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解術

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魔獣を避けてつつも、時折退治し次の日の昼には砦に着いた。
砦は魔獣の脅威が落ち着いたこともあり、私達の帰還にお祭り騒ぎだった。

「エド、留守の間をよく勤めた」

「う、う、やっぱり団長がいないと私はだめです!」

「泣くな、抱きつくな。また噂が面倒になるぞ」

はいと言いつつ肩に回した腕は力強い。
私とエヴ嬢、二人の戦力の穴は大きかっただろう。昨日あらかた殲滅したとはいえ、まだ数多く残っていた。不在の間の陣頭指揮は負担だったはずだ。

「よくやった」

また、はいと応えて泣いていた。
ジェラルド伯からも労をねぎらわれ、ゆっくりしてくれと主人自ら城の湯船へと案内された。ありがたく湯をいただき身を清め疲れを癒す。部下たちも湯に浸からせてやりたいと話せば、閉鎖していた町の公衆浴場を解放すると約束してくれた。ただし、他の街へ避難している住民が多いので湯沸かしや手入れの手が足りず、準備は団員で作業せねばならないそうだ。それでも充分だとエドに指示を伝えて支度を頼んだ。
他に何か不足はあるかと尋ねられ、解呪士について問うた。

「解呪士?領内に数人います。直ぐというならこの砦に二人」

「紹介を頼めますか?」

「団長もご存じの者です。ヤンとラウルが解呪について心得があり、お役に立つはず」

有能さに感嘆を溢す。
後日、スミスに体内の探知をさせた。
呪いは確定だそうだ。
ジェラルド伯に頼んで二人を寄越してもらい、城内の一室を借りて会うことにした。宿舎のテントでは防音が不備だ。
呪いを知られて無駄に部下の不安にさせたくない。
エドとジェラルド伯の立ち会いのもと、スミスと同じようにラウルが私の体内へ魔力を流して探知をする。
一通り終わった後、解呪できそうかと尋ねると難しい顔をしていた。

「術式の呪いなら得意ですが、呪が育って意思のある生物になっています。ヤンと二人でやれば引きずり出せるかと思いますが」

「難しいか?」

「無理に引きずり出すので暴れてかなり苦しいかと。操られる可能性も。強化封じの呪符を使って団長を拘束するなり押さえつけるなりしないといけない。強化を封じても豪腕の団長を押さえるとなると」

「…グリーブスの血筋はたいがいの呪符が通じない。半減はするが、強化が使えなくなるということはない。どうしても解呪したいのだが」

「ならば、押さえつけられるだけの人手がいりますね。道具も何か探してみます」

ヤンの言葉にラウルが頷いた。

「そうだな、ヤン。こいつは丸々と太っている。時間をかけても呪が育つだけだ。急いだ方がいい」

決まると動きが早くその日の夜には支度が整った。
場所は皆に危険が及ばぬように城と街から少し離れた古い頑強そうな遠見櫓へ案内された。
中にはラウルとヤンの他にエド、エヴ嬢、ダリウス、スミスが待っていた。
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