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第六章
馬には乗ってみよ人には添うてみよ15
しおりを挟むだぁれだよぉ、お前! とか言いたくなった。
そんなセリフ、俺が言ったのか。
顔から火が出そうだ、朝っぱらから。
「学校行きたくねぇ」
まさかの理由で登校拒否したくなると思わなかった。
学校に行きたくないのは、あいつとした会話のこともそうだけど。
「…………はあぁぁーーーーー」
俺がやった行動が、俺的に大問題。
でも作家的にはナイスだったらしい。
しかも、あやうく車の中で18禁に突入するきっかけを起こされかかってたっていう……。
恋してんだろうなと神田に囁いた時、そのまま耳の後ろにわざとリップ音をたてながらキスをしてた俺。
「うあああああああ」
恥ずかしい!
そんなこと、絶対しない! お・れ・な・ら!
夢を見るように、自分がしたことを、作家曰く脳内再生でエンドリピってやつで知らされた。
その内容の中で、作家が俺がやめてくれ! って思うような展開を途中まで書いたりもして、何度か車内で時間の巻き戻しみたいな感覚があった。
自分が女を口説くところを、後々自分で鑑賞するハメになるって、どういう事態だよ。
俺の行動と発言のどこからどこまで、俺は干渉できるのか…いまだつかめていない。
どうにかして、最悪の事態は免れたい。
「この場合の最悪って、どこまでのことだろうな」
最近ため息ばっかりだ。
昨日のやり直しめいたことがなきゃ、彼女の耳裏にキスをした後、そのまま助手席を倒して。
「最後までとはいかずとも、服の上からあいつの……」
自分が意識していないところで触れて、書き直して、違う展開にして。
ってやったはずなのに、この手のひらに残っている気がして朝から頭の中がふしだらだ。
胸だけだったとはいえ、あいつの体に触れた。
展開が変わったはずなのに、あいつの口からもれた…女のアノ声。
どこか照れが混じった、決して普段聞くことがないはずの声。声っていうか、吐息?
それが耳について、離れない。
「……………………デカかったな」
手のひらに収まらなかった。
手のひらにも、その感触が残ってる。
「あぁ、もう」
もてあます歯がゆさに、頭を抱える。
たとえきっかけがどこぞの作者がよこした恋なんだとしても、俺があいつに対して好意を持っていることを消したいと思えない。
俺自身、もう…。
「好きになってんだろ」
最近増えたため息の理由は、あいつ一択。
それを不快に感じていない。
学校で自分がやらなきゃいけないことを順番に片していったとしても、サブリミナルみたいにあいつの顔や声や言葉が俺の中に必ず存在しつつある。
忘れないでと言われているような、自分に気づいてほしがっているような。
ノイズっぽい感覚もある。
今自分が置かれている状態が小説の中ってわかっていなきゃ、自分の中で何が起きているのかわからなくて、混乱してどう動いていいのかわからなくなっていただろう。
誰かに相談したかもしれない。
同期の保険医に聞いたかもしれないな。
俺の体がなんか変とか口走った可能性がある。
それをきっと笑われて終わっていたかも。
「そういや」
俺以外にも、この世界が二次小説って言われている場所だって知ってるのかな。
知ってて、自分が望む方にどうにかしようとするんだろうか。
とはいえ、異常なことではあるから、聞きまわるわけにもいかない。
「……それは、さておき」
やっぱり学校に行きたくない。
「会ったら、どんな顔してりゃいいんだ」
なんてボヤきつつ、タバコに手を伸ばした時だ。
「う…あっ」
目の前の景色が歪んだ。
見覚えのある景色。
(またかよ)
抗えなかった、今回も。
「先生ぇー、おはよ」
俺は学校の門のそばに立っていて。
「センセ、寝不足? 俺らより歳なんだから、無理すんなよ?」
「それな!」
「あっはははは」
見慣れたバスケ部のやつらに、からかわれていた。
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