魔王と王の育児日記。(下書き)

花より団子よりもお茶が好き。

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【 未 来 】

リーリア【おまけ】

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 ――――
 ――


 あの日は丁度、もうお店を閉める時間だった。
 店の裏口を出て、ふと足下に気配を感じ視線をおろすと見知らぬ人が倒れるように壁に背を預けていた。
 くすんだ黄金色こがねいろの髪に直ぐ魔族ではないと気付く。魔族には黒か白、赤か灰色の髪の者しかいないから、もしかしてだろうかと思うのに時間はかからない。
 でも何故こんな所に? 近頃は人間も魔族の領土を出入り出来るようになり、珍しい存在ではなくなったと大人達は口々に言うが、とはいえ店の裏でこんな風に死にそうな哀愁を漂わせている人は初めてだった。

 ぐぅう~

 まるで示し合わせたかのように鳴ったその人の腹の音に思わずクスリと笑ってしまう、そうだと思い立って店の中へと戻り、表から下げた余った菓子を皿事持って裏口へ出た。
 どうぞと言って目の前に菓子の皿を出すと、その人は顔を上げ、乱れた髪の隙間からその瞳を見開いた。

 それは見た事もない綺麗な空色の瞳。
 私達の頭上にいつもある何処までも広がるあの昼間の空のような。

 それに見惚れていると、その人は「くれるの?」と訊くので、勿論と微笑む。すると勢い良く口につめこむものだから、案の定喉を詰まらせた。慌てて水を取りに戻り、その人へ渡す。余程苦しかったのか傾け過ぎて口から水を溢れさせてゴクゴクと飲み切った。

『有り難う』

 とまさに生き返った顔で笑う。

『いや助かったよ』

 と今度はおかしそうに。

 君は俺の恩人だよ。と言われて初めてこの人が男性だと気付いた。
 魔族は見た目で直ぐに分かる。だって髪色が白か黒であれば男だから。
 けれど人間は皆バラバラで体型や言葉使い、声など色々観察しないと性別が分からない。

『名前を教えてくれないか』

 そう言われて〝リーリア〟と答えると、そうかリーリアか、いい名だなと優しく微笑まれる。
 どうしてこんな所に居たのかと聴くと〝財布を盗られて途方にくれていた〟と言うから私は彼の腕を引っ張って店の中へと招き入れる。

 ここで暫く働いたらいいよ。
 私もそうなの。住み込みで働いているの。
 大丈夫。おじちゃんもおばちゃんもとっても良い人だし、貴方も悪い人に見えないわ。だって盗られた側なんだもん。

 すると〝そうか盗られた側か、なるほどな~〟と言って笑う。そのままご夫婦に話をして、彼を快く雇って貰えた。
 私は家族が増えたみたいで嬉しくてウキウキしながら世話をやく。
 まずは土埃だらけの服を洗うからと早く脱いでお風呂に入ってと急かすと、わかったわかったと言って脱衣所に消え、脱衣所の扉から外にある籠へと服を投げていく。
 その籠を持ち上げて私は洗濯をしに外へと出ると水でじゃぶじゃぶと洗う。
 夏の夕暮れ時、流石にちょっと寒いかなと思いつつも綺麗に洗い上げれば、それとなく上等な生地の服だと気付いた。わざわざ魔族の領土に来るくらいだからそれなりにお金に余裕のある人なのかも知れない。
 でもこんな服を着ていたら、追い剥ぎにあわないのだろうかとちょっと心配になった。でも見た目は農夫の服だからバレないのかも?

 洗い終えて、流石にもう夜になるからと、服は部屋干しにする。
 そう言えば、代わりの服を用意していなかったと脱衣所に戻ると、彼はダボッとした服を着て、頭をタオルで拭きながら出て来た。
 どうにもおじちゃんが彼に代わりの服を用意してくれたらしい。

 けれど私はそんな事よりも彼のその髪に眼を奪われた。

 くすんだ黄金色こがねいろの髪が今は黄金色きんいろにキラキラと輝く透き通るような鮮明さ、まるで宝石か何かのように、そして彼のその眉も、睫毛でさえも同じように輝く。

 とても不思議な雰囲気だった、それはただ美しくてぼーと見惚れていると、〝あっ〟と声を上げて彼は脱衣所へと戻る。〝ヤベー染めんの忘れてた〟と言って何やらゴソゴソと物音がしたかと思うとひょこっと扉から顔をだす。

『見なかった事にしてくんない?』

 先程まで輝いていたそれらは、元のくすんだ色に戻っていた。

 苦笑しながら言われて、私は何度か頷いた。
 きっと何か理由があるんだろうと、だってあんなに綺麗だったから。


 ――だから、直ぐにわかった。

 ここで待っていてと、助け出してくれた騎士に言われて、でも本当に助かったのだろうか、また騙されているんじゃないだろうか。そんな風に一人怯えていると、馬車の扉が開いてその人が現れた。

 その瞬間、身体が動いてた。
 床を蹴って、その輝く光のような人の胸に飛び込む。

 見慣れた姿とは違うけど、それでも確かにそうだと思ったから。

 でもまさか魔王さまの伴侶だったなんて。
 それだけは心底驚いた。

 魔王さまが結婚した相手が人間だという話は以前から聞いていたけど、私はその時はまだ此方にいなかったから……。

 乗り換えた馬車に揺られ、既に農夫の姿に着替えた彼を眺める。
 私の向かいに座ったその人は馬車の窓から楽しそうに外を眺めて微笑む。


「あぁリーリアもう直ぐ付くよ君の帰るべき場所に」


 そう言われて、窓の外に顔を出す。
 きっと広がっている懐かしい景色に想いを馳せて。



end.

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