魔王と王の育児日記。(下書き)

花より団子よりもお茶が好き。

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【 過 去 】

仮初めの黒い王と金の少女。

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 くるり、くるり、ゆらり
 時は長く時に短く過ぎ去って行く
 あの夏あの日生まれた赤子は今
 気づけば秋冬過ぎて、思い返せば春夏が終わって
 あの赤子も今は帰らぬ人
 まわり、まわる、時を
 くるり、くるり、ゆらり
 周りと違うと 誰もが忌み嫌い
 気にくわぬ と言うだけで 誰もが意地が悪くなる
 固定観念に捕らわれ続け それが勝手な憶測でしかないとも気付かずに
 それが当たり前と 他の考えなど浮かぶ訳もなく
 どんなにそれが愚かで恥ずかしく 幼稚だとも気付かずに
 互いに思い違いを何百年、何千年と繰り返して
 まわる、まわる、時を
 ある時恋をした愚かな少年
 ある時恋をした愚かな少女
 同じ時を生き共に老いて共に死ぬ事も叶わぬと知らずに
 ただただ愛だけをひたすら語る
 それを運命は許さずに
 気付けば少女は隣にいない
 まわる、まわる、時を
 ただ少女を遠くから想って
 くるり、くるり、ゆらり
 迎えに行った時にはもう帰らぬ人
 まわる、まわる、時を
 くるり、くるり、ゆらり
 泣いて目覚めた時にはもう遠い昔々の物語
 時は長く 時に短く 足早に過ぎ去って
 少年の淡い想いも時の中
 もう忘れてしまった昔々の物語。


『――――くるり、くるり、ゆらり』

 コトコトと今日の晩ごはんを煮詰めながら、栗色の髪の女性が詠う。

『おかあさんなぁにその詠?』

 台所に顔を出した少女が女性の足元まで来て首を傾げて尋ねる。
 すると母親は少し考えて。

『んーそうね。私もお母さんから教えて貰ったのよ。多分昔々のお話ね』
『お話?』
『きっと片思いだったのねぇ』

 さぁさぁ晩ごはんにしましょうと女性は温かい汁物をよそる。


『――てね。昨日おかあさんが言ってたのよ』

 少女はいつもの遊び場へと出ていた。

『そうなんだ?』

 切り株に座って話を聞くのは赤い髪に翠の瞳の少女だ。

『うん』
『へー、私はなんか噂が詠になったって聞いた』
『噂?』
『うん。なんかずーとずーと昔に〝うちの王様〟が〝そっちの金髪のお姫様〟の事が好きだったって話があって、んでそっちのお姫様もこっちの王様が好きだったって』
『誰から聞いたの?』
『知り合いだよ。知り合い、近所の人』
『へー』
『近所のおばあちゃん』
『それ、本当の話なの?』
『さぁ? 噂だし、そんでその話を聞いた子供達がね詠にして遊んだんだって』
『どうやって?』
『さぁ』

 二人は同時に〝噂だしね〟と言った。
 するとふふっと笑って交互に歌う。

『くるり、くるり、ゆらり。時は長く時に短く過ぎ去って行く』
『あの夏あの日生まれた赤子は今』
『気づけば秋冬過ぎて、思い返せば春夏が終わって、あの赤子も今は帰らぬ人』
『まわり、まわる、時を』
『くるり、くるり、ゆらり』

 顔を見合わせ、またふふっと笑う。
 今度はまるで演劇のように語りだす。

『周りと違うと 誰もが忌み嫌い』
『気にくわぬ と言うだけで 誰もが意地が悪くなる』
『『固定観念に捕らわれ続け それが勝手な憶測でしかないとも気付かずに』』
『それが当たり前と 他の考えなど浮かぶ訳もなく、どんなにそれが愚かで恥ずかしく 幼稚だとも気付かずに』

『『互いに思い違いを何百年、何千年と繰り返して』』

 二人は互いに手と手を取り合って踊りながら立ち上がった。

 まわる、まわる、時を
 ある時恋をした愚かな少年
 ある時恋をした愚かな少女
 同じ時を生き共に老いて共に死ぬ事も叶わぬと知らずに
 ただただ愛だけをひたすら語る
 それを運命は許さずに
 気付けば少女は隣にいない
 まわる、まわる、時を
 ただ少女を遠くから想って
 くるり、くるり、ゆらり
 迎えに行った時にはもう帰らぬ人
 まわる、まわる、時を
 くるり、くるり、ゆらり
 泣いて目覚めた時にはもう遠い昔々の物語
 時は長く 時に短く 足早に過ぎ去って
 少年の淡い想いも時の中
 もう忘れてしまった昔々の物語。


 全て歌い終わると、少女の身体がふらりとバランスを崩し、咄嗟に赤髪の少女が支えて大丈夫と心配げに見詰めた。

『だいじょうぶ。なんかねちょっと目眩がしたの』
『そう』
『うん』
『…………私わかるんだ。この詠の意味』
『え?』

 赤髪の少女は少し寂しそうに少女から手を離した。

『私ね。アナタとずっと友達でいたいなぁ』
『そんなの当たり前だよ』

 少女が何言ってるのと笑い飛ばして、すると赤髪の少女もちょっと困った顔をしながらも同じように笑った。

『そうねそうだよね』
『そうだよ』
『有り難う私忘れないわ絶対』
『なんで忘れちゃうと思うの? 変なの』

 すると「だね変だよね」と言って赤髪の少女も笑う。


『何かあったら呼んで。飛んでくるから』


 手をおおきく振って森へと走り去って行く。

『わかったまってるねー!』

 少女も負けないくらいおおきく両手を振った。




 ◇



「――呼んでって、言ったのに」

 とある人間の墓前の前で、女性は被っていた帽子をとって胸に抱く。

「早すぎるよ」

 その翠の瞳を濡らして――。
 


 時は長く 時に短く 足早に過ぎ去って
 気付けば少女は隣にいない。
 もう忘れてしまった昔々の物語。


― end. ―
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