160 / 168
【 過 去 】
藍色の少年(2)
しおりを挟む――変な奴に眼をつけられてしまったと頭を痛めながら帰路につく。
だがもう彼に帰るあてはない、母親は1年前のあの日を最後に息を引き取った。そして今更になって流行り病の原因がシェーレグリーンという色の成分だと言う事がわかり、国で救済措置をとり始めた。
シェーレグリーンはただの色じゃない、ヒ素が配合された毒だ。母親が仕事場で作っていた造花、それがまさに鮮やかな緑色だったのだ。
幸いにも彼にはその中毒症状は出なかった。
それがいいのか悪いのかはわからない。
歩きながらパンを食べて、壁から剥がれ落ちそうになっている紙が眼に止まる。
それは先程少年が言っていた兵士募集の貼り紙だった。
「センソーでも始まるのかな?」
足元から声がして、見るとみすぼらしい身なりをした男の子が貼り紙を見上げていた。その隣には妹なのか小さな女の子も居て、二人は手を繋いでいる。
「字が読めるのか?」
「ううん、おとな達がこれ見てそういってたから」
「そうか……」
すると女の子の腹からぐぅ~と音が鳴った。
「…………やる」
暫く互いに黙りこんで、彼はその女の子にパンの入った紙袋を渡す。すると男の子が「いいの?」と聞いてきたので彼は「二人で食べろ」と言った。
子供達がはしゃぎながら走り去った時、丁度強い風が吹き上がり彼の顔に何かがぶつかる。
それは先程の貼り紙だ。
「…………」
『待っているよアルデラミン』
あの声に囁かれた気がした。
************
それから何年もかけて、気付けば彼は少年の前にいた。
いや少年はもう青年になっており、此方を眼に止めると分かっていたとでも言うように微笑する。
「待っていたぞ〝アルデラミン〟」
そう呼ばれた彼は王宮の豪奢な床に片膝を付き顔を上げる。
やはりと言うべきか、あの少年は本物であったのだと思い知らされる。
黄金の髪を1本に束ねて、ハッとするような空色の瞳が此方を見据える。
何故ここに自分はいるのか、何故ここまで来てしまったのか。それらは全て考えても仕方のない事と呑み込んで
ただ後に聞いてみた。
どうして俺なのか。
どうしてそう呼ぶのかと。
すると青年は、真っ直ぐな藍色の瞳が美しかった。と少しからかうように言い。
最後に「知らないのか? 〝王の右腕〟と言う意味だ」と微笑んだ。
藍色の少年 end.
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。


傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

紹介なんてされたくありません!
mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。
けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。
断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?
ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。
ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。
そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる