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【 過 去 】
黄金の王。― 追憶 ―
しおりを挟むあの小さな二人は。
数十年後、本当の王になった。
そっくりな顔のそっくりな黄金の瞳にそっくりな黄金の髪。
その者は遠くから二人の姿を眺めた。
そう、自身の城の冷たい王座で、すっと瞳を閉じる。
目の裏に浮かぶのは今日までのあの二人の姿。
そして、歴代の人間の王。
全て彼の子孫。
〝私の唯一無二の人間の友よ〟
初めて彼に直接会ったのはもう八百年も前だ。
同じ国にいながら魔族と人間は互いにそれぞれの領土で暮らし、魔族は決して人間には関わらぬように、そして人間は魔族を恐れて近付こうなどとは思わなかった。
そんななか、自身は魔族の中でも短命な〝種族であり性別〟で生まれ、何故か王に選ばれた。
〝短命な王〟
そんなもの必要ないだろうに。
ただ日々をやり過ごす中で唯一の私の楽しみと言えば、人間を観察する事だった。
特に気になってあちらの王を覗きみていた。
生まれる前から見ていたが、まさかあの赤子が王にされてしまうとは。
ただ淡々と言われるがまま求められるがままの王。
白い肌に黄金の髪に瞳。
その睫毛の先までも黄金に輝く。
その姿はまるで――
人間達が天から来たのだと騒ぐ気持ちも分からなくなかった。
それにしてもまるで人形のようなあの状態でよくなんとかやれているものだ。
ふと思い付き私は彼を尋ねた。
勝手知ったる他人の城。
彼はいきなり自身の寝室に現れた私に驚きもしなかった。
ただ感情を失った瞳で此方を見るだけ。
思ったよりも異常なその様子に、私は彼の手を取り城から連れ出した。
連れて行ったのはこの世でもっとも美しい花を咲かす1本の木の下だ。
これに感動しない者はいないだろうとたかをくくって。
だが彼はやはりただ遠くを見つめるように薄桃色の花を見上げるだけだった。
その後も度々様子を見に行ったが、彼は私が部屋で本を読もうが、菓子を喰おうが歌を唄おうがまるでそこに誰もいないかのように、なんの反応も示さなかった。
『君は私がまるで見えていないようだな。この様子じゃあ私が魔族の王である事も一生気付かないし、君より先に死んだとしても一切気付きそうにない』
その後、私は彼の元へ行くのをやめ、ただただ遠くからその存在を眺めていた。
ある日、とうとうその時が来た。
弱り果てた彼は寝台から動かなくなり、彼の周りにいた者達も彼へ見向きもしなくなっていた。
ただ寂しく一人その時を待つその姿。
見兼ねて彼の傍に行きすっかり老いたその手を握った。
すると彼は掠れた声で言ったのだ。
『あの日の花は綺麗だった』
思わず耳を疑い眼を見開いた。
『頼みがある。私の〝子達〟を見守ってくれ、出来るだけ、長く』
言葉を発するのが辛いのか、一言一言がたどたどしい。
そして彼は自分は人間になれただろうか、母は許してくれるだろうかと呟いて、息を引き取った。
――あの時を思い出しながら瞼を上げる。
高すぎる城の天井が月明かりで暗闇の中輝く。
「これだけ長く見守ってやったんだ、もう、十分だろう……」
本当であればもっと早くに死んでいた。
視線を下へと移動すれば、赤い瞳の者と眼があう。
王座の前で片膝をつき、此方をじっと見上げている。
闇夜に混じる小麦色の肌、金の耳飾りが月明かりを反射してキラキラと輝く。
「待たせたね。お前の番だよ」
月明かりが二人を包み、何も見えなくなった。
〝やっと、やっと君と同じ所へ行けるよ〟
あの美しい人間の元へ。
――その日。
新たな王が三人誕生した。
―― end. ――
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