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エドに言ってエヴ嬢の指導は交代した。
魔獣討伐も別だ。
徹底して避けた。
結婚が、と四の五のうるさく言ってたが押し通し続ける。
1週間もすれば、エドが本当に良いんですかと尋ねてきた。

「以前はあんなにエヴ嬢を気にかけていたじゃないですか?どうされたんですか、急に」

「…支障がある」

根掘り葉掘り聞き出そうとするのを、黙ってろと一言言えば不服そうに口をつぐんだ。

「良いですけど、何も言わずにいきなりこんな風に避けて、ご自分に責任を感じてらっしゃいました」

「違うと伝えておけ」

「言ったに決まってるでしょう。こう言うことは周りが言ったって心に響きませんよ。団長自ら仰ってください」

言葉に詰まり不機嫌に睨むと、言うことは言ったとばかりにこの場から逃げ、残された私は声をかけた方がいいかどうするか悶々と苦しむはめになった。
罪悪感とエドの批難がましい視線に耐えかねて明日の討伐に連れて行くことにした。
きっと屋外だから室内よりましな筈。
指導は近すぎてだめだ。
膝の上に乗せるなんてもう無理だ。出来ない。あの時の自分が羨ましすぎる。なんだってあんな大胆なことができたんだ。あの匂いを嗅ぎながらそんなことしたら、と想像しただけで胸が苦しくて、ぐぅ、と唸る。
解呪したらもっと明るく楽しいような気がしたのに上手くいかないとため息がこぼれた。
今日は猿型の魔獣討伐だ。通常、奴らは肉食で餌がなければ共食いして大して増えない。スタンビートで餌が豊富な今の時期は肥えて繁殖し群れを大きくする。
大型はおらず中型ばかりだ。
とはいえ数の多さと俊敏さはなかなか扱いづらい。
かなり繁殖していたため音と煙で追いやって住処の近くにある崖から大多数を落とす作戦にした。

「スミス、どうだ?」

探査魔法で魔獣の動きを探らせている。
「中央が少し突出してますが、概ね崖に向かってます。」
ラウルの指導のお陰でスミスの能力が上がった。以前より細かい内容で回数もこなせるので重宝している。
エドの話によるとまだかなり執心らしい。約束通り口説くのは我慢していると聞く。
最近は術式以外の話を許されるようになったとかで、私は学びについて調子はどうだと尋ねたのに、昨日は好きな食べ物を尋ねても怒られなかったと喜んでいた。
お花畑具合に思うところはあるが、本人はラウルに認められたい一心で一段とよく働くから良しとする。

「中央に横と足並みを揃えろと伝令を出せ。特にエヴ嬢には単身突っ込みすぎるなと伝えろ」

今回は網状に群れを包むのが目的なのでいつものように単身飛び出しての乱戦は困る。
包囲網の位置に私が左、ヤンとエヴ嬢を中央、右にダリウスを配置して戦力を分散している。
エドとラウルは砦の守りに残した。
頃合いを計って合図を送る。
でかい角笛の音が次々と響く。笛役を数珠繋ぎに配置しているのでダリウスの陣営まで届いた筈だ。合図と共に選抜した隊列が長槍を構え魔獣を一気に押し込む。網から逃げた魔獣も背後に残した陣形が逃がさない。
追い詰められた魔獣は次々と崖下に落ちていった。
あと数匹を残すばかりになり、混戦を防ぐため生い立てる人数は徐々に減っていく。
魔獣は微かに尖った崖っぷちに身を寄せて逃げた。
小さく包むように数人で槍を向けてジリジリと迫る。
だが、咄嗟に虚を突かれた者が魔獣に引き倒されて一斉に襲われた。
足場の最悪な狭い崖っぷちで抗って暴れ、私も槍から剣に持ち替えて魔獣を切るが、助ける間もなく兵士は足を踏み外した。
その近くで素早く飛び出したのはエヴ嬢だ。
魔獣に襲われている兵士を掴み、軽さから支えることはできず二人は共に落ちていく。
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