魔王と王の育児日記。(下書き)

花より団子よりもお茶が好き。

文字の大きさ
上 下
123 / 168
第六章

馬には乗ってみよ人には添うてみよ09

しおりを挟む


 ――気付いた二人は走っていた。
 それはもう必死に、必死に走って追いかけていた。
 城の庭から森へと消えて行った悪魔の子供たちを追って!

「くそ! どこ行った……!」
「あー気のせいかなーつい最近も似たようなことなかったっけ?」
「そんなことより見失った! 最悪だこの間より状況が悪い。いったいなんだってリーベを!」
「そんなのあの子達に聞いてくれよ」

 肩で息をし青年の足取りが重くなる。
 決して人が歩く場所ではない獣道。人の背丈ほども高く伸びきった草やら枝やらをどこから出したかイェンは得物で薙ぎ払い、あとから来る青年に道を作って進む。
 だが青年は木の根に足を取られつまずいた。
「それはさすがに気を付けてくれよ」と言いながらもイェンはなるべく根も薙ぎ払う。

「悪い悪い、久々に走ったら思ったより疲れちゃって」
「こっち来てからずっと箱入りだったもんなアンタ」

 体力と運動神経にはそこそこ自信があった筈が、たった数日でこの有様とは情けない。
 最近怠けていたのが仇になったかと心の中で呟いて青年は前方を見上げる。
 だが空高く生い茂った森林が青空を隠すように聳え立つせいでその先がハッキリと分からない。
 そのせいで森の中は薄暗く気味が悪い、それが青年の不安を煽る。
 悪魔の子供たちはどこまで高く飛び、どこへ向かっているのか。
 強く握った拳がじわりと嫌な汗で濡れる。
 
(目を離すんじゃなかった)

 イェンとの口論に気を取られ、リーベがいなくなっていることに気づかなかった。
 まだ自力では座れない、ハイハイも出来ないからと油断していた。
 いや待ていくらなんでもありえない。
 リーベが自力で膝の上から、青年の腕から這い出たとは思えない。と言うことはやはりあの悪魔の子たちが二人の眼を盗みリーベを連れ去ったというのか。

 なぜ、いつ、どうして?

(そもそもいつから居たんだ)

 先日の様子を思うとあの子たちが何をしでかすかと気がきでない。
 連れ去られた時のリーベの様子は足が宙ぶらりんの状態で抱っこされ、今にも滑り落ちそうだった。
 せめて首が座っているだけ良かったと言うべきか。

(早く見付けないと、何かある前に)

 イェンは青年には物珍しい煌びやかな双刀そうとうあやつりバッサバッサと道を斬り開いて行く。
 知識程度に知っているそれは本来は一つの鞘に収まっているのを素早い動きで引き抜き一刀にみせかけ攻撃するものだ。
 だがその刀は今、草刈り鎌と化しているので多少申し訳ない気もしなくも無い。

「迷いなく進んでるけど、あの子たちがどこへ向かっているかわかるのか?」
「もちろん。あの魔晶石のおかげでね。アンタ縫い付けて正解だったよ」
「本当か!? 良かった!」
「状況は良く無いけどね。しかもさっきから動きがおかしい。どうも同じ場所をぐるぐると」
「まさかあの子たち道に迷って? 逆にチャンスだ急ぐぞ」
「そう上手くいくと思えないけど、さ!」

 イェンは急に視界に現れた分厚い枝を斬り落とす。

「やっぱりな。最悪だ樹海じゅかいの中だ」
「樹海?」
「アンタの知ってる樹海とは違うだろうけどね。の魔獣がいるんだ。その〝樹海〟の中だよここ」

 イェンが続けて刀を振りあげる。

「それがどうしってうわ!」

 青年の肩に迫っていた何かをイェンがその一刀で斬り伏せた。
 それはゴロンと地面へ転がりまるで斬られた芋虫のようにうねる。

「あーこれ本当は演舞用に使ってんだけどなー……本物で良かった。模造品だったらアウトだったな」
「な、なんだこれ根が動いてる!?」
「そりゃ植物も生きてますから」
「そう言う問題か!?」
「樹海自体が動いてるんだよ。正確には獲物を捕らえるために移動する。獲物を逃さないために出入り口を塞ぎ、空から逃げられないよう幹と枝を伸ばす。樹海に死ぬまで閉じ込め死んだ獲物を養分とするためにさ。たく、あのがきんちょどもそれで同じ所をぐるぐると、参ったな」

 何かいい方法はないか、青年は前を歩くイェンの肩を引っ張った。

「この間魔王さまが俺と一緒に庭から部屋へ一瞬で移動したんだけど、あれは?」

 イェンは顔をしかめて首を振る。

「やれるならとっくにやってると思わない?」
「なら片方貸してくれ」

「使えるのか?」とイェンが半信半疑でその一刀を手渡す。
 イェンの双刀は刀柄とうへい、つまりは握りの部分が金色と真紅の二刀。その金色の一刀を青年は片手に持つと軽く振るう。
 刀首けんしゅに取り付けられた真紅の布、刀彩とうさいが弾けるような音を立てたかと思うと、イェンの足元から迫っていた太い根が真っ二つになる。

「言っただろ。だいたいの事は出来るんだ」

 その時、森のずっと奥から少女の叫び声が上がった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

ペットの餌代がかかるので、盗賊団を辞めて転職しました。

夜明相希
BL
子供の頃から居る盗賊団の護衛として、ワイバーンを使い働くシグルトだが、理不尽な扱いに嫌気がさしていた。 キャラクター シグルト…20代前半 竜使い 黒髪ダークブルーの目 174cm ヨルン…シグルトのワイバーン シグルトと意志疎通可 紫がかった銀色の体と紅い目 ユーノ…20代後半 白魔法使い 金髪グリーンの瞳 178cm 頭…中年 盗賊団のトップ 188cm ゴラン…20代後半 竜使い 172cm

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

皇帝に追放された騎士団長の試される忠義

大田ネクロマンサー
BL
若干24歳の若き皇帝が統治するベリニア帝国。『金獅子の双腕』の称号で騎士団長兼、宰相を務める皇帝の側近、レシオン・ド・ミゼル(レジー/ミゼル卿)が突如として国外追放を言い渡される。 帝国中に慕われていた金獅子の双腕に下された理不尽な断罪に、国民は様々な憶測を立てる。ーー金獅子の双腕の叔父に婚約破棄された皇紀リベリオが虎視眈々と復讐の機会を狙っていたのではないか? 国民の憶測に無言で帝国を去るレシオン・ド・ミゼル。船で知り合った少年ミオに懐かれ、なんとか不毛の大地で生きていくレジーだったが……彼には誰にも知られたくない秘密があった。

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

処理中です...