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【 過 去 】
サラ
しおりを挟む物心ついた時から当たり前のようにそれを目に嵌めて、私は表を歩いた。
この黄金の瞳を隠して。
ただそれが当たり前であったから疑問に思う事はなかったけれど、時折それがとても面倒に感じた。
ある時、私の瞳は真っ赤に充血してとても痛かった。
珍しい事ではなかったけれど、その時は本当に痛かったから、初めて何故こんな物をつけなければならないのかと疑問に思った。
他の人達はどうやってこの痛さと向き合っているのか。
『サラ、どうしたの? また眼が痛いの?』
私とうり二つの顔が部屋の扉を開けて入って来る。
空色の瞳と黄金の髪の
私がたまに眼に嵌める硝子のレンズと同じ色の瞳に私と同じ髪色の。
私より二つ歳上で、まるで兄のようで他人のように遠い人。
『うわ、これは酷い。どうしてそんなに長くつけてたんだ? いや“わたし”のせいか』
他の人は痛くならないのか尋ねると、その顔は困ったように笑った。
『お前だけなんだ。ごめんねサラ』
この時はじめて私だけだと知った。言われてみれば確かに私以外につけているような素振りはなかった。
けれど今さらこれをつけるのをやめようとは思わない。
私にとっては日常だから謝る意味が分からないと伝えると彼は苦笑した。
『安心してよサラ。今にそんなもの必要なくなるさ』
そう言って胸を張る。何を根拠にそんな事を言えるのか。けれどもその言葉がいつか本当になるのではと思えるから不思議だ。
いや、そう思わせる人なのだ。
それから大人になるにつれて私はどうして私に“それ”が必要なのか周りが見えるようになっていた。
そしてそれを嵌めて、私は“わたし”として表を歩く。
何故私がこんな事をと文句を言いながら、けれど最後には必ず彼が駆け付けてくれると知っている。
「ところで、あの時なんとかしてくれるとおっしゃってましたけど、それどころか日に日に私の負担が増えてませんか?」
すると、古いしきたりや決まり事を馬鹿げていると話す時のように、彼は私へ笑みを向ける。
「心配ないよサラ、もう直ぐだ。あの場所は君にこそ相応しい」
心配ないの意味を何処かでわかっていた。
けれど、いつも馬鹿らしいと言う口でそれを言うのかと思う。
だってあの場所は、貴方こそ相応しいのだ。
私には必要ない。
「またよく分からない事を言わないで下さい。貴方が大人しくここに居て下されば私はこんな事しなくてすむんですから」
だから私はワザと分からないフリをする。
「そう言うなよ。だが本当にお前には助けられている」
“感謝してもしきれないよサラ”
そう言って輝くように微笑む姿に私はやはりこの人しかいないと思う。
だからその為ならこの瞳を隠す事など厭わない。
私はドレスを翻し、彼のあとをついて人々の前に出た。
end.
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