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第一章 rose.

【 rose.06 】

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 と、言う事で、ジャンと少年は何処か今日だけ数時間、今から働かせてくれる所はないかと歩き出す。

 そもそもジャンが外へ出たのは、腹が減ったがマティアスの血は飲めない、人間と同じ飯を喰おうとしたが金がない、金がないなら、そうだ働こう。そう思ってだった。
 だが、現実はそう甘くはない。
 何件目かを突撃訪問して、見事断られた決して裕福そうではない格好の少年と、紺のダウンジャケットにこの時期に五分丈のズボンを履いた男。
 何がどうしたって無理だろう。
 始めからそう感じていた少年は、諦めたようにジャンに言う。

「それ、寒くないの?」
「死ぬほど寒い」
「だろうね。いっそ変態だよ」
「酷い」

 せめてお手伝いしたら駄賃をくれそうな所、当てがない訳じゃない。
 だが、この男がいるとなるとどうなるだろう?
 そうこうしているうちに、いつの間にかあまり良くない路地に来てしまっていた。

「げっ」

 これは良くないと振り返ると、ジャンが見事に絡まれており、なんて期待を裏切らない人だろうと、少年は疲れた顔をした。

「それならにーちゃんいいとこを紹介するよ」
「え? 本当?」
「あぁそうそう。数時間でたんまり稼げるぜ」

「こんなとこで何してんだよ!」

 ジャンに駆け寄り、その腕を掴むと足早に引っ張る。

「え? お、おいちょ、まっ」
「かーちゃんが早く帰って来いってよ。晩飯の支度、手伝わなきゃゲンコツくらうぜ」

(か、かーちゃんだって??)

 よくわからんが兄弟設定らしい。
 なるべく急いで離れようとする少年に、ジャンは小声でどうかしたのか聞く。

「アイツらはダメだ。てかにーちゃん本当に、世間知らずも大概にしなよ」

 その様子に流石のジャンも察しはつく、暫く歩き続けて、後ろを伺うと。

「なんか、ついて来てんだけど」
「たく、しつこいな」
「……なぁアイツら良くないんだよな?」
「そうだよ。だからこうして撒こうと」

 ふと気付いた。
 何故自分はこんな大の男の腕を引っ張って、変な奴らから逃げているのか、そもそも自分はあの花を買って、そんで大好きな彼女の喜ぶ顔がみたいだけなのにと。

「あぁもうなんとかしてくれよ! にーちゃんだろ!」
「わかった」

 腕をとられながら、ジャンは今だゆっくり追ってくる《良くない奴ら》を振り返る。
 血の色のように色濃く染まる怪しげな瞳が、彼らを凝視した。


『キミタチサ モウコナイデヨ』




「え?今なんか言った?」

 少年が振り返ると、ジャンは「もうついて来てないよ」と言って、笑った。


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