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第六章

馬には乗ってみよ人には添うてみよ14

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 ◇

 魔王がその場を離れると悪魔の子達がさざ波のように騒ぎ出す。

「う、うわ~ん」
「やだ、やだやだやだエルさまのどごろにがえるぅ~」
「まおうのばがぁくそじじい~」

 よっぽどショックだったのか、ヒックヒックと泣くばかり。
 それもその筈、そもそもハクイはこの子達相手に感情的に怒鳴る事はせず淡々と叱るだけで、エルディアブロはエルディアブロで一言不機嫌に何をしてるか問うだけだ。
 そして普段の魔王は困った困ったと頭を悩ませはするが軽く受け流す程度なので今上げた三人の中で最も怖くない相手、たいしたことないと正直ナメていた。
 なのでまさかあの魔王に本気で怒鳴られるとは思っておらず、今初めてエルディアブロ以外に怒られて泣きじゃくる。
 ハクイはその様子に「まったく」と溜め息を漏らす。

「自業自得ですよ。少しはこれに懲りて反省なさい」

 その様子を半歩下がった所から半ば諦めた気持ちでホントそれと思って見ていたイェンだったが、ハクイに「イェン、貴方もですよ」と言われ、思わず背筋が伸びる。

「は、はい?」
「予め話を通さず二人を連れ出しましたね。何もなければ咎めもしませんがこれではそうもいきません。貴方には暫く懲罰房へ入って貰います」

 分かっていたとは言えイェンは「げっ」とでかかった言葉を呑み込む。

「おそれながらハクイ様。確かに許可もなく動いた事は私の判断ミスですが、私が懲罰坊にいる間あの二人の面倒は誰が見るのでしょうか?」
「心配には及びません。貴方は暫く一人で頭を冷していなさい」

 悪あがきは無駄かとハクイの言葉に頷くしかない。
 それはそうとと自身の袖の中をまさぐってやはり無いと辺りをキョロキョロと見回す。

(あーまずいな何処いったかなー)

 おそらく気絶していたルゥを担ぎ上げて樹海を躱した時だ。あの時に落としたのだろう。
 柄にもなく焦っていたのでまず間違いない。
 確かこっからこっちへ飛び退いて、根を切り落としてそしたらあの二人が崖から落ちて、ヤバイと思ったその直後、四方八方から自分達を絡み取ろうとしていた樹海の根から突然火柱が空高く上がり、一瞬にして灰になったかと思ったらハクイがそこにいた。

(正直あれは驚いた)

 突然の自然発火。直ぐに手を打とうとしたが肝心のあれがなかった。全員焼け死んでしまう!
 そう思った瞬間「対処が甘いですよイェン、燃やすなら最後までやりなさい」と言う声が聞こえ瞬いた時にはここだけがぽっかりと焼け野原と化しており、まさにあっと言う間だ。そしてその姿にげっとし、あぁあれは魔力によるものかと気付きなるほどとなった訳だが。
 と言うのも魔力で燃やす対象物を選ぶ事が可能だからだ。勿論ハクイはそれが出来る。

(ハクイ様が作った炎なら丸焦げになる心配はないんだよなぁ)

 自身がいた箇所を辿りながら焦げた樹海や灰などを足で退かし探す。

「探しているのはこれですか」

 淡々とした、けれど常人なら思わず聴きぼれる綺麗な声。振り替えるとハクイの手の平の上に、亀裂の走った赤と金の耳飾りが。

「え、何故それを」
「貴方の魔力が漏れでていたので直ぐに分かりました。これを使ったのにこの有り様とは情けない」

 口煩いな、内心でそう思いながらイェンはそれを受け取る。

「イェン約束は覚えていますよね?」
「それは勿論」
「それならいいのです」

 ふと見るとその耳飾りにあった筈の亀裂がすっかりなくなっていた。どうにも直してくれたらしい。

「さぁ帰りますよ」

 すると幼い悪魔の子が一人「エル様のとこ?」と涙声で訊いたが「もちろん城です」とキパッとした返答に「やだぁ~」と泣きながらハクイにしがみつく。

「エル様のとこ帰る~!」
「ダメです」

 ハクイは気にも止めずしがみついた子を引きずりながら歩きだす。すると泣き止んだ子もまだグスグス言ってる子も文句を言う子も全員ハクイに着いて歩きだした。
 その一番後ろを引率の先生よろしく歩きながら

(いやいや着いてってるし、帰りたいなら無視して帰ればいいだろうに、なんでしがみついちゃってんだか)

 とイェンは思う。

(まぁ逃げたところで逃げられないけどね)

 それを分かってかどうだかぞろぞろとハクイの後ろを着いていく。
 途中で仕方無いですねとしがみついていた子をハクイは抱き上げて歩きだした。すると直ぐ後ろを歩いていた同じくまだ幼い子達がずるいずるいと騒ぎだす。

「なんだかんだ言うわりに、ハクイ様のこと好いてるよなー」


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