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君が死んでくれと僕に言うから僕は死んだのさ。

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 君が死んでくれと僕に言うから僕は死んだのさ。
 君が死んでくれとあの日言うから僕は死んだのさ。

 君が死んでくれと僕に言うから僕の見る景色は消えていった。
 君が死んでくれと僕に言うから僕の世界は白くなっていった。

 僕が見たもの見てきたもの関わった全ての記憶と感情、その全てが消えていく。
 君が死んでくれと僕に言うから僕はなかった事になるのさ。
 君が死んでくれと僕に言うから僕の全ては跡形もなく消えて、誰の記憶にも僕の記憶にも君の記憶からも死んでいく。
 君がそう望むから、死んでくれと望むから。
 
 僕はなかった事になっていく。


 君が望むから僕は望み通りに死んでいく。


 『別にそれが嫌な訳じゃないんだ。僕は初めから最後まで君の為に存在したのだから、君が泣きながら僕を必要として、君が泣きながら僕に死んでくれと頼むのなら、それは僕にとって喜ばしい事だから』


 君が死んでくれと僕に言うから僕は君の事を忘れたのさ。
 君が死んでくれと僕に言うから僕はもういないのさ。


「お願いだからお願いだからお願いだからもう私から死んで! お願いだから死んでよ!」


 鏡の前で頭を抑えて泣き崩れ、嗚咽しながら君は何度も何度も何度も僕にそう言うから。

 
 もう僕の存在は君には必要なくなったのだから。
 僕はもう死ぬのさ、死んだのさ。

 君が死んでくれと僕に言うから僕はもう直ぐ、僕を忘れる。文字通り本当に死ぬのさ。

 
 けれどもしまた君が傷付いて挫けそうになった時は、きっと僕はまた現れる。
 僕は君の為に生き返る。
 僕は君の為に存在する。
 あぁ僕の最愛の人、大丈夫僕は“君”を愛しているよ。


 君は僕だけで僕は君だけだから。

 苦しくなったらまたおいで、悲しくなったらまた呼んで、ツラくなったらここに来るといい。


 心の深い深い深いところで僕はずっと死んでいるから。

 君が助けを求めるその日まで。


 あぁもうすっかり何も見えない、意識も――――。




――――
――


 
 ゆっくりと瞳を開けた。
 すると真っ先に真っ白な天井が眼にはいる。
 いつの間にか私の身体はベッドに沈んでいた。
 ぼーと眺めていると何かが頬を伝う。
 触ると指先が濡れた。

 涙だ。

「……終わったんだ」

 起き上がり、手足を動かす。
 手を開いて閉じて、動くのを実感すると
 ふと、壁寄りにある姿見を……
 確かにそこには私が映っている。

 久々に見た気がした。いや実際久々だ。

「ただいま」

 
 久々に表に出た。


 その後。
 私はいつもの生活へと溶け込んでいった。
 最初は人が変わったようだと言われたが、昔から私を知る者は元に戻ったのかとも言った。
 けれどそれも時が立つにつれ、誰も言わなくなった。
 
 今の私が私になったから。


 そしていつしか私は私の中にいる存在さえも忘れていった。




『君が僕を必要としなくなったから僕は本当に、死んだのさ』




end.

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