17 / 315
色魔
しおりを挟む
明日を考え少しでも休まなくては。
体を横たえ目をつぶりじっと過ごした。
どれ程時間がたったか。
やはり眠れず無為に時が過ぎてエヴ嬢の微かな呻き声に目を開けた。
「ふ、…ぅぅん」
熱が上がったかと気になり顔をあげた。
「なっ!」
驚いたことにエヴ嬢の上に人が覆い被さっていた。
褐色と巻毛の黒髪。
下半身は羊か山羊の足。
一目で魔人とわかる。
それがマントを剥いだ裸体の上にのし掛かってエヴ嬢の口を赤い舌でなめ回している。
「何者だ!?」
強化と抜刀を即座に行い剣を振り上げたと同時にカッとエヴ嬢も目を覚まし、金鳴りとともに全身に紋様が現れ、がっと口を開けたと思ったら舐め回す舌に歯を立てた。
「あああああああ!!」
ぶちぶちと千切れる音が聞こえ、反り返って動く二人に一度構え直して魔人を狙い直す。
半獣の魔人は横殴りに拳で壁にぶっ飛ばされ、続いて私も剣を貫く。
「あーあー、あははー!ふぁいふぉー!ひもちいい!」
じゅわっと黒い霧となり霧散し、私をすり抜けて背後のエヴ嬢の方へと流れた。
「エヴァァ!最高だったよおお!あいしてるー!」
エヴ嬢はゴミを払うように霧状の魔人を手を振って払いのけ、口から切り取った魔人の肉片を摘まみ出して火にくべた。
「もー!食べてよー!俺の左腕を噛みきった時みたいにがっつりかっぷり!」
「今日、新月だっけ?」
マントを胸元にかき寄せ手の甲で口の回りの血を拭った。
「まだだよん。てか、無視かよぉ?なんかエヴが弱ってる気配がしたから見に来てやったつーのにぃ。熱だして寝込んでるし、いつものアイツらいねーし、据え膳じゃん?食わなきゃ。いや、噛みつかれたいのはオレだけどー!あはは!」
「やめてよ、うるさい」
「ちゃんと精力流して回復しやったからなぁ?ちゃーんとく、ち、う、つ、し、で。エヴはオレの大事な伴侶だから」
「カニバの変態は嫌い。帰って」
「やーだーねー!ドレインのくそやろーがいないんだ。好きにするさ」
あまりの喧しさにムカついて剣で切り払う。身体を二つに裂いても霧状の魔人に対してなんの効果もない。分かっているが、やらずにおれん。
「なーにー?あんたぁ?」
「こっちの台詞だ」
間延びしてふざけた男だが、下位種特有の獣の下半身を持ちながら金眼の虹彩がそれなりの上位種だとわかる。
「ねー、エヴァ。またお供を増やしたのぉ?」
「違う。もう帰って」
「やーだよぉだ」
「ヒムドを殺ったの怒ってる」
「だーってシャーシャーうるさいんだもん。あのバカ猫。別に核は壊してないからまたあの茶髪ちびに作らせればいーじゃん。だいたいあんな弱い使い魔つけて何の意味があんのさ?バカじゃね?」
ほら、と核となる青いビー玉をエヴ嬢の手元に放った。
小馬鹿にした態度に腹が立ち、再度振り上げて切り裂く。あの使い魔が献身的にエヴ嬢を守っているのを見てきた。侮辱される筋合いはない。
「あんた、邪魔すんなよー?」
「あの猫の方がお前より立派だ」
「は、猫の次は犬か。うぜぇ。おら、三回回ってわんって鳴けよ?」
人狼の末裔と一目で見抜いたのか犬と揶揄する。私に向けた手のひらに術式が浮かぶので即座に真っ直ぐ剣を貫くと、肉の感触がある。そして展開した術式がパリパリと割れて粉々に砕け、続けて身を三つに切り裂けば霧状に四散した。
「えー…やな奴」
術の展開で魔力を消費したようだ。霧が減り、少し小さくなっていた。
「殺せないわけではなさそうだな」
「へへ、オレは影よ?本体じゃねーし、死ぬかよ。ばーか」
「影送りだと?高度魔法じゃないか。見かけのわりに上位種なのだな」
隠した片手から魔力を感じて狙い定めて斬り込む。四散する霧から舌打ちが聞こえ、体積が当初の半分に減って肉体を維持できずに人型の薄い霧のまま漂ってる。
「呪い持ちの番犬を増やしやがって。エヴ、お前は本当にかわいいけどかわいくねぇなぁ」
呪い?
