152 / 168
【 過 去 】
黄金の王。― 追憶 ―
しおりを挟むあの小さな二人は。
数十年後、本当の王になった。
そっくりな顔のそっくりな黄金の瞳にそっくりな黄金の髪。
その者は遠くから二人の姿を眺めた。
そう、自身の城の冷たい王座で、すっと瞳を閉じる。
目の裏に浮かぶのは今日までのあの二人の姿。
そして、歴代の人間の王。
全て彼の子孫。
〝私の唯一無二の人間の友よ〟
初めて彼に直接会ったのはもう八百年も前だ。
同じ国にいながら魔族と人間は互いにそれぞれの領土で暮らし、魔族は決して人間には関わらぬように、そして人間は魔族を恐れて近付こうなどとは思わなかった。
そんななか、自身は魔族の中でも短命な〝種族であり性別〟で生まれ、何故か王に選ばれた。
〝短命な王〟
そんなもの必要ないだろうに。
ただ日々をやり過ごす中で唯一の私の楽しみと言えば、人間を観察する事だった。
特に気になってあちらの王を覗きみていた。
生まれる前から見ていたが、まさかあの赤子が王にされてしまうとは。
ただ淡々と言われるがまま求められるがままの王。
白い肌に黄金の髪に瞳。
その睫毛の先までも黄金に輝く。
その姿はまるで――
人間達が天から来たのだと騒ぐ気持ちも分からなくなかった。
それにしてもまるで人形のようなあの状態でよくなんとかやれているものだ。
ふと思い付き私は彼を尋ねた。
勝手知ったる他人の城。
彼はいきなり自身の寝室に現れた私に驚きもしなかった。
ただ感情を失った瞳で此方を見るだけ。
思ったよりも異常なその様子に、私は彼の手を取り城から連れ出した。
連れて行ったのはこの世でもっとも美しい花を咲かす1本の木の下だ。
これに感動しない者はいないだろうとたかをくくって。
だが彼はやはりただ遠くを見つめるように薄桃色の花を見上げるだけだった。
その後も度々様子を見に行ったが、彼は私が部屋で本を読もうが、菓子を喰おうが歌を唄おうがまるでそこに誰もいないかのように、なんの反応も示さなかった。
『君は私がまるで見えていないようだな。この様子じゃあ私が魔族の王である事も一生気付かないし、君より先に死んだとしても一切気付きそうにない』
その後、私は彼の元へ行くのをやめ、ただただ遠くからその存在を眺めていた。
ある日、とうとうその時が来た。
弱り果てた彼は寝台から動かなくなり、彼の周りにいた者達も彼へ見向きもしなくなっていた。
ただ寂しく一人その時を待つその姿。
見兼ねて彼の傍に行きすっかり老いたその手を握った。
すると彼は掠れた声で言ったのだ。
『あの日の花は綺麗だった』
思わず耳を疑い眼を見開いた。
『頼みがある。私の〝子達〟を見守ってくれ、出来るだけ、長く』
言葉を発するのが辛いのか、一言一言がたどたどしい。
そして彼は自分は人間になれただろうか、母は許してくれるだろうかと呟いて、息を引き取った。
――あの時を思い出しながら瞼を上げる。
高すぎる城の天井が月明かりで暗闇の中輝く。
「これだけ長く見守ってやったんだ、もう、十分だろう……」
本当であればもっと早くに死んでいた。
視線を下へと移動すれば、赤い瞳の者と眼があう。
王座の前で片膝をつき、此方をじっと見上げている。
闇夜に混じる小麦色の肌、金の耳飾りが月明かりを反射してキラキラと輝く。
「待たせたね。お前の番だよ」
月明かりが二人を包み、何も見えなくなった。
〝やっと、やっと君と同じ所へ行けるよ〟
あの美しい人間の元へ。
――その日。
新たな王が三人誕生した。
―― end. ――
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

紹介なんてされたくありません!
mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。
けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。
断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?
ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。
ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。
そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。

見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています

どこにでもある話と思ったら、まさか?
きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる