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乱闘

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ケホケホとむせるエヴ嬢の様子にヤンが低く唸る。

「エヴ様、団長の首をお望みになりますか?三人でかかれば獲れるかもしれません。最低でも不能の術式を叩き込むことはできます。二度とエヴ様を苦しめることが出来ないように致しましょう」

「え?げほっ!な、に?げほっ!」

強い咳き込みが続き話せずにいる。

「この二人同様、私も貴様の行いを許す気はない!カリッド・グリーブス、その首はもらうぞ!」

その言葉と共に素早く私へ刃先を向けた。同時にラウルは両手に術式で光らせ、ダリウスが即座に抜刀し、三人とも強い光の強化に包まれた。

「さあ、早く後ろの者から剣を受けとれ。そこまでは待ってやる。それとも全員で来るか?それも受けてやる。全員で来い!」

本気を語るヤンの黒い瞳に覚悟を決めた。

「やめろ!皆の抜刀を禁じる!」

背後の戦闘の気配に即座に恫喝した。

「ヤ、ヤン!団長、そんな!エヴ嬢は番なのにっ!贄じゃない!違うんだ!エヴ嬢、聞いてくれっ。先程の行為は人の営みというものだ。人は肌を合わせて愛し合うんだ、」

「エド、やめろ!」

あの匂いでバカになった。スミスのお花畑が可愛く思えるほどのバカだ。今だってまだ残り香が鼻について胸が苦しい。
本能に振り回されてとんでもないことをした。
触れ合いを恐れる相手を襲い、番だから許されると安易に考えて呑気にプロポーズをしたバカだ。
謝らねばと地面に両膝を揃えた。
私が膝をついていると部下達は戸惑っている。

「エヴ嬢、望まぬこと強要して申し訳なかった。深く詫びる。だが、贄を求めて触れたのではない。人狼の血ゆえ番を欲した。それだけは分かってほしい。ヤン、ラウル、ダリウス、君らにも返す言葉がない。抵抗はしない。エヴ嬢が望むなら首でも不能でも罰を受ける。地位を降りろというならその通りにする」

額を地面につけて深く頭を下げた。

「やめてくれ!団長はあなたじゃなきゃ無理だ!エヴ嬢!ヤン!団長は望まないことをしたが、これは血統のせいもあるんだ!どうか理解してくれ!今までの功績も鑑みてほしいっ!」

エドが取りなして叫んでいる。
黙れと言っても、黙るもんかと叫んで言葉を続けた。
他の団員らもエドと同じようにグリーブス家の血統について説明し、釈明してくれている。
私が団長だということもあり、人狼の血脈であるグリーブスに対して、皆深い知識を持っている。
愛故にと美化されているが、グリーブス家の直系は誘拐婚だ。
血が薄い縁者は徐々に愛情を育てて獣化するが、直系の血が濃い者だと出会ってすぐ理性を失うくらい愛してしまい、相手をかっ拐う。
今まで問題にならなかったのは公爵として地位と金、血脈の影響で整った外見に恵まれることと、王都ではグリーブスの誘拐結婚は名誉として受け入れられていたからだ。
祖先には王族から王子を拐った者がいて絆された王子本人の嘆願もあり咎にはならず死が分かつまで愛を育んだ。
それが美談となり、グリーブスに求められるは栄誉だと持て囃された。
身分問わず、性別に関係なく手に入る。
兄達や父、血縁の者は、今までがそうだった。
だがエヴ嬢は男女の機微を何も知らない。肌の触れ合いを贄の手段と認識して忌避している。
あんな乱暴に触れてはいけなかったんだ。

「ちょっ、と待ってよ。げほっ!喧嘩だめだよ、ヤン。剣を下ろして」

まだ少し咳き込んでいるが、落ち着きを取り戻したエヴ嬢が三人を制する。

「自分が言ったくせ。危機に駆けつけた恩人に失礼したらだめだって」

「時と場合に寄ります」

「もういいって。やめて。みんなでこんなに謝ってるのに。もう怒るのやめてよ。私はもう怒るの止める」

強化はとかず剣先を地面に下げる。

「ねえ、ふのうって何?」

「子供ができなくなるということです」

「それが罰?だめよね?」

「そのくらいの罰を与えていいかという提案です」

「えーと、罰って言ったって。皆が言うけど、さっき団長がしたの何なの?贄じゃないなら何?」

魔人に襲われた時と一緒なのにと呟いた。

「エヴ嬢!違います!ああいうのは、人族ならお互い想い合ってする行為でして、贄ではなく!あなたは団長の番で、エヴ嬢を好いてるんです!人狼族のグリーブス家にとって獣化は愛情です!」

「エド、何も言うな!同意もなく触れた。これはご令嬢への暴力だ。罰せられて当然だ!」

「…そんなこと言われたって。贄じゃないなら、もういいかな。団長には沢山助けてもらったし。そりゃあ、お尻のところを破られたのとか嫌だけど。スースーする」

手を後ろに当ててもぞもぞと押さえている。
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