魔王と王の育児日記。(下書き)

花より団子よりもお茶が好き。

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【 過 去 】

エルディアブロ(2)

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 部屋の扉が開き、顔を見せたのはハクイより大きな男だ。真っ黒な髪に真っ黒な装いのハクイとは真逆の男。

「なんだ凄いありさまだな」
「えぇそうでしょう」
「またやったのか」
「えぇ」

 出入り口の物を何個か手に取って魔王がハクイに何処に置けばいいか訪ね、とりあえずそちらへと会話する。そのやりとりに俺はイラついた。

「私も手伝おう」
「助かりますけど……」
「気にするな丁度暇をしていた。高い所へやる時は言ってくれ私がやろう」
「有り難うございます。では早速そちらを」

 両手に本の切れ端を鷲掴んで魔王を睨んでいると、気付いた魔王が俺に近付いて頭をポンポン撫でた。

「!?」
「偉いな、お前も片付けているのだな。終わったら何か好きな物をやろう」
「魔王さま甘いですよ。そんな事したら報酬がなければ何も動かない子になりますよ。遊んだら片付ける、散らかしたら片付ける、当たり前の事です」
「そう言うな、逃げないでやってるんだ偉いじゃないか、これも一つの成長だろう、なぁ?」

 魔王がこっちへ同意を求めて来たがそんな事俺には関係ないそれより苛立ちの方が勝って、俺は側に落ちていた本を魔王の顔へ向かって投げ付けた。

「アダッ! な、なんだ急に」
「魔王さま、余計な事をしてないで手伝うならさっさと手を動かしてください」
「わ、わかったってアダダダ!」

 翼を広げて飛び魔王の頭を何度も本で殴りつける。

「わるかった余計な事を言った私が悪かった! お前を愚弄した訳ではない単純にお前の成長ぶりに感動してアダダダ!」
「魔王さま遊ぶなら余所でやってください!!」
「私が悪いのか!?」

 もう一度本で殴ろうとしたが、俺の意志とは関係なく身体が動かなくなった。クソッまたかと思っていると近付いて来たハクイに本を取り上げられる。

わたくしの大切な本で誰かを殴らないでください」

 怒られてまたムッとした。何故この俺がこんな奴のせいで怒られなければならないのか、全部コイツが悪いのに。

「そうだぞ本は大切に扱う物だ。特に他人が大事にしている物であるなら尚更な」

 魔王が床に落ちている本を拾い上げ埃をはらう。

「魔王さま貴方本当に懲りないですね」
「ん? 何がーて、イタダダ! どうしてお前はそうやって私を殴るんだ!?」

 今度は本ではなく自分の手で殴ろうと逃げる魔王を追いかける。

「はぁもう自由にすると直ぐこれです」

 眉間に手を当てため息をつくハクイの姿にますます頭にきて更に魔王を殴った。
 俺は悪くないのにコイツが悪いのに。コイツがいるから怒られる。コイツが変な事言うからコイツがアイツの物に触れるからコイツがアイツと喋るからコイツがいるからムカつくんだ。全部コイツが悪い。

「よしよしもぅよーくわかった!」

 やすやすと俺の両手を止められた。

「放せ! 出てけ!」
「わかったわかったそうしよう。ハクイすまない何も出来ず」
「えぇいいですよ。はじめから期待してませんので」
「相変わらず冷たいな」

 苦笑した魔王が此方へも苦笑してみせて、そのまま部屋から出て行く、満足した俺はさっさとさっきの続きをと散らばった紙くずを集めて籠へ投げ入れた。

「お前は本当に素直じゃないのですから。褒めると怒るし、相手をしなくても怒る、本当に困った子です」

 そう言うとハクイはまただまだまと部屋を片付け始めた。


 ――こういう事が多かった。
 俺が何かすると必ずアイツは俺に見せる。その始末をしている姿を、そして俺にもそれをやらせた。
 厨房を荒らした時も、赤の魔族の棟へ侵入して大騒ぎになった時も、人間の住む場所へ勝手に行って物を取ろうとした時も。魔族のガキと喧嘩になった時も。
 アイツは必ずやって来て俺を連れて頭を下げに歩く、そして必ず何故ダメなのかつらつらと並べては片付ける姿を見せて俺にもやれと言う。
 厨房を荒らした時は逃げようとしたらいつもの術で身体を動かなくされ、ここで皆の姿を見ていなさいと厨房で働く者がその惨状を見て項垂れながら片付けている姿を見せられた。
 ダメにした料理を捨てて、また新しく作らねばと言ったり、あぁこんな物をこんな床に投げ捨ててやら壊してやら危ないやらこれはダメになってるやら。
 そして少しして、お前も片付けなさいと言われる。
 赤の魔族の塔へ入ったのは単純に気になったからだ。アイツがこの塔へは近寄らないようにと言うから、だから入ってみた。そしたら女ばかり居てキャーキャー騒ぎだす。
 あまりの煩さに頭にきたから全員脅かして飛んでいたら、奥からとんでもなく恐ろしい女が現れてあっと言うまに捕まった。
 あとで「バカですか」と言われた。そんな事を言われたのは初めてで頭に重い岩が落ちてきたような衝撃をくらった。
 バカなんてあの男に言ってるところしか見たことがない、俺はあのバカと同じなのか。死ぬほど魔王を殴りたくなった。
 それにあの棟へ近付いてはならないって理由も今までと違ってハッキリしないものであったのも納得がいかない。

