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梅雨と言えば。

君に

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それは六月に入って数週間がたったとある日。
朝起きてTVをつければお馴染みのキャスターが『今年も梅雨がやってきました』的な事を言う。
なんでも例年に比べ遅いらしい。
それ去年も似たような事言ってなかったか?
それはともかく早かろうが遅かろうが全く嬉しくない。

俺は部屋に干した生乾きの服を触って溜め息を一つ。
他のに着替えて一階に降りれば母親はもう仕事に出た後だった。
親一人。子二人。
二階では多分中学生の妹がまだ寝てる。
顔を洗って髪を整えて。
俺は母が用意してくれた飯にも手をつけず、テキトーに冷蔵庫からパンを取り出して食べ、歯みがきをするとバイトに向かう為家を出た。


外に出れば思っていた以上のどしゃ降りで、バシャバシャと騒ぐ雨音に顔をしかめた。

俺のバイト先は近所の小さなスーパー、そこでレジ打ちのバイトをしてる。
スーパーのエプロンを身に付けてお客さんが買う商品をピッピッと手際よくさばく。そんな仕事。
日曜の今日、朝からバイトが入っていた。
開店は八時から、バイトの俺は七時四十五分までにレジに立っていれば問題ない。
それなのにリーダーのおばさんは来るのが遅い、と言う顔でこっちを睨むから、なるべく七時半にはレジに立っていられるように家を出る。

ビニール傘をさしながらバイト先へと向かい、持ち物と言えばこの傘だけ。
普段なら自転車で行く道を俺は歩いて進んでいた。
このどしゃ降りの中、自転車で突っ走ったら傘なんてなんの意味もなく、多分びしょ濡れになって、その姿でレジに立つ事になる。
そうなったら笑えないと、確実に雨から身を守る為、歩く事を決意した。幸い向い風もない。
とは言え、ズボンの裾だけはどうにも回避出来ず、見事に濡れていた。


「あーあー、やっぱり自転車の方が良かったか?」

考えてみれば自転車の方が早く目的地につく訳で。


「ま、どーでもいーや」



人も車も通らない狭い道路の坂道。
そこを登ると右手に林が現れて、暫くすると鳥居がある。
鳥居の先にはさして長くはない石段が続き、その石段を俺は慣れた足取りで登った。
石段を登り終えると、人のいない、でも人の手がかかってる小さな神社。
俺はなんとなくこの場所が好きで、昔から遊び場にしたりとよく立ち寄っている。
今でもバイトに行く前は必ず立ち寄ってなんとなくお参りをして、そしてダレた気持ちを切り替えて仕事に挑むんだ。

俺はいつも通りお賽銭を財布から取り出した。
いつもは五円とか十円とかだが、今日は奮発して百円を投下。
百円玉が入って行く音を確認して、デカイ鈴のついた縄を揺する。

カランカラン。

正直ちゃんとしたやり方は知らないので、とりあえずパンパンと手を叩いて、いつも通り両手を合わせて拝んだ。

(雨が止みますように……)

せめて帰りだけでもなんとか、百円入れたんだなんとか頼む。
いつもより念入りに拝んでいたその時。


『ピチピチちゃぷちゃぷランランラン』


どしゃ降りの雨音に掻き消される事なく、まるで歌うような子供の声が綺麗に聞こえた。
その声とともに水溜まりをパシャパシャといわせる音も聞こえる。 

ハッとして声がする方を見ると、少し離れたその場所に黄色い雨合羽に赤い長靴、青いビニール傘をさした子供が遊んでいた。
声の正体がわかりちょっとホッとする。
場所が場所だけに正直お化けか何かかとちょっとビビった。
俺はなんとなくそいつに近付く。


『ピチピチちゃぷちゃぷ』

「おいコラ坊主、こんな日に遊んでたら風邪ひくぞ。」

『ランラン』


「おいコラ」




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