128 / 159
第六章
馬には乗ってみよ人には添うてみよ14
しおりを挟む◇
魔王がその場を離れると悪魔の子達がさざ波のように騒ぎ出す。
「う、うわ~ん」
「やだ、やだやだやだエルさまのどごろにがえるぅ~」
「まおうのばがぁくそじじい~」
よっぽどショックだったのか、ヒックヒックと泣くばかり。
それもその筈、そもそもハクイはこの子達相手に感情的に怒鳴る事はせず淡々と叱るだけで、エルディアブロはエルディアブロで一言不機嫌に何をしてるか問うだけだ。
そして普段の魔王は困った困ったと頭を悩ませはするが軽く受け流す程度なので今上げた三人の中で最も怖くない相手、たいしたことないと正直ナメていた。
なのでまさかあの魔王に本気で怒鳴られるとは思っておらず、今初めてエルディアブロ以外に怒られて泣きじゃくる。
ハクイはその様子に「まったく」と溜め息を漏らす。
「自業自得ですよ。少しはこれに懲りて反省なさい」
その様子を半歩下がった所から半ば諦めた気持ちでホントそれと思って見ていたイェンだったが、ハクイに「イェン、貴方もですよ」と言われ、思わず背筋が伸びる。
「は、はい?」
「予め話を通さず二人を連れ出しましたね。何もなければ咎めもしませんがこれではそうもいきません。貴方には暫く懲罰房へ入って貰います」
分かっていたとは言えイェンは「げっ」とでかかった言葉を呑み込む。
「おそれながらハクイ様。確かに許可もなく動いた事は私の判断ミスですが、私が懲罰坊にいる間あの二人の面倒は誰が見るのでしょうか?」
「心配には及びません。貴方は暫く一人で頭を冷していなさい」
悪あがきは無駄かとハクイの言葉に頷くしかない。
それはそうとと自身の袖の中をまさぐってやはり無いと辺りをキョロキョロと見回す。
(あーまずいな何処いったかなー)
おそらく気絶していたルゥを担ぎ上げて樹海を躱した時だ。あの時に落としたのだろう。
柄にもなく焦っていたのでまず間違いない。
確かこっからこっちへ飛び退いて、根を切り落としてそしたらあの二人が崖から落ちて、ヤバイと思ったその直後、四方八方から自分達を絡み取ろうとしていた樹海の根から突然火柱が空高く上がり、一瞬にして灰になったかと思ったらハクイがそこにいた。
(正直あれは驚いた)
突然の自然発火。直ぐに手を打とうとしたが肝心のあれがなかった。全員焼け死んでしまう!
そう思った瞬間「対処が甘いですよイェン、燃やすなら最後までやりなさい」と言う声が聞こえ瞬いた時にはここだけがぽっかりと焼け野原と化しており、まさにあっと言う間だ。そしてその姿にげっとし、あぁあれは魔力によるものかと気付きなるほどとなった訳だが。
と言うのも魔力で燃やす対象物を選ぶ事が可能だからだ。勿論ハクイはそれが出来る。
(ハクイ様が作った炎なら丸焦げになる心配はないんだよなぁ)
自身がいた箇所を辿りながら焦げた樹海や灰などを足で退かし探す。
「探しているのはこれですか」
淡々とした、けれど常人なら思わず聴きぼれる綺麗な声。振り替えるとハクイの手の平の上に、亀裂の走った赤と金の耳飾りが。
「え、何故それを」
「貴方の魔力が漏れでていたので直ぐに分かりました。これを使ったのにこの有り様とは情けない」
口煩いな、内心でそう思いながらイェンはそれを受け取る。
「イェン約束は覚えていますよね?」
「それは勿論」
「それならいいのです」
ふと見るとその耳飾りにあった筈の亀裂がすっかりなくなっていた。どうにも直してくれたらしい。
「さぁ帰りますよ」
すると幼い悪魔の子が一人「エル様のとこ?」と涙声で訊いたが「もちろん城です」とキパッとした返答に「やだぁ~」と泣きながらハクイにしがみつく。
「エル様のとこ帰る~!」
「ダメです」
ハクイは気にも止めずしがみついた子を引きずりながら歩きだす。すると泣き止んだ子もまだグスグス言ってる子も文句を言う子も全員ハクイに着いて歩きだした。
その一番後ろを引率の先生よろしく歩きながら
(いやいや着いてってるし、帰りたいなら無視して帰ればいいだろうに、なんでしがみついちゃってんだか)
とイェンは思う。
(まぁ逃げたところで逃げられないけどね)
それを分かってかどうだかぞろぞろとハクイの後ろを着いていく。
途中で仕方無いですねとしがみついていた子をハクイは抱き上げて歩きだした。すると直ぐ後ろを歩いていた同じくまだ幼い子達がずるいずるいと騒ぎだす。
「なんだかんだ言うわりに、ハクイ様のこと好いてるよなー」
1
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる