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梅雨と言えば。

会える。

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俺は無視を決め込む坊主の傘を取り押さえた。するとそいつはこっちをゆっくりと振り返る。
青いビニール傘越しに、被っていた黄色い雨合羽の帽子がパサリと落ちて、そいつのサラサラとした短い黒髪が露になり、真ん丸の大きな瞳がこっちを不思議そうに見上げた。

「さっさと帰れ、風邪引くぞ」
『…………』
「おい、聞いてんのか?」
『オレ、ぼーずじゃないよ?』
「は?」
『ほら、ちゃんと髪あるもん』

坊主はビニール傘から顔を出して、その短い髪を引っ張って見せる。

「あ~わかったわかった! 濡れるから止めろ!」

俺は慌てて帽子を引っ張ると坊主、いや、子供の頭に被せた。

「全く、濡れただろ?」

その子にあわせてしゃがみ、自分の傘を肩にかけると、パーカーのポケットからハンカチを取り出して子供の顔を拭う。

「ほらやっぱり濡れてるじゃねーか。風邪ひいても知らねーぞ?」

拭いていた間は嫌がっていた癖に、拭き終わると何故か子供は嬉しそうに笑った。

「笑ってんじゃねーよ」

両頬を引っ張ってふにーと伸ばす。

『いはっ、あっじ、は、ん!』
「は?」

子供が指差す場所を見ると

「げっ!?」

俺の腕時計がタイムリミットを告げていた。

「ヤベーあと十分しかねーじゃねーか!!」



俺は慌てて立ち上がって、また慌ててしゃがむ。

「ハンカチじゃあんまり意味ねーだろうけど、一応髪も拭いとけ!あとさっさと帰れ!」

そう言って押し付けると、青いビニール傘をしっかりと持たせて、俺は自分も傘をしっかりとさし走り出した。

「クソー!またあのババアに睨まれる~!!」



『…………』

子供は渡されたハンカチを見詰めた。
それはてるてる坊主の柄が脇に控えめに描かれ、何処か可愛い。


『あ……お母さん、迎えに来たかな』


そう言って傘から顔をだし、空を見上げた。





「――あれ?」

石段を全力で駆け降りた所で気がついた。

「晴れ、てる?」

傘から恐る恐る顔を出すと
見上げた空は、雨雲から太陽が顔を出した所だった。

眩しい日射しが辺りを照らしていく。


「うっし!百円使ったかいあったー!!」


俺は走りながら傘を閉じて、バイト先へと一気に坂を駆け降りた。



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