魔王と王の育児日記。(下書き)

花より団子よりもお茶が好き。

文字の大きさ
上 下
131 / 168
第六章

馬には乗ってみよ人には添うてみよ17

しおりを挟む

「納得いかないんだけど」

 昼休みになると、ハルが爆発しそうになっていたので空き教室へと連れ出した。
 ここならハルが変な事を口走っても問題ないからだ。
 連れてきて開口一番に飛び出したのが、この発言だ。

「ハル、落ち着いて」

「なんであたしが白雪姫なんだよ、どう考えてもおかしいだろっ」

 アウトローなハルが大勢で作り上げる“演劇”の“主役”を演じるというのは確かにキャラクターではないように思う。
 しかもそれを他人に決められたとなれば、ハルの気持ちも穏やかではないだろう。

「それでも、黙って受け入れてくれたのね」

 佐野さのさんに推薦された瞬間のハルは立ち上がって今にも掴みかかりそうな勢いだった。
 でも、それをせずにこらえてくれた。
 それは彼女の変化だ。

みおが“大人しくしろ”って目で訴えてきたからな、我慢したよ」

 分かってはいたつもりだが、改めて私による変化だと本人の口から言われると心の奥がどこかムズムズとする感覚があった。

「ありがとう、ハルのおかげで無事に事は進んだわ」

 あの後、私が王子役を引き受けるという展開は佐野さんにとっても予想外だったはずだ。
 主役級さえ決まってしまえば後は自ずと決まっていくため、特に波乱も起きる事なく進行する事が出来た。

「ふん、本当だったら佐野に白雪姫やらせるか、当日サボるかの二択だったからな」

「……うん、どちらも選ばないでくれて良かったわ」

 そんな無理矢理な事をしたらクラスの空気がどんな事になるか、想像するだけで恐ろしい。
 今の流れも決して褒められたものではないが、それでも見返す事は出来ると思う。

「ていうか、王子役を澪が引き受けんのもけっこービックリしたけど……」

 話を聞いている内にハルの怒りの留飲も下がって来たのか、話題は私に移った。

「そうね、あの流れで田中さんに任せるのは可哀想だったし。私がなればそれ以上は嫌がらせも出来ないでしょ」

 私には良くも悪くも“生徒会”という看板がある。
 その砦には“青崎梨乃あおざきりの”というカリスマも控えており、自分で言うのも何だが生徒会を敵に回したいと思う人はそう多くはない。
 まるで虎の威を借りる狐のようなので、好ましくは思っていないのだけれど。
 他人にはそう映っているのは自覚しているので、仕方がない事でもあった。
 とにかく今回はその立場を使って、佐野さんの独壇場を止めたような形になる。

「じゃあ、白雪姫の時点で澪がやってくれたら良かったのに」

 唇をとがらせて不満げなハル。

「……その発想はなかったわね」

「なんでだよ、あたしより田中優先かよ」

「いえ、そういうわけじゃなくて……」

 佐野さんを始め、皆はハルが白雪姫を演じることにギャップを感じた事だろう。
 だが、私はハルの白雪姫を想像して思ったのだ。

「似合いそうって思ったのよ」

「なにが?」

「ハルの白雪姫」

 ハルの目が点になって、一瞬時が止まる。

「……マジで言ってんの?」

「ええ、マジね」

「あたしのどこに姫要素があるんだよっ」

「肌の白さとか?」

「漠然としすぎだろっ」

 とにかく、私はハルの白雪姫がそう悪いものではないと思ってしまったのだ。
 主役になれば周りとコミュニケーションをとる機会も増えるだろうし。
 いいきっかけにもなるのではないかと思ったのだ。

「それより王子様役の方が気が重いわね……」

 裏方でサポートが私の得意分野なのに。
 成り行きで仕方ないとは言え、まさかの演者側に回るだなんて。
 キャラじゃないにも程がある。
 落ち着いてくると、その重圧に心が耐えかねている。

「いや、あたしも姫とか気分わりぃし……」

 “はぁ……”と、お互いに重い溜め息を吐く。
 こんな消極的なお姫様と王子様がいるだろうか。
 心配だ、この演劇。

「でも、やるからには全力でやりきるわよ」

 それでも、嘆いてばかりでも仕方ない。
 私は気持ちを入れ替える。

「うお、真面目モード」

「良い演劇にして見返してやりたいもの」

「見返す?」

「ええ、佐野さんは遊び半分でキャスティングしたんでしょうけど。私達が本気を出して最高の物を見せつけるのよ」

 きっと佐野さんは普段やる気のないハルを主役に押し出すことで、恥をかかせるつもりだったのだろう。
 そこで上下関係なるものを付けようとも考えていたのかもしれない。
 だけど、そうはいかない。
 私がいる限りそんな中途半端なものを見せたりはしない。
 むしろハルの魅力を引き出し、観客すらも驚かせてみせる。

「なんか珍しいな、澪がそこまで対抗心を燃やすなんて」

「……そう、かも」

 言われてみれば確かに、ハルの白雪姫に関しては対抗心なるものが芽生えている。
 これ以上ない正攻法だから問題はないのだけれど、根底にある感情が私には珍しいものだった。

「ハルを馬鹿にした扱いが気に入らなかったのね」

 そして、そうさせてしまった私自身にも責任を感じている。
 だから、ハルの魅力を私は知らしめたいのだと思う。

「な、なんだよ、そうなら最初からそう言えよなっ」

 ハルは急に体をもじもじとさせて視線が彷徨さまよっていた。
 そのまま落ち着かない様子で、ハルの体が私の肩を押した。

「じゃあ、頼んだぜっ。あたしの王子様っ!」

 ハルが満面の笑みを咲かせる。
 その輝くような華を見れば彼女こそ白雪姫だと、疑う者はいないだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

紹介なんてされたくありません!

mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。 けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。 断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?

ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。 ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。 そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

処理中です...