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就寝
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私に相手はいないのだと思ってた。
だいたい十代から二十代前半で番と出会う。
私はもう齢30だ。
人族寄りで血が薄いのだと思って、気ままにあっちこっちと遊び呆けて、やっと会えた私の番。
気づけば尻尾がぱたぱたと揺れていた。
「ふふ、そうですか?さすがに私はヒヤッとしましたが」
困った顔がジェラルド伯にそっくりだ。
「ロバート殿はジェラルド伯に似ていますね。エヴ嬢はお母上に似ているんですか?エヴ嬢の黒髪と瞳はそちらから?」
ちらっとエヴ嬢を見ると木の滑らかなブラシを持って戻ってきた。
すぐに背後へ座ってブラシを通している。
楽しいらしく鼻唄まじりに。
「そうですね、顔立ちは似てます」
ジェラルド伯とロバート殿は同じ色合い。
金の髪に緑の瞳。
エヴ嬢の黒髪と紫の瞳はお母上譲りだろうか。
「色は違いますけど。この黒色は6年前に病が治ると同時に変化したので。元は私と同じ色合いでした」
薄くなることはあるが、濃くなる話は聞かない。
珍しさに、ほぉ、と声が出た。
「クレイン家の家系は時折、紫の瞳が産まれます。かなり珍しいですよ。末端の家系を合わせて100年ぶりらしいです」
それから始終エヴ嬢について二人で話した。
ブラウンを助けた話、泣いた話、討伐では二番目の戦果ということ。
一番は私だ。
さすがに負けられない。
「頑張ってるんですね」
「とても」
「誇らしい。自慢の妹です」
そこからはまた会話が広がり、お互いのことを尋ね、徒然と続けた。
ロバート殿の柔らかな話し声は敏感になった耳に心地よく、穏やかで控えめな気質に好ましいと思った。
「あ、しまった。エヴ、ここで寝てはいけないよ」
「ん?」
ロバート殿が慌てて私の背後に駆け寄る。
どうやら尻尾に抱きついて寝てしまったらしい。
私からは見えないが、ブラシは傍らに放り出して静かな寝息を立てているそうだ。
「困った。しっかり握ってる。というか巻き付いている」
足も、と小さく聞こえて足元まであるワンピースの寝巻きは盛大に捲れてると想像ついた。見たいが動くとエヴ嬢が起きる。
「このままで構いませんよ」
「しかし、」
「座って寝るのも苦ではありません。それに本能的に番の望むままにしたいと思うんです。私の番がそうやっていたいのならこのままでお願いします」
戸惑いののち、わかりましたと聞こえた。
寝台から掛布を持って来てエヴ嬢にかけている。
「ヤン達を呼びます」
見張りにかと思い頷く。
「このラグは三人の寝床ですから。彼らも寝るところに困ってしまう」
「…は?…ロバート殿、今なんと?」
「え?」
ここが彼らの?
エヴ嬢の寝台のある天幕の中なのに?
「ご存じありませんでしたか?」
頬が引きつる。
「父上から聞いてるはずですよね、上位魔人のことを」
「ええ、享楽の色魔のことは」
「昼夜問わず変則的に襲われたので護衛として同室での寝泊まりを許可してるんですよ」
「新月だけではないんですか?」
「はい。あれは気まぐれなので」
全て初耳だ。
理由に納得しつつも落ち込んだ。
私もここで寝たい。
呼ばれたヤン達が天幕に入ってエヴ嬢を覗き込んで笑った。
ロバート殿は、あとはよろしくとダリウスに送られて城へ帰られた。
「あぁ、笑ってらっしゃる。よくお休みですね」
「ほんと、ぐっすりだね。気持ち良さそう」
残されたヤンとラウルの嬉しそうな会話に私も見たいとごねたくなった。
「見えん」
ポツリと恨めしげに愚痴を吐く。
「私共はこちらで休みます」
苦笑いをするヤンが、ロバート殿の座っていた辺りで眠ると言う。
二人とも掛布を用意して並んで、ラグから膝下をはみ出させてごろ寝した。
しばらくするとダリウスが戻り、エヴ嬢の側で帯刀したまま座って見張りだと説明をした。三人のうち、一晩を一人はしっかりと休み、二人が交代すると言う。
「団長。申し訳ありません。先にお休みします」
「ああ、寝ろ。私もこのまま少し仮眠する」
ダリウスがよそから調達した予備の掛布を受け取り、膝に掛けて目を瞑った。
エドにもこちらで過ごすと報告を済ませたそうだ。
それにしても目の前に並ぶのはヤンの顔だ。
二人が足を向けるわけにはいかないからと分かってる。
でも気持ちが萎える。
私はエヴ嬢が見たいんだ。
この二人の顔ではない。
