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第六章
馬には乗ってみよ人には添うてみよ09
しおりを挟む――気付いた二人は走っていた。
それはもう必死に、必死に走って追いかけていた。
城の庭から森へと消えて行った悪魔の子供たちを追って!
「くそ! どこ行った……!」
「あー気のせいかなーつい最近も似たようなことなかったっけ?」
「そんなことより見失った! 最悪だこの間より状況が悪い。いったいなんだってリーベを!」
「そんなのあの子達に聞いてくれよ」
肩で息をし青年の足取りが重くなる。
決して人が歩く場所ではない獣道。人の背丈ほども高く伸びきった草やら枝やらをどこから出したかイェンは得物で薙ぎ払い、あとから来る青年に道を作って進む。
だが青年は木の根に足を取られつまずいた。
「それはさすがに気を付けてくれよ」と言いながらもイェンはなるべく根も薙ぎ払う。
「悪い悪い、久々に走ったら思ったより疲れちゃって」
「こっち来てからずっと箱入りだったもんなアンタ」
体力と運動神経にはそこそこ自信があった筈が、たった数日でこの有様とは情けない。
最近怠けていたのが仇になったかと心の中で呟いて青年は前方を見上げる。
だが空高く生い茂った森林が青空を隠すように聳え立つせいでその先がハッキリと分からない。
そのせいで森の中は薄暗く気味が悪い、それが青年の不安を煽る。
悪魔の子供たちはどこまで高く飛び、どこへ向かっているのか。
強く握った拳がじわりと嫌な汗で濡れる。
(目を離すんじゃなかった)
イェンとの口論に気を取られ、リーベがいなくなっていることに気づかなかった。
まだ自力では座れない、ハイハイも出来ないからと油断していた。
いや待ていくらなんでもありえない。
リーベが自力で膝の上から、青年の腕から這い出たとは思えない。と言うことはやはりあの悪魔の子たちが二人の眼を盗みリーベを連れ去ったというのか。
なぜ、いつ、どうして?
(そもそもいつから居たんだ)
先日の様子を思うとあの子たちが何をしでかすかと気がきでない。
連れ去られた時のリーベの様子は足が宙ぶらりんの状態で抱っこされ、今にも滑り落ちそうだった。
せめて首が座っているだけ良かったと言うべきか。
(早く見付けないと、何かある前に)
イェンは青年には物珍しい煌びやかな双刀を操りバッサバッサと道を斬り開いて行く。
知識程度に知っているそれは本来は一つの鞘に収まっているのを素早い動きで引き抜き一刀にみせかけ攻撃するものだ。
だがその刀は今、草刈り鎌と化しているので多少申し訳ない気もしなくも無い。
「迷いなく進んでるけど、あの子たちがどこへ向かっているかわかるのか?」
「もちろん。あの魔晶石のおかげでね。アンタ縫い付けて正解だったよ」
「本当か!? 良かった!」
「状況は良く無いけどね。しかもさっきから動きがおかしい。どうも同じ場所をぐるぐると」
「まさかあの子たち道に迷って? 逆にチャンスだ急ぐぞ」
「そう上手くいくと思えないけど、さ!」
イェンは急に視界に現れた分厚い枝を斬り落とす。
「やっぱりな。最悪だ樹海の中だ」
「樹海?」
「アンタの知ってる樹海とは違うだろうけどね。樹の魔獣がいるんだ。その〝樹海〟の中だよここ」
イェンが続けて刀を振りあげる。
「それがどうしってうわ!」
青年の肩に迫っていた何かをイェンがその一刀で斬り伏せた。
それはゴロンと地面へ転がりまるで斬られた芋虫のようにうねる。
「あーこれ本当は演舞用に使ってんだけどなー……本物で良かった。模造品だったらアウトだったな」
「な、なんだこれ根が動いてる!?」
「そりゃ植物も生きてますから」
「そう言う問題か!?」
「樹海自体が動いてるんだよ。正確には獲物を捕らえるために移動する。獲物を逃さないために出入り口を塞ぎ、空から逃げられないよう幹と枝を伸ばす。樹海に死ぬまで閉じ込め死んだ獲物を養分とするためにさ。たく、あのがきんちょどもそれで同じ所をぐるぐると、参ったな」
何かいい方法はないか、青年は前を歩くイェンの肩を引っ張った。
「この間魔王さまが俺と一緒に庭から部屋へ一瞬で移動したんだけど、あれは?」
イェンは顔をしかめて首を振る。
「やれるならとっくにやってると思わない?」
「なら片方貸してくれ」
「使えるのか?」とイェンが半信半疑でその一刀を手渡す。
イェンの双刀は刀柄、つまりは握りの部分が金色と真紅の二刀。その金色の一刀を青年は片手に持つと軽く振るう。
刀首に取り付けられた真紅の布、刀彩が弾けるような音を立てたかと思うと、イェンの足元から迫っていた太い根が真っ二つになる。
「言っただろ。だいたいの事は出来るんだ」
その時、森のずっと奥から少女の叫び声が上がった。
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