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嘘か誠か分からぬ花屋。
番外 その気持ちは、まだ芽吹いたばかり。
しおりを挟む「――朝彦さん」
ある町の花屋の青年の名前は朝彦と言う名だ。それを異国の血が混じる彼が知ったのは本当に最近だった。
最初はただ、よく通る道にあるちっぽけな花屋の男。それぐらいの印象しかなかったが、通るたびその姿を眼にしてはだんだんと気になって気になって仕方がなくなっていた。
もう一度「朝彦さん」と小さく口にしてみる。すると心が不思議とふわっとするような暖かくなるような、照れるような妙な感覚がした。
「呼んだかい?」
思いもかけない言葉に、弾かれるように後ろを振り向くと、そこには箒を片手に持って立つ、朝彦の姿があった。
「僕の名前、知ってたんだね」
「誰かから聞いたかな?」と、朝彦は人好きのする笑みを浮かべる。
「君、いつも此方をみているけれど、花が好きなのかい?」
予想外に声をかけられ、返事が出来ずにいると、不思議そうに小首を傾げられた。
(……っ!)
何故か急に顔が熱くなり、思わずそっぽを向いてしまう、それを直ぐに後悔して、声にならない言葉を心の中であげていると、ふふっと笑う声。
「そんな恥ずかしがらなくても、僕も花が好きだよ」
花が好きだという事を恥ずかしがっていると思ったのか、朝彦はそう言って小さな鉢植えを持ち上げ、花を愛おしそうに眺める。
「これなんかどうだろう?」
差し出されたのは可愛いらしい青い花。
「君の瞳のように綺麗だ」
そんな事を言われたのは初めてで、面食らう。
「あまり好きじゃなかったかな?」
「……いや、うん」
本当は興味など全くなかった。
「好きだ」
この国では珍しくない、真っ黒な瞳。けれど誰よりも美しい瞳をしっかりと見詰めながら〝嘘〟をつく。
すると、その瞳は嬉しそうに細められ。
「良かったら名前、教えてくれる?」
自分を見詰める瞳、どきどきと鼓動が高鳴る。
(あぁそうか、そうなのか。この気持ちは)
「俺は――」
その気持ちは、まだ芽吹いたばかり。END.
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