私の不機嫌を隠せない様子に三人とも察していたが、特に何も言わずさっさと支度を済ませ静かになる。
だいたい十代から二十代前半で番と出会う。
私はもう齢30だ。
人族寄りで血が薄いのだと思って、気ままにあっちこっちと遊び呆けて、やっと会えた私の番。
気づけば尻尾がぱたぱたと揺れていた。
「ふふ、そうですか?さすがに私はヒヤッとしましたが」
困った顔がジェラルド伯にそっくりだ。
「ロバート殿はジェラルド伯に似ていますね。エヴ嬢はお母上に似ているんですか?エヴ嬢の黒髪と瞳はそちらから?」
ちらっとエヴ嬢を見ると木の滑らかなブラシを持って戻ってきた。
すぐに背後へ座ってブラシを通している。
楽しいらしく鼻唄まじりに。
「そうですね、顔立ちは似てます」
ジェラルド伯とロバート殿は同じ色合い。
金の髪に緑の瞳。
エヴ嬢の黒髪と紫の瞳はお母上譲りだろうか。
「色は違いますけど。この黒色は6年前に病が治ると同時に変化したので。元は私と同じ色合いでした」
薄くなることはあるが、濃くなる話は聞かない。
珍しさに、ほぉ、と声が出た。
「クレイン家の家系は時折、紫の瞳が産まれます。かなり珍しいですよ。末端の家系を合わせて100年ぶりらしいです」
それから始終エヴ嬢について二人で話した。
ブラウンを助けた話、泣いた話、討伐では二番目の戦果ということ。
一番は私だ。
さすがに負けられない。
「頑張ってるんですね」
「とても」
「誇らしい。自慢の妹です」
そこからはまた会話が広がり、お互いのことを尋ね、徒然と続けた。
ロバート殿の柔らかな話し声は敏感になった耳に心地よく、穏やかで控えめな気質に好ましいと思った。
「あ、しまった。エヴ、ここで寝てはいけないよ」
「ん?」
ロバート殿が慌てて私の背後に駆け寄る。
どうやら尻尾に抱きついて寝てしまったらしい。
私からは見えないが、ブラシは傍らに放り出して静かな寝息を立てているそうだ。
「困った。しっかり握ってる。というか巻き付いている」
足も、と小さく聞こえて足元まであるワンピースの寝巻きは盛大に捲れてると想像ついた。見たいが動くとエヴ嬢が起きる。
「このままで構いませんよ」
「しかし、」
「座って寝るのも苦ではありません。それに本能的に番の望むままにしたいと思うんです。私の番がそうやっていたいのならこのままでお願いします」
戸惑いののち、わかりましたと聞こえた。
寝台から掛布を持って来てエヴ嬢にかけている。
「ヤン達を呼びます」
見張りにかと思い頷く。
「このラグは三人の寝床ですから。彼らも寝るところに困ってしまう」
「…は?…ロバート殿、今なんと?」
「え?」
ここが彼らの?
エヴ嬢の寝台のある天幕の中なのに?
「ご存じありませんでしたか?」
頬が引きつる。
「父上から聞いてるはずですよね、上位魔人のことを」
「ええ、享楽の色魔のことは」
「昼夜問わず変則的に襲われたので護衛として同室での寝泊まりを許可してるんですよ」
「新月だけではないんですか?」
「はい。あれは気まぐれなので」
全て初耳だ。
理由に納得しつつも落ち込んだ。
私もここで寝たい。
呼ばれたヤン達が天幕に入ってエヴ嬢を覗き込んで笑った。
ロバート殿は、あとはよろしくとダリウスに送られて城へ帰られた。
「あぁ、笑ってらっしゃる。よくお休みですね」
「ほんと、ぐっすりだね。気持ち良さそう」
残されたヤンとラウルの嬉しそうな会話に私も見たいとごねたくなった。
「見えん」
ポツリと恨めしげに愚痴を吐く。
「私共はこちらで休みます」
苦笑いをするヤンが、ロバート殿の座っていた辺りで眠ると言う。
二人とも掛布を用意して並んで、ラグから膝下をはみ出させてごろ寝した。
しばらくするとダリウスが戻り、エヴ嬢の側で帯刀したまま座って見張りだと説明をした。三人のうち、一晩を一人はしっかりと休み、二人が交代すると言う。
「団長。申し訳ありません。先にお休みします」
「ああ、寝ろ。私もこのまま少し仮眠する」
ダリウスがよそから調達した予備の掛布を受け取り、膝に掛けて目を瞑った。
エドにもこちらで過ごすと報告を済ませたそうだ。
それにしても目の前に並ぶのはヤンの顔だ。
二人が足を向けるわけにはいかないからと分かってる。
でも気持ちが萎える。
私はエヴ嬢が見たいんだ。
この二人の顔ではない。
私の不機嫌を隠せない様子に三人とも察していたが、特に何も言わずさっさと支度を済ませ静かになる。
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