「とにかくダメです。強いて言うならとても怖い人が牛耳っているので」

 確かにそうかも知れないがそれで納得いく俺ではない。

「とにかくダメなものはダメです。せめてやるなら魔王さまの部屋で遊びなさい」

 と言われたので俺は遠慮なく腹いせに魔王の部屋へ行く。そして気付いた。あの男の部屋を散々荒らそうが魔王を散々殴ろうが魔王は本気で怒らないということだ。そして荒らしても荒らしても直ぐに元通りになる。
 ちっとも面白くないので魔王の部屋に行くのは直ぐにやめた。

 人間の住んでる場所へ行ったのはたまたまだ。
 街をふらふら飛び回って森を越えた向こうに人間って奴がいる話を聞いた。だから見に行ったんだ。空を飛べる俺にはたいした距離じゃない。そしたら変わった奴らが沢山いた。
 あっちではみない見た目に服装に、ずっと横になって泣いている小さい小さい変な生き物。
 とりあえず触ってみよう、そんで面白かったら持って帰って見せてやろう。
 手を延ばすといきなり視界が変わり、家の裏手にいた。
 延ばしていた手を誰かが止めるように掴んでいて振り向くとソイツはそこいた。

「あれは玩具だと、そう思ったならやめなさい」

 帰ったら怒られると言うより人間とは何か、あれは何かについて語られ、俺達がそう簡単に立ち入っていい場所ではないと何度も聞かされた。特に悪魔は下手をしたら殺されるとも。
 そこまで言われると行きたくなるので何度か人間の所へ行き、何度も連れ戻された。

 魔族のガキと喧嘩したのはあっちが悪い。
 侵入禁止区域に立ち入ろうとしていたから俺は声をかけたんだ。
 以前入った時やたらとアイツに怒られたし、俺も偉い眼にあった。だからわざわざ声をかけてやったのにあのガキは俺を無視して入って行ったから足蹴りして禁止区域から出してやった。そしたらソイツが怒って俺の胸ぐらを掴んできたんだ。
 魔族のガキといっても既に14くらいだろうし、俺はその時そいつよりガキだった。なのにソイツは大人気もなく俺を殴りやがって、あとで二人揃って叱られた。
 何故俺まで?俺は悪くない。

 そんな日々をおくっていたある日。
 俺以外の悪魔が現れた。

 その日、俺はアイツに連れられ森の中にある俺と変わらない背丈の花の前にいた。
 その花はとても綺麗だがどうにも不気味で何か尋ねたら見ていれば分かると、そしてその花のつぼみが光ると悪魔が現れた。

「お前もこうして産まれてきたんです」

 見た目は4、5歳くらいの子供、ぽかんとした顔でハクイを見上げ抱き上げられると寝てしまう。

「良かったですね、お前の兄弟ですよ」

 良くなんかない。ちっともだ。
 それを皮切りに悪魔の子供の数がどんどん増えていった。と同時に俺の苛立ちも増した。
 面倒見なければ怒られ、面倒をみようがみまいがアイツが真っ先に世話をやく。それに腹が立つ。
 あちこち荒らしまくるガキ共などほっておけばいい、なのにそうしない。更にアイツの部屋の物を汚ない手で平気で触りまくるガキ共のその姿に腹が立たずにはいられない。なのにガキどもは何故か全員俺を慕ってくる。ヒヨコのようについて回ってくる。

「好かれてますね」

 嬉しい訳がない。
 滅多に見せないその微笑んでいる姿に苛立ちが募る。
 しびれを切らし最終的にあの花の近くで生活する事を決め何も言わず城を出ると、案の定ガキ共も全員勝手に俺についてきた。
 暫くの間は戻って来るように煩く言われたが、それを悉く無視して最終的にはあっちが折れ、ようやく気持ちが穏やかになる。

「いいかガキ共、この俺について来たからにはもう奴に関わるな」

「ハクイさま?」「ハクイ様ダメなの?」「なんでなんで?」「じゃー魔王は?」

「好きにしろ」

「わかった好きにする!」「でもなんでハクイ様はダメなの?」「エル様は魔王が嫌い」「じゃーハクイ様も?」「なら私もハクイさま嫌い!」「俺も!」「僕も!」

 その日の夜、ガキ共が寝たのを見計らったようにアイツが現れた。
 月明かりを背にふわりと降り立ち俺の前に立つ。

「何しに来た」
「様子を見に」
「迷惑な」
「心配ですから」
「余計な世話だ」
「エルディアブロ、不安になる事はない。お前は何処に居てもわたくしの大切な悪魔ですよ」

「フン……意味がわからん」

「貴方はわたくしが〝初めて出会った悪魔〟ですから」


 妙に懐かしいような気がした時には、その姿は消えていた。




 ――――――――
 ――――

「すっかり静かになったな」

 城の回廊を移動しながら魔王は隣にいる白の魔族に話しかけた。

「えぇすっかり」
「あれはあれで大変だったが、寂しいものだな」
「そうですね。あの子達の城でのいたずらを見かねてエルが森へ連れて行ってしまいましたから」

 その言葉を聞いて魔王は少しだけ次の言葉に困り立ち止まった。

「どうかしましたか?」

 振り向いたその顔は涼やかなものだ。

「……私が言うのもおかしいが、本当にそう思っているのか?」
「そういう事にしておきましょう」
「お前なぁ……」
「あの子のあれは自分の玩具を他人に取られていじけるそれですよ」
「そうかも知れないがなぁ」

 やれやれ困ったものだと魔王は回廊の窓から森の方を見やった。




 ――end.――


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