適当なことを言って動揺を誘う気か。その程度の敵と軽蔑を込めて一瞥する。
「待って。アモル、呪いって何のこと?」
「ああ?んだよぉ?エヴ」
ご機嫌な声でふわふわとエヴ嬢へとまとわりついた。
「帰れ以外の会話なんて初めてじゃーん。知りたーい?」
「エヴ嬢、どうせ嘘だ。必要ない。」
「はぁ?うるせぇ黙れよ、呪い持ちの犬野郎。魔人のオレが見間違うはずもないし、嘘なわけねぇだろ」
「それはわかってる。だから教えて」
ただでは嫌だとごねれば次はお茶くらいだしてやると優しくささやく。
「それだけか。いや、悪くないね。初めて歓迎してくれるわけだ。アイツら3人が羨ましげに睨むんだろうなー。うわぁ楽しみだぁ。それにどうせ時間切れだし、可愛いエヴになら何でも教えてやるよぉ」
ついっと私へ指を向けて笑った。
「お前、色んな奴に愛されてるけど恨みも買ってるねぇ。かわいさ余って憎さ百倍ってかぁ。はは、大量の呪符が混ざってデカイ呪いになってる。もうそいつは生き物だね」
体を横たえ目をつぶりじっと過ごした。
どれ程時間がたったか。
やはり眠れず無為に時が過ぎてエヴ嬢の微かな呻き声に目を開けた。
「ふ、…ぅぅん」
熱が上がったかと気になり顔をあげた。
「なっ!」
驚いたことにエヴ嬢の上に人が覆い被さっていた。
褐色と巻毛の黒髪。
下半身は羊か山羊の足。
一目で魔人とわかる。
それがマントを剥いだ裸体の上にのし掛かってエヴ嬢の口を赤い舌でなめ回している。
「何者だ!?」
強化と抜刀を即座に行い剣を振り上げたと同時にカッとエヴ嬢も目を覚まし、金鳴りとともに全身に紋様が現れ、がっと口を開けたと思ったら舐め回す舌に歯を立てた。
「あああああああ!!」
ぶちぶちと千切れる音が聞こえ、反り返って動く二人に一度構え直して魔人を狙い直す。
半獣の魔人は横殴りに拳で壁にぶっ飛ばされ、続いて私も剣を貫く。
「あーあー、あははー!ふぁいふぉー!ひもちいい!」
じゅわっと黒い霧となり霧散し、私をすり抜けて背後のエヴ嬢の方へと流れた。
「エヴァァ!最高だったよおお!あいしてるー!」
エヴ嬢はゴミを払うように霧状の魔人を手を振って払いのけ、口から切り取った魔人の肉片を摘まみ出して火にくべた。
「もー!食べてよー!俺の左腕を噛みきった時みたいにがっつりかっぷり!」
「今日、新月だっけ?」
マントを胸元にかき寄せ手の甲で口の回りの血を拭った。
「まだだよん。てか、無視かよぉ?なんかエヴが弱ってる気配がしたから見に来てやったつーのにぃ。熱だして寝込んでるし、いつものアイツらいねーし、据え膳じゃん?食わなきゃ。いや、噛みつかれたいのはオレだけどー!あはは!」
「やめてよ、うるさい」
「ちゃんと精力流して回復しやったからなぁ?ちゃーんとく、ち、う、つ、し、で。エヴはオレの大事な伴侶だから」
「カニバの変態は嫌い。帰って」
「やーだーねー!ドレインのくそやろーがいないんだ。好きにするさ」
あまりの喧しさにムカついて剣で切り払う。身体を二つに裂いても霧状の魔人に対してなんの効果もない。分かっているが、やらずにおれん。
「なーにー?あんたぁ?」
「こっちの台詞だ」
間延びしてふざけた男だが、下位種特有の獣の下半身を持ちながら金眼の虹彩がそれなりの上位種だとわかる。
「ねー、エヴァ。またお供を増やしたのぉ?」
「違う。もう帰って」
「やーだよぉだ」
「ヒムドを殺ったの怒ってる」
「だーってシャーシャーうるさいんだもん。あのバカ猫。別に核は壊してないからまたあの茶髪ちびに作らせればいーじゃん。だいたいあんな弱い使い魔つけて何の意味があんのさ?バカじゃね?」
ほら、と核となる青いビー玉をエヴ嬢の手元に放った。
小馬鹿にした態度に腹が立ち、再度振り上げて切り裂く。あの使い魔が献身的にエヴ嬢を守っているのを見てきた。侮辱される筋合いはない。
「あんた、邪魔すんなよー?」
「あの猫の方がお前より立派だ」
「は、猫の次は犬か。うぜぇ。おら、三回回ってわんって鳴けよ?」
人狼の末裔と一目で見抜いたのか犬と揶揄する。私に向けた手のひらに術式が浮かぶので即座に真っ直ぐ剣を貫くと、肉の感触がある。そして展開した術式がパリパリと割れて粉々に砕け、続けて身を三つに切り裂けば霧状に四散した。
「えー…やな奴」
術の展開で魔力を消費したようだ。霧が減り、少し小さくなっていた。
「殺せないわけではなさそうだな」
「へへ、オレは影よ?本体じゃねーし、死ぬかよ。ばーか」
「影送りだと?高度魔法じゃないか。見かけのわりに上位種なのだな」
隠した片手から魔力を感じて狙い定めて斬り込む。四散する霧から舌打ちが聞こえ、体積が当初の半分に減って肉体を維持できずに人型の薄い霧のまま漂ってる。
「呪い持ちの番犬を増やしやがって。エヴ、お前は本当にかわいいけどかわいくねぇなぁ」
呪い?
適当なことを言って動揺を誘う気か。その程度の敵と軽蔑を込めて一瞥する。
「待って。アモル、呪いって何のこと?」
「ああ?んだよぉ?エヴ」
ご機嫌な声でふわふわとエヴ嬢へとまとわりついた。
「帰れ以外の会話なんて初めてじゃーん。知りたーい?」
「エヴ嬢、どうせ嘘だ。必要ない。」
「はぁ?うるせぇ黙れよ、呪い持ちの犬野郎。魔人のオレが見間違うはずもないし、嘘なわけねぇだろ」
「それはわかってる。だから教えて」
ただでは嫌だとごねれば次はお茶くらいだしてやると優しくささやく。
「それだけか。いや、悪くないね。初めて歓迎してくれるわけだ。アイツら3人が羨ましげに睨むんだろうなー。うわぁ楽しみだぁ。それにどうせ時間切れだし、可愛いエヴになら何でも教えてやるよぉ」
ついっと私へ指を向けて笑った。
「お前、色んな奴に愛されてるけど恨みも買ってるねぇ。かわいさ余って憎さ百倍ってかぁ。はは、大量の呪符が混ざってデカイ呪いになってる。もうそいつは生き物だね」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
96
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる