魔王と王の育児日記。(下書き)

花より団子よりもお茶が好き。

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第六章

馬には乗ってみよ人には添うてみよ28

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  ◇


 昼前、青年とリーベは城の庭の石段に腰掛けていた。もちろんリーベは青年の腕の中。
 日和も良く空は青空、大地は手入れが行き届いたリトスの花々が香る庭園だ。

「……いい匂いだな」

 どこか落ち着く、けれど濃密で甘いのに嫌味のない爽やかさがある。改めて意識するとどこかで嗅いだ事があるような気がする香り。ぼーと考えて、ああそうだと思い至る。

「なんか癪だな」

 気付いてしまって自分が少し嫌になった。

「知らず知らずのうちに意識してしまってないか……」

 いやいやそんな筈がない気のせいだと考えを打ち消した。

「そう言えばハクイ様はバニラっぽい香りがするなぁ」

 女性と見紛うほどの超絶美形、いや美人なせいでそりゃ勿論良い香りがして当前だと気にもとめなかったが、意識して考えてみればあれはバニラの香りだ。

「カミルラ様は薔薇の香りっぽいかも。ね、リーベ」

 膝に乗せたリーベを覗き込んでぎゅーと顔を近付けて髪に鼻を埋める。

「ん~リーベはお日様の香りかな~」

 くすぐったいのかキャッキャッと笑うリーベ。
 青年は顔を上げて楽しそうなリーベに目尻を下げる。するとどこからかリーベとは異なる子どもの騒がしい声が聞こえてきた。
 もしやと腰を上げてリーベを抱きかかえ、声のする方へと近付くと、こじんまりとした花壇と畑が見えて来る。
 その花壇や畑で見覚えのある浅黒い肌に黒い翼を持つ子たちが苗や花の世話をしていた。

(してるんだよな……あれは)

 関係ない土をいじり遊んでいるようにしか見えない。

(いや、してるんだろう)

 花に水をやらず互いにかけあって遊んでいるようにしか見えないが。
 ……くだらない先入観は捨てよう。そうだ捨てるべきだ。例えそれがあの悪魔の子たちであったとしても。
 正直言うとあれからどうしているのかとちょっと気になっていたのだ。出来ればリーベがいない時に出会いたかったが流石に先日の件で懲りただろうと、青年はもう少しだけ近付き付近の石段に座ると子ども達を眺めた。

「あら? あらあらあら」

 少女の声に顔を上げると、空からボブヘアーの女の子が降りてきた。
 黒いワンピースを翻して着地すると黄金の瞳でこちらを覗き込む。

「なーんでこんなところにいるの? 結界から出たら死んじゃうって聞いたけど、あれは嘘だったのかしら」

 青年達に気付き声をかけて来たのはあのセルゥだ。青年は少し警戒したがどうやら彼女は不思議そうにこちらを見るだけで何かするつもりはないらしい。

「これのお陰だよ」

 青年は首元から下げ、服の内側に隠していた魔晶石を取り出す。それはイェンから貰ったあの緑の石だ。
 なんだかんだでこの石の存在はバレずに済んでいるのでこうやって隠し持っている。まぁ本当はカミルラの結界にも守られているのだが。
 セルゥはそれを見て「なぁにそれ? 変な石」と口元をおさえてクスクスと笑う。

「セルゥだっけ?」
「そうよ」
「これはね綺麗なんだよ」
「きれい?」

 セルゥはきょとんとする。

「そう、ほらこうすると向こうが透き通るように見えるだろう」

 太陽光に当ててセルゥへ見せるとセルゥはその石を覗き込む。

「ただ赤ん坊の顔が見えるだけよ?」
「濁ってなくて綺麗だろ?」
「そうねぇそうかも」
「もしこれに傷が多ければ高価な石に見えなくもなかったな」
「高価な石?」
「宝石だよ。エメラルドって言うね。その石をカットして装飾品にするんだ」

 セルゥは興味なさげにふーんと頷くと石から眼を反らしリーベへと視線を向ける。

「あらあなた、久々に見たけど元気そうね」

 リーベは返事をするように「だーあよ」と言ってセルゥへ手を伸ばした。するとセルゥはクスクスと笑う。

「気になってたのよ。なんともないのかしら?」

 青年はその様子を見ながらちぐはぐだと思った。まるで何かあればいいと思っているようにもとれる言動。
 だがセルゥはリーベを抱えて逃げていた時も腕から滑り落としてしまった時もリーベを心配しているようだった。そう考えるとこれはこれで彼女なりにあの時の赤ん坊が無事で安堵していると言うことなのだろうか。
 ならやはりちぐはぐだ。感情と言動が一致していない。

「リーベなら心配いらないよ。あのあと医者みたいな人に見て貰ったけど怪我もなくてね。ぐっすり寝たらこの通り、抱っこする?」
「えぇあたしがなんで?」
「リーベが抱っこして欲しそうだからね」

 よっぽどセルゥがいいのか青年の腕から身を乗り出す勢いでリーベは彼女へ腕を伸ばしている。「仕方ないわねー」と言ってセルゥはリーベを抱き上げるとそのまま青年の隣に座った。


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