。困ってるかもー?先輩、行ってくれません?」
自分より背の高いスミスに掴みかかられながら、さらっと餌を巻いて動きを止めると、いるであろう草むらの方向へスミスの背中を押す。
「リーグ、手伝いが必要か?ヤンがいるだろう?」
そう問えば、スミスもはっとして騙されまいとリーグを睨む。
「いないっすよ?ジェラルド伯の用事で遅れるそうっす。甲冑って、一人で着るの時間かかるし、手伝うとラウルが助かるんじゃないすか?つーわけで、先輩いってらー。オレは支度が終わってないんで。団長、もう八つ当たりなしでお願いしやっす」
さっさと下に敷く厚手のラグを抱えて私達から離れ、私はスミスのおちょくられ具合が堪らず肩が震えた。
リーグの初の下克上は成功だ。
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