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【 過 去 】
王の血の忠義者。
しおりを挟む――さることながら、私はよわい10年にして陛下の傍でお仕えする身に余る光栄を賜った。
この国の王の象徴である黄金の頭髪に黄金の瞳。
そのお姿を一目拝見した時から私は私の人生を身も心も全て捧げると誓った。
――よって、決してこの者ではない。
私の陛下は決してこの者ではないのだ。
宮殿のバルコニーから民衆の前へ姿を現す二人の男女。
その内の一人が一歩前へ出て民衆へ向け手を振り笑みを見せる。新たな王の誕生に民衆は活気だった。
その姿を表面では笑顔を張り付け後ろから見守る。
暗殺を目録者が紛れ込んでいる可能性もある。何処からか銃撃される可能性もある。もちろんそれにも気を配った。
けれど心中穏やかではない。
(決してこの者ではない、決して――)
「どうかされましたか?」
式典を終え、移動中にサラ様が私めに声をかけられた。
お美しい黄金の長髪に作られた空色の瞳。本来であればその瞳を隠す必要などなく過ごされておかしくないお方だ。だがこの方は幼少の頃からそれを余儀なくされている。
そして察しの良い方なのである。私の様子がおかしい事に勘づいたのでしょう。少し困り顔で背の高い私を見上げている。
私はいつものように穏やかな笑みを張り付けた顔で「サラ様のご心配には及びません。ただこの後の予定を考えておりました。忙しくなりますから」とこたえその場から離れようとした。
けれども直ぐにもう一人の存在に呼び止められる。
「どうかしたのか?」
こちらも勘の鋭いお方だ。サラ様と良く似た顔のそしてサラ様とは違い本物の空色の瞳を持つお方、決してこの心中をさらけ出す訳にはいかない。
そちらを振り向いて私はいつものように笑みを浮かべ頭を垂れる。
「陛下の心配には及びませんよ。全て滞りなく進んでおります」
「そうかやはりお前がいると助かるよ……けれど無理はしないでくれ。お前の心中はわたしも分かっている」
「…………身に余るお言葉です」
陛下が私の肩を二度程軽く叩く「頼んだぞ」と声をかけて。
二人が立ち去るのを待ちながら、私の心は怒りに震えた。
(いったい私の何を分かっていると言うのか!)
二人が立ち去るのを見届け踵を返す。
この王宮はもはや歪んでいる、どうしてあの者を次の王へと選んだのか。
本来であれば黄金の頭髪と瞳を持つサラ様こそが選ばれるべきである。あの方は才女で王の血も流れている、女である事を除いてはなにも問題はない筈だ。
それがどうして陛下の直系と言うだけであの若造になるのか、私の陛下はあの者ではない。私の陛下はこの世でただ一人である。例え今は亡き人であろうともそれは変わらない。
唯一無二の〝黄金の王〟
それがこの国の王たる証ではないのか。
そして今確かにその血を淀みなく受け継いでいるのは〝サラ様〟お一人ではないのか。
廊下に敷かれた深紅の絨毯の上を歩きながら壁に飾られた歴代の王と王妃の絵画の中からある一点を見つけ出し心の中で睨む。
(全てはこの女の血が混じったが故に)
それは天使のように美しい女性の絵だ。
美しい金の頭髪にこぼれ落ちそうな空色の瞳。
愛嬌のある笑顔で水色の花と黒髪の赤子を抱いてこちらを見ている。
けれどとても破天荒な方で歴代最大の悪女として現代まで語り継がれているお方だ。本来であればこの絵画の中に紛れている事さえどうかしている。
だがその時の王はこの女性をとても大切にしていたともきく、その為未だにこの方が発案した政策などがそのまま続いているとも。
既に亡くなっているとはいえ忌々しい女だと私には思えてならない。
腹黒い感情が渦をまきながらふと思い出す。
『周りは怒るかも知れないが黄金が全てではないのだよ。例えば私がお前のように銀の髪に若松色の瞳でも別にこの地位にいて何も問題はない、だからこの子もこのままで良いのだ』
我が子を愛しそうに抱き上げながら私に語りかけるその姿を私は今も鮮明に覚えている。
けれど私はその言葉に今でも頷く事はできない。
物思いに更ける私を誰かが密かに呼んだ。私は私の道へと歩むため絵画へ背を向ける。
「必ず私が正しい道へと戻してみせましょう。必ず」
けれどこの時、私はその内面の姿を既に悟られているとは思いもしなかった。
「――――陛下、シファーですけど」
「わかっているよサラ……心配しないで」
その空色の瞳が寂しそうに揺れた。
王の血の忠義者 end.
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