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秋と言えば、紅葉のように頬を染めて。
しおりを挟む『――ごめんね。今まで有り難う』
泣きながらそう言って、彼女は私の前から去って行った。
好きな人が出来たと、その人と結婚するのだと。
「いつかこうなるとは思ってたけどね」
一人ごちると、白い息が秋の空に消えていく。ビュウっと強い風が吹き、ロングコートが捲れ上がった。
秋と言えばなんだったか、そうだ食欲の秋とか読書の秋とか。
(私は別れの秋だな……)
染々そう思って、紅葉を踏みつけると、クシャリと形が崩れる音、その音を聞きながら進み、夕日に照らされた街は、今日も忙しない。けれど寂しく見えた。
雑踏とした街並みから外れて、川岸の公園へと向かう、海から流れてきているそれは橙色へと染まりキラキラとひかる。
それを冊の向こうから眺めて歩いた。
「寒いな」
思わずポケットに手をつっこむ。
あぁそう言えばと、寒いと言った彼女の手をとって、ポケットの中で手を繋いだりもしたっけ。とか、今思えば少女漫画みたいな事をしていたなと、ちょっと恥ずかしく、けれどもうそんな彼女がいない事が、少し寂しい。
(昔から好きになって貰うのに苦労したは事ないけれど)
結局は性別の壁がものを言うのだ。
「結構本気だったんだけどな」
終わる時はいつも一瞬だ。
歩いていると、学校帰りなのか塾帰りなのか、ランドセルを背負った子供達が楽しそうに駆けながら通り過ぎて行く。
(可愛いなぁ)
子供が好きだった彼女。きっとこれから二人で幸せな家庭を築いていくだろう。
そしてあの優しい瞳で嬉しそうに微笑んで素敵な母親になるのだろう――。
そうして彼女がこれから生きていってくれるのならば、私は何もいらない。
(もうあの美味しい手料理を喰えないのは残念だけど)
自分が作ったのより彼女の家庭的な味の方が好きだった。
そう言えば、以前私を好きだと言ってくれた彼はどうしているだろうか。今思うと付き合うべきだったのかも知れない。嫌いじゃなかったんだ。
(悪い事をしてしまったなぁ)
あれから元気にやっているだろうか。
そんな事を考え歩いていると、ベンチにうずくまるように座る人が眼に入った。
何かを我慢するようにうつむき頼りなく肩が揺れる。
私はその人に近づくと「まいったフラれた」と言って、隣にドカっと座った。
背もたれに腕を広げて空を見上げ、あまり暗くなるとここはマズイなと思う。
予想外の事に、先にそこに座っていた人物はビクリと肩を震わし、怯えたように此方を伺っている。
「あんたは? 何かあった?」
ただ空を見上げながらそう聞いた。
暫し間があいて、あぁダメかなと思った時。隣でわっと泣きじゃくり出す。
「彼氏にフラれちゃったんだよお~!!うわあああん!バカー!バカ男ー!!」
まだ清潔なハンカチを差し出すと、それを奪うようにひったくり、顔を何度も拭きだして、ポケットティッシュも出してやれば、それで思いっきり鼻をかむ。
「アイツ浮気してたのよ! なんでそんな事したのよ! って聞いたら私の飯がマズイからだって!! 信じられる!? そんな事でって感じ! 私だってねこれでもどりょくしてんのよ! 少しでもおいじいのをづぐっでだぜるようにこの間だってちゃんと料理ぎょうじついってそんでつぐってそんでそんで、もう男なんて男なんて男なんてもう知らない好きになんてならない」
うんうんと聞いて。
だんだんと言葉尻が小さくなっていく様子を不憫に思い「そうだよね。あんたは頑張ったよ」と背中を摩ると、急に立ち上り声を張り上げる。
「だいいちお前も少しは作れよ!」
「作ってあげようか?」
「え?」と、今気付いたかのようにその人は私を振り向いた。
「どうせ男と諦めるなら私と試しに付き合ってみない?」
え?え?と困惑するその人を前に私は冗談のように言う。
「まぁそれはともかく、私、そこそこ腕のいい料理人でさ、作るのも好きだし味も保証する。だから苦労はさせないと思うけど、もうこんな時間だし」
「のった」
まだ最後まで話していないと言うのに、その人は真っ赤な眼を真剣に向けてそう言う。
「そう?」
そう言って手を差し出すと、何故かムッとした顔で「お腹空いた」と言いって、その手をぎゅっと握ってくる。
「もうこうなったらなんでもいいわ!ついでにあなたに教えて貰ってうんと上手くなってやる!そんでもってそんでもって~!」
ハイハイと言いながら、これはお酒も必要かなと家の冷蔵庫の中にワインがあるのを思い浮かべ、ふと気付く。
そう言えば、彼女と出会ったのは去年の今日かと。
ビュウっと強い風が吹き、二人ぶんのロングコートが捲れ上がった。
秋と言えばなんだったか、そうだ食欲の秋とか読書の秋とか。
(私にとっての秋は、出会いの秋かもな)
私はまだグチグチと言うその人の手を引いて
「それじゃあ、別れと出会いのパーティーでもしようか」
と言うと、その人はムッとした顔で
「あなたさ、ちょっとセリフがクサイよね」
と紅葉のように頬を染めてそう言った。
秋と言えば、紅葉のように頬を染めて。end
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