魔王と王の育児日記。(下書き)

花より団子よりもお茶が好き。

文字の大きさ
上 下
161 / 168
【 過 去 】

サラ

しおりを挟む



 物心ついた時から当たり前のようにそれを目に嵌めて、私は表を歩いた。

 この黄金きんの瞳を隠して。
 ただそれが当たり前であったから疑問に思う事はなかったけれど、時折それがとても面倒に感じた。
 ある時、私の瞳は真っ赤に充血してとても痛かった。
 珍しい事ではなかったけれど、その時は本当に痛かったから、初めて何故こんな物をつけなければならないのかと疑問に思った。

 他の人達はどうやってこの痛さと向き合っているのか。

『サラ、どうしたの? また眼が痛いの?』

 私とうり二つの顔が部屋の扉を開けて入って来る。

 空色の瞳と黄金きんの髪の

 私がたまに眼に嵌める硝子のレンズと同じ色の瞳に私と同じ髪色の。
 私より二つ歳上で、まるで兄のようで他人のように遠い人。

 『うわ、これは酷い。どうしてそんなに長くつけてたんだ? いや“わたし”のせいか』

 他の人は痛くならないのか尋ねると、その顔は困ったように笑った。

『お前だけなんだ。ごめんねサラ』

 この時はじめて私だけだと知った。言われてみれば確かに私以外につけているような素振りはなかった。

 けれど今さらこれをつけるのをやめようとは思わない。

 私にとっては日常だから謝る意味が分からないと伝えると彼は苦笑した。

『安心してよサラ。今にそんなもの必要なくなるさ』

 そう言って胸を張る。何を根拠にそんな事を言えるのか。けれどもその言葉がいつか本当になるのではと思えるから不思議だ。

 いや、そう思わせる人なのだ。


 それから大人になるにつれて私はどうして私に“それ”が必要なのか周りが見えるようになっていた。

 そしてそれを嵌めて、私は“わたし”として表を歩く。

 何故私がこんな事をと文句を言いながら、けれど最後には必ず彼が駆け付けてくれると知っている。

「ところで、あの時なんとかしてくれるとおっしゃってましたけど、それどころか日に日に私の負担が増えてませんか?」

 すると、古いしきたりや決まり事を馬鹿げていると話す時のように、彼は私へ笑みを向ける。


「心配ないよサラ、もう直ぐだ。あの場所は君にこそ相応しい」


 心配ないの意味を何処かでわかっていた。

 けれど、いつも馬鹿らしいと言う口でそれを言うのかと思う。


 だってあの場所は、貴方こそ相応しいのだ。
 私には必要ない。


「またよく分からない事を言わないで下さい。貴方が大人しくここに居て下されば私はこんな事しなくてすむんですから」

 だから私はワザと分からないフリをする。


「そう言うなよ。だが本当にお前には助けられている」


 “感謝してもしきれないよサラ”


 そう言って輝くように微笑む姿に私はやはりこの人しかいないと思う。

 だからその為ならこの瞳を隠す事など厭わない。
 私はドレスを翻し、彼のあとをついて人々の前に出た。




end.


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

ペットの餌代がかかるので、盗賊団を辞めて転職しました。

夜明相希
BL
子供の頃から居る盗賊団の護衛として、ワイバーンを使い働くシグルトだが、理不尽な扱いに嫌気がさしていた。 キャラクター シグルト…20代前半 竜使い 黒髪ダークブルーの目 174cm ヨルン…シグルトのワイバーン シグルトと意志疎通可 紫がかった銀色の体と紅い目 ユーノ…20代後半 白魔法使い 金髪グリーンの瞳 178cm 頭…中年 盗賊団のトップ 188cm ゴラン…20代後半 竜使い 172cm

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

息の仕方を教えてよ。

15
BL
コポコポ、コポコポ。 海の中から空を見上げる。 ああ、やっと終わるんだと思っていた。 人間は酸素がないと生きていけないのに、どうしてか僕はこの海の中にいる方が苦しくない。 そうか、もしかしたら僕は人魚だったのかもしれない。 いや、人魚なんて大それたものではなくただの魚? そんなことを沈みながら考えていた。 そしてそのまま目を閉じる。 次に目が覚めた時、そこはふわふわのベッドの上だった。 話自体は書き終えています。 12日まで一日一話短いですが更新されます。 ぎゅっと詰め込んでしまったので駆け足です。

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

皇帝に追放された騎士団長の試される忠義

大田ネクロマンサー
BL
若干24歳の若き皇帝が統治するベリニア帝国。『金獅子の双腕』の称号で騎士団長兼、宰相を務める皇帝の側近、レシオン・ド・ミゼル(レジー/ミゼル卿)が突如として国外追放を言い渡される。 帝国中に慕われていた金獅子の双腕に下された理不尽な断罪に、国民は様々な憶測を立てる。ーー金獅子の双腕の叔父に婚約破棄された皇紀リベリオが虎視眈々と復讐の機会を狙っていたのではないか? 国民の憶測に無言で帝国を去るレシオン・ド・ミゼル。船で知り合った少年ミオに懐かれ、なんとか不毛の大地で生きていくレジーだったが……彼には誰にも知られたくない秘密があった。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...