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第六章
馬には乗ってみよ人には添うてみよ06
しおりを挟む慌ててその手から魔晶石を奪う。
「あーや!」
「あーやじゃない、めっ」
「む~~~」
不貞腐れる顔でさえ可愛いのだから赤ん坊は困る。などと思いながらも魔晶石をしっかり渡さない。
「どうしたのさ」
「どうしたもこうしたも、イェンやっぱり駄目だこれ」
青年は緑色の石をリーベから遠ざけて、その石に通した革紐、リーベの首に下げたそれは小さな手が引っ張る。
それを見て、ありゃーとイェンは頭をかく。
「俺のぶんは念の為服の内側に隠してるけど、リーベはそうもいかないし」
「あーそれもそうか。でも身に着けていないと効果ないしなぁ」
「身に着けるだけでいいのか? それなら裁縫道具があれば」
「さすがにそれは持ってきてないな」
「こういう時にハクイ様がひょっこり現れてくれればなぁ」
こちらに来た当初ハクイが見事な手捌きで、リーベの服に刺繍を施したことを思い出す。
「とみせかけて実はあります」
「でかしたイェン」
青年は何処か座れる場所をと辺りを探し、イェンがあっちと指をさす。
そこにはクリーム色の柱と屋根の休憩所、ガゼボが。
二人は直ぐにその屋根の下へ移動してイェンはテーブルに袋を置き、裁縫道具を取り出す。青年はリーベを長椅子へと寝かせた。
「ところでアンタ裁縫できるの?」
「俺はだいたいのことは一通りできるよ。それはともかくこの石の首飾り一度取ってもいいか? 取らないと縫いつけづらい」
「じゃあ一旦このガゼボに結界張るよ」
イェンが指を鳴らして「いいよ」と言ったのを合図にリーベの首からその魔晶石の首飾りを取る。それと同時にイェンがリーベを見るのを代わって、青年は袋の中からリーベの着替えを取り出した。
「どうすんの?」
リーベを抱きかかえイェンは訊く。
「言ったろ縫い付けるって」
青年は慣れた手付きで——さすがにハクイほどではないがそれでも器用にリーベの上衣、ひらひらしたスカートのようなその端を二つに折って丸くなった隙間に石を入れそのまま出てこないよう縫い付ける。
多少見た目は悪いが今は仕方が無い。
「よし出来た。おいでリーベこっちに着替えよう」
魔晶石を縫い付けたその服に着替えさせてようやく肩をなでおろす。
「また着替えることになったら厄介だなぁ」
「毎回縫いつけ直すのは手間だしね」
「簡単に取り外しができれば、何か考えとかないとな」
「そもそも部屋から出なきゃいんだけどさ」
「もともこもない」
「どうする今日はここでのんびりする?」
青年は顔を上げ天井を見上げる。
クリーム色の屋根が陽の光を遮っているおかげで心地よい風が頬を掠めた。
「いや、せっかくだからもうちょっと散歩しようか。せっかく石を縫い付けたんだし」
目の前を横切った黄色の蝶が、ガゼボを取り囲むように咲きほこる花から花へと止まる。
それを目で追っていたリーベが手をのばす姿を見て、青年は目を細めた。
「確かにそれもそうか、僕も出来れば結界の外に出たいし」
「……やっぱり、魔族にとっては辛いのか?」
魔族はその身に邪気を宿している。その邪気の影響を受けないようにする結界の中は少し息苦しいのだと、以前魔王が言っていた。
ガゼボから出ると、イェンはまた指を鳴らす。
「うーんまぁ、魔王さまみたいに何重にも張らなければなんて事ないんだけどさ、なんか息苦しい