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着替え

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ラウルとエドが服を持って駆けつけるまで血だらけの様相とひどい貧血で私達は寝転んでいた。
人狼とオーガの血は侮れない。
血を軽く拭って着替えて帰る頃には私達二人はいつも通り。
ダリウスがまだ真っ白な顔色のヤンを背負って、ラウルはエヴ嬢を横抱きに抱えた。

「…二人の丈夫さは羨ましい」

「君は私達と違った特異な能力を持っている。気にするな」

口惜しそうなヤンの言葉にそう答えれば頬が微かに緩んだ。
白く青い顔に汗が浮かんでいる。
ダリウスの肩に腕を回しているが、掴むこともできずだらっと垂らして。
着替えも一人では難しくラウルが手伝っていた。

「また話を聞く」

エヴ嬢はラウルの肩に顔を埋めて顔を伏せたまま、こちらを見ることはなかった。
エヴ嬢以外お互いに目礼を交わして別れた。

「…団長、ご説明を」

全員分の汚れた服をひとまとめにした袋を担いだエドが低い声で呟く。

「享楽の色魔だ。エヴ嬢が狙われた」

もともとアモルが享楽の色魔と伝えている。
それだけ言えば、ついでに今回の犯人と勝手に憶測を巡らせ顔を引き締めた。
「それの処分は頼む。斥候は?」
斥候はラウルの進言により途中で帰ってきたと口にする。
それでも大半の魔素溜まりと魔獣の生息域を把握できてたようだ。
「明日、残りの斥候を続けろ」

「はい。…しかし団長、…あの血溜まり、この衣類の血。…この血は誰のものですか?三人とも、怪我らしい怪我もなく。なのにあのヤンがあの様子。…自分は納得出来ません」

黙るのは簡単だ。
だが、嘘をつけば信頼は崩れる。

「エド、お前は信頼に足る。他言無用だ」

引き締まった顔に喜色が混ざる。

「エヴ嬢はあの色魔から婚姻の証を授けられたのはヤンから聞いていたな。どうやら魔族の婚姻とは互いの能力を引き継ぐものらしい。交合の器になったエヴ嬢は色魔から上位種の能力を引き継いだ。それで私達に治癒力を高める魔法をかけた」

ぽかんと口を開けた。
私も初めて聞いた時は同じ顔をした。
しばらくもだえるように考えあぐねて顔をあげる。

「引き継いだ?そんなことがあるんですか?治癒を高めるとは?夢魔に治癒能力があるなど聞いたことがない」
精力を吸うとしか知られていない。

「色魔の話ぶりだと抜くも授けるも自由だそうだ。色魔は力を注いでそこの雑草を操り、私達を抑えた。そしてエヴ嬢は私達に精力を注いで傷を治した。納得したか?」

目を見開いて手首に巻いた夢魔よけの呪符を見つめている。
どこまで察したか。

「まさか、とは思いますが。団長を襲ったのはエヴ嬢でしょうか?」

「だとしたらお前はどうする?」

害になるなら排除する。
だが、最も信頼するこの男を思えば残念でならない。
手放すのは惜しい。
対立するようなことは避けてほしいと願った。

「…何も。…グリーブスの、団長の番ですから」

じっと見つめ真意を探る。

「エヴ嬢や彼らのことも。どれだけ素晴らしい人となりをされているか。ここで暮らし共に戦って深く知っているつもりです」

表情に憂いはない。

「あの方はあなたの番に相応しい方、そう思っております」

頷きで返すと、エドは、はぁと深くため息を吐いた。

「ただ、本当に団長の番は一筋縄ではいきませんねぇ。次から次に。あぁ、いつ結婚出来るんでしょうか」

それは私も同意だ。
つられて私も深く息を吐いた。
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