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第六章
馬には乗ってみよ人には添うてみよ32
しおりを挟む要約するとハクイに子供らの服を渡すよう押し付けられ、既に事情を知らされていた彼はもちろん俺が行ってどうすると言ったそうだ。すると今度は魔王の所へ寄って行くように言われたと。
言われる前から文句、もとい挨拶をしに行くつもりであったエルディアブロは苛立ちを覚えつつも開いていた魔王の部屋の窓から入った。
すると待っていたかのように菓子を手渡され、さすがにやり過ぎたかも知れんと言ってエルの顔を見れば喜ぶからと菓子はお前からの手土産にしてくれと言われたと。
「えぇ、お前さっき魔王さまからだって教えちゃってたじゃないか」
「わざわざあの男の都合に合わせて動いてやる必要などない。顔を見せ菓子も渡し服も渡したんだ十分だろう義理は果たした」
「まぁ確かにそうかもだけど」
「……なんだ、文句があるのか?」
「いや文句と言うか」
「貴様ではない、そっちだ」
言われて目線の先を追うと青年の腕に抱かれているリーベがじーと真っ直ぐエルディアブロを見詰めていた。本当にただ真っ直ぐじっと見詰めているのだ。なにか言いたいことがあるのかそれともただ見ているだけなのか。
「……」
「……」
謎に両者のにらみ合い、いやリーベはただ見詰めているだけだが、とにかく見詰め合いは続いた。もちろんその沈黙を青年が直ぐに破ったが。
「そう言えばエルってあの子たちに赤ん坊が泣いてたら抱っこしろって教えてるのか?」
青年が馴れ馴れしくも愛称で呼んだので勿論エルは癇に触ったが、さすがにきりがないと彼は手で苛立ちを振り払ったあとなるべく落ち着きはらう。
「……教えているわけではない。そいつがここに来た頃アイツらが赤ん坊が泣いていたといちいち報告しにきて煩わしかった。だから「抱き上げろ」と言っただけだ」
「それを教えたと言うんだよ」
「フン」
「でもなんで抱き上げろなんて言ったんだ?」
「まさか違うとは言わせないぞ。お前たち人間は赤ん坊が泣いていたらだいたい抱き上げてあやしている」
確かにその傾向はある。と言うかあやすと言う言葉を知っていることに驚いた。それと同時にやはり悪魔は人間のいる領土内に頻繁に来ているのだと確信する。そうでなければどうして〝だいたいこうしている〟などと言えるだろうか。
青年はこちら側に連れて来られた際にハクイの魔力によって途中まで空を飛んでいた。なのでここからあちら側までの距離をおよそ知っている。意外と近いのだがそれでも距離はある。だが翼がある彼らにとってはたいしたことではないのだろう。
「なぁもしかして、俺たちのところで何かにと盗んだりとかしてない?」
「なんのことだ?」
(待てよ。盗んだ自覚がそもそもあるのか?)
「アイツらのことなら普段から勝手にどこからか持ってくる。俺はいい迷惑だ」
(やってるわ)
青年が知ってしまった事実に頭を痛めていると、ばさりばさりと翼をはためかせる音がいくつも迫った。
「エル様~!」
見上げると上空から勢いよく降下してくる悪魔の子たちの姿。
地上に降り立つとあっという間に取り囲んでなぜか「エル様ありがとー!」の大合唱状態となった。
突然「エル様ありがとー!」の乱れ打ちに勿論エルディアブロはわけが分からず普段から不機嫌な顔が困惑から更に不機嫌になる。
(なんでコイツ、こんなに好かれてるんだろうな)
「貴様ら一旦黙れ!」
「「はーい!」」
しびれを切らして怒声を上げるエルディアブロ。舌打ちだけで静まり返っていたのがまるで昨日のように元気なお返事、にこにこ笑顔の子供たち。
(本当になんで好かれてるんだ?)
「説明しろ」
「エル様に貰ったってハクイ様に言ったら、お礼を言ったかって言われたの!」
それを聞いてエルディアブロは「これはアイツが」と言いかけたが、その声は「ありがとうって伝えたかって!」と被せられた声にかき消された。
「もういい分かった黙ってろ」
うんざりと苛立ちを混ぜたような雰囲気を全身に纏いながらエルディアブロは背を向けて飛び立つ。
「どこ行くんだ?」
「……愚問だ」
落ち着いた声色だったが怒気がこめられていた。そのまま子供たちが先程向かった方向へと消えて行く。青年はその姿を遠い目で眺めながら
「……あれは照れからくる苛立ちなのか、それとも騒がしい原因つくりやがってなのか、あるいは用意したのは自分じゃないと言う苛立ちなのか」
もしくはその全てかも知れないと。
「んー気難しい性格してるなぁ。あれだと色々しんどいだろうな」
すると戻って来たセルゥが「お待たせー」と言ってまるで頂戴と言うように青年に両手を伸ばす。
青年はなんのことかと考えて「あら、もういいの?」と言われて察した。
リーベもセルゥが戻って来たのが嬉しいのか青年の腕から身をのりだそうとする。
「り、リーベわかったから」
腕から滑り落ちそうになるリーベを支えながらセルゥに抱っこを代わって貰う。
「あーい、うぁー!」
「ふふふ、なんて言ってるのかぜーんぜんわかんないわ~」
「きゃーあ」
「やっぱりわかんないわね~」
「むぅうう」
ふてくされたリーベにぎゅうっと抱き締められてセルゥは楽しそうだ。
すっかり仲良くなった二人に触発されて、青年は立ち上がる。
「よおし俺も仲良くするかー!」
リーベをセルゥに任せて、畑で遊び始めた子供たちの所へ。
「おーい俺も混ぜて~!」
「うわ! 人間がなにしに来やがった! 一応お前らに近づくなってハクイ様に言われてんだよ!」
「人間じゃなくてロワな! お前ルゥだろ!」
「だったらなんだよ!」
「俺と勝負しよう! 畑のこっからここまで先に水を撒き終えた方が勝ち! まぁタッパが違うから確実に俺の勝ちだけど。まさか人間に負けるのが怖いとか言わないよな?」
青年は自身の脚を叩いてにんまりと笑ってみせる。
するとまんまと挑発にのったルゥが腕を捲った。
「フンッバカにすんなよ! 翼もない人間に俺が負けるわけないだろ!」
「あー飛んでもいいけど雑な出来だったら減点な」
「はぁ!? お前なんて飛ばないで相手してやるよ!」
二人の様子を見て面白がった誰かが「よーいどん!」と掛け声をあけだ。
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