魔王と王の育児日記。(下書き)

花より団子よりもお茶が好き。

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第六章

馬には乗ってみよ人には添うてみよ18

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 唐突な質問に魔王は思わず面食らった顔をした。

「……モテ、た事がないのかと言われるとそうなのかも知れないが、好かれた事がない訳でない場合はどうなのか、だとして…………まさか関係あるのか?」

 阿保な事に真剣に問いに答えようとして、更に今回の事と何か関係があると捉えたらしい。
 青年は魔王を改めて眺める。
 黙っていれば魔王らしく威厳があり自信に満ちており、人間で言えば三十代といったところで、整った男らしい綺麗な顔立ちは女性ウケも男性ウケも悪くなさそうに見える。初めて眼に止めた時からひときわ眼を引く少し癖のある長髪は女性が嫉妬する程の艶があり、相変わらず紫光する黒髪だ。
 今は後悔で揺れる真っ赤な瞳はどちらかと言うと深紅に近い。青年が普段眼にするその瞳は大抵困ったという感情を浮かべているがこれも黙っていればその瞳の奥からは力強さを感じるのだ。
 立ち上がれば威風堂々。落ち着きのある低い声。黒衣の衣服がよりその姿を立派に際立たせ、初めてあった時に身に付けていた煌びやかな装飾も決して下品に感じさせなかった。……そう言えば最近は飾りのない物を選んでいると青年は今気付いた。この男の事だから何かの拍子で赤ん坊が口に入れたらなどと心配してそうだ。
 まぁようするに何が言いたいかというと……。

(つくづく、残念だなぁ)

 黙っていればそれっぽいのに、実際の魔王は喋り出すと落ち着きがないわ心配性だわおろおろするわ表情もころころ変わる。頼りない時は頼りないし、どっか天然だし、今みたいに平気で情けない姿を晒す。
 本当に魔族の王なのか疑いたくなってくる。

(大丈夫なのか、この王様……)

 そして少し羨ましいと青年は思うのだ。なにも飾ることなく取り繕う事なく、ありのままでいるようなその姿が。

「ん? どうした。私の顔に何かついているのか?」

 それとも具合が悪いのかと続く言葉に青年は思わず吹き出しそうになるのを堪える。どうやら長々と見詰めてしまっていたらしい。

「いやいや、すみませんちょっと、可愛いなって」
「は?」

 魔王は頭にはてなが浮かびそうな顔できょとんと首をかしげる。それはそうだ何千年と生きてるか知れない者にまだ二十六年程しか生きていない者が可愛いなどと言うのだから、けれどあまりに素直な反応にやはり笑いをこらえた。青年の周りでは珍しいタイプの大人だと改めて気付いたからだ。
 似たような素直な反応と言えばアルデラミンが思い浮かぶが彼は短気なので今頃「人をおちょくってそんなに楽しいか?」と目尻をつり上げ怒っていただろう。

「いいえすみません。なんでもないです。あとモテるかモテないかは関係無いので気にしないでください」
「そうか?」

 パッと見の印象と中身がこれだけ違うとなると、付き合いだしたら相手に〝思ってたのと違った〟と言われ毎回フラれてそうだな。などと少し失礼な事を思っただけだ。

「ふふふ」
「な、なんなんだ?」
「ちょっと好ましいなと思っただけです。あ、心配しなくても顔は好みじゃないんで」
「……何故だろうな。今さらっと失礼な事を言われたような気がするのは」

 釈然としないといった様子で暫く唸っていた魔王だが、ふと思い出したように口を開いた。

「そう言えばハクイから聞いたのだがこの部屋を改装するんだそうだな」
「あぁそれなんですけど、やっぱりやめにしました」
「何故だ? 勝手が悪いのだろう?」
「冷静に考えたらこの部屋ってリーベのためのもので、あの子が気に入ってるのに俺の都合で変えるってのは良くないよなと」
「何を言ってるんだ?」

 魔王はきょとんとした顔で「ここはお前達の部屋の筈だが」と言った。

「へ?」

 予想外の答えに今度は青年がきょとんとする。

「少なくとも私はそのつもりでいたのだが」



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