魔王と王の育児日記。(下書き)

花より団子よりもお茶が好き。

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【 未 来 】

魔王と先王【中】

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 を騎士に連れて行かせ、庭にでると待っていたかのように顰めっ面をした藍色の騎士がそこにいた。

「これはこれは近衛隊長どのが何故このような場所に?」

 綺麗に散髪された藍色の頭髪、青年とは違いしっかりとした身体付きで流石伊達に王を護る騎士をやっていない。だがその騎士がどうしてこんな所にいるのか。青年は分かっていながら問う。

「しらばっくれるな。陛下にお前の様子を見て来いと言われたに決まっているだろう!」

 青年より大きな図体が地団駄しそうな勢いでいかる。

「ハハハ! 悪かったよ。何、もう終わるからさ目を瞑ってくれよ。別に悪い事をしてるワケじゃないんだし」
「あのなぁだとしてもお前はまた勝手に騎士団を動かしやがって、シファーが困っていたぞ。王国騎士団は一応アイツが頭だからな」
「まぁまぁそうは言っても今回ばかりは譲れなくてさ」
「毎回そう言ってないか? まぁ動くコイツらもコイツらだがな」

 するとアルデラミンが青年の後ろへ冷めた目を向けた。

「殿下ーー!! フィン王殿下!」

 お、来たかと青年は振り返る。

「見付けました! 探されていた子を! 今此方に」

 ゼーハーと肩で息をしながら報告するのは、最近入った若者だ。なんでも騎士になる前から“先王”を慕っており、要は青年を慕って入団したとか。

「本当か!? 直ぐに向かう何処にいる!?」
「え、いえ此方に連れて来ま」
「いいから何処だ!?」
「あ、あちらに移動してって殿下!」

 最後まで話を聞かずに青年は駆け出す。アルデラミンはやれやれとその後を追う。

 途中で追い付いた若者に案内され、ある馬車の扉を開けた。そこには窓際にちょこんと座る赤髪の少女がいるだけで、他に人はいない。
 若い騎士が配慮してくれたのだ。
 少女が此方に気付き、その緑の瞳を見開くと、大きな瞳に溢れんばかりの涙を浮かべて立ち上がる。
 青年は両腕を広げ、飛び付いてきた少女を受け止めた。

「ロワさん……!」
「リーリア!!」

 わっと泣き出して抱き着く少女に応えるようにしっかりと抱きしめ返す。

「無事で良かった! いや待て怪我はないか!? 何もされてないか!?」
「わ、私は大丈夫。まだ順番きてなかったから、でもちょっとお腹空いた」
「リーリア……! 間に合って良かったっ!」

 感動の再会を果たしたらしい二人の横で、アルデラミンは頭をかいた。

「あーだいたい察しはついてるんだがな、いったい何があったんだ?」
「あぁ実は」

 そもそもリーリアというこの魔族の少女は、魔族の夫婦が営む小さな店で野菜や菓子などを売り、住み込みで働いていた。そして夫婦は娘のように可愛がり、家族のように暮らしていたのだ。
 青年はそのリーリアとはもう2年近く親しくしている。と言うのも、ある日青年は城を出て地方の様子を見に回っていたのだが、帰りの資金をスられた事に気付き途方にくれていた。オマケに腹まで鳴くしまつ。
 その時行き着いたのがリーリアが働く店だった。店の裏手で粗末な木の壁に背を預け、表から漂ってくる菓子の匂いを嗅ぎながら食べた気になっていると、裏口から出て来たリーリアと鉢合わせした。
 その時青年はリーリアと店の夫婦に助けられたのだ。飯を奢って貰い、店で働かせて貰ってなんとか帰りの資金を稼いだ。お礼とお別れを言って立ち去った後も、青年は度々顔を出し買い物したりあの時の礼だと何かしら手伝ったりしていたのだが……。
 最近になって夫婦の店は売れ行きが乏しく暮らすのがやっとになっていた。
 夫婦にとってリーリアはもはや自分の娘も同然。これでは育ち盛りのリーリアを満足に食べさせてやれないと思い詰めていた矢先。夫婦にある話が舞い込んだ。
 それはリーリアを引き取ってくれると言う話。
相手は身なりも良く、育ちも良さそうでリーリアを学校にも通わせてくれると約束してくれたのだ。これならきっとリーリアが何不自由なく暮らせるだろうと。
 夫婦はリーリアにも相談し、三人で納得して決めた事だったが……。

「それを聞いて妙だと思ったんだ。最近そんな話が魔族や人間の間で流れていた。“身なりの良い男が現れて、行き場を失った子供達をの所へ連れて行って下さる”って話がね。それで調べたら案の定だ。今頃あの男に手を貸した魔族の一身を魔王さまが捕らえてるだろうよ」

 青年はしゃくり上げながら泣く少女を抱き上げる。

「ご夫婦な、リーリアに申し訳ない事をしたって、帰って来てほしいって泣いてたぞ」

 それにと青年はリーリアと目線を合わせた。

「ご夫婦とお前の就職先も決まった」

「え?」

 思わずリーリアの涙が止まる。

「お城で働いて貰う事になったんだ。ちなみにお前の就職先は学校な。サボらず毎日勉学に励めよ」
「え、ど、どうして? そんなまさか」

 信じられないとリーリアは戸惑う。すると青年はニヤリと笑った。

「なんてたってリーリアは魔王の夫である“俺”の恩人だからな。行き倒れてる男に情けはかけておくもんだろ? なぁリーリア」

 するとリーリアは瞳を歪め涙をボロボロと零す。


「わたし、私! 帰りたい! 帰りたい!」

「あぁ帰ろう俺達の場所へ」


 その横でアルデラミンが肩を竦めながらも笑みを浮かべたが、ふいに顔を曇らせ皮肉だなと呟いた。
 その意味に気付いた青年も深く頷く。

「少し前までならあの男も魔族を商売の道具にしようなどとは思わなかっただろうな。何しろ魔族は恐怖の対象だったんだ」
「それが今では魔族と簡単に交流出来るようになり恐ろしい存在ではないと知れ渡った。何かが変わると良い事ばかりではないのは当然だ。あまり気負うなよ」
「当たり前だ。後悔などする筈がない」

 全ては自分の行動がきっかけで変わった事だが、後悔はしない。自分のせいでなどと思い上がりもしない。
 確実にこの国は良い方向に向かっている。人々の意思で。

 青年は首に下げた魔晶石を撫でる。


「よし行こうか、ご夫婦と我らが魔王さまが待っている」


 魔王から貰ったその魔晶石が色鮮やかな紫に光った。


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