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早朝

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まだ薄暗い早朝にエヴ嬢は乾いた皮鎧を身につけた。小屋を出て着替えを待っていたが、いつまでも返事がない。声をかけると自分一人で鎧の着脱が出来ないと申し訳なさそうに答えるので、手伝ってやらねばならなかった。
理性が試させれることばかりだが、革鎧越しでも触れてられて満足した。
それが済めば二人で昨日焼いておいた肉を食べた。

「ふぁ、ああ~っ」

「デカイあくびだ」

「寝心地が悪かったので」

「くっ、それは悪かった」

目を擦り悪びれずそう言うエヴ嬢に苦笑いをした。

「皮で多少は柔らかいけどゴツゴツして座りづらいし、皮膚が当たったところに跡は残るし、何より体が凝りました。本当に子供みたいな膝抱っこなんて二度とごめんです」

「残念だ」

「残念?何が残念かわかりませんが、団長だって一晩中、座りっぱなしできつかったんじゃないですか?隈できてますよ」

「問題ない」

これは一晩中眺めていたせいだ。
あのまま顔を見せてほしかったが、上を向いては眠れないと言われて解放するしかなくバカみたいに頭のてっぺんを眺めて過ごした。

「腹が立つけどアモルには感謝ですね。おかげで熱が下がりました」

がぶっと肉にかぶりつきながらの呟きに納得できずにムッと顔が歪む。

「感謝か。…お人好しと言われないか?」

あんなクズに感謝するのかと呆れた。

「いつも怒ると疲れます。今回は役に立ったと思って気にしないのが一番です」

「そうか」

私は納得していないが、わざわざ言う必要はないのでそれ以上はとやかく言わず、その後はお互い黙って食事を進めた。
食事を終えて火の始末をしていると黙っていたエヴ嬢が話しかけてきた。

「あと、考えたんですけど」

「なにか?」

「ラウルの連絡を待つ方がいいかなって」

術師がある程度、場所を把握してないと鳥を飛ばせないはずだ。知らない場所や所在の不明な人間には無理なはず。
それなら無作為に待つより砦を目指す方が建設的と思える。だが、ただ頭ごなしに否定するつもりはないので黙って話を聞いた。

「ヒムドがいればラウルの魔法で場所や様子が伝わるんですけど、核だけになってしまったから」

胸当ての隙間から、この廃屋で見つけたぼろ切れに包んだ青いビー玉を見せた。

「昨日の夜にヒムドを通してアモルに襲われたのを見てるはずです。もしかしたらこっちに来てるかもしれません」

使い魔の能力については千差万別で、能力なしの愛玩用から魔力を込めて属性を付与し、諜報や戦闘に特化させることができる。形態も生物の形であれば虫から人型にどうとでもなる。
使い魔の創成はエルフ族や妖精族の能力だ。
人族と人狼の血筋である私には全く扱えない魔術なので知識として知るだけだ。

「ヒムドはラウルとエヴ嬢を繋いでいたのか」

自身から呼ぶのではなく、エヴ嬢に繋げて自由に出し入れ出来る上に遠見の付与。繋げていれば常時魔力を吸われるし、簡単な術式とも思えない。適正のない私にはどれ程の難しい魔術なのか分からない。またいじけそうで悪いが、スミスは出来ないと比べてしまった。

「わかった。半日待とう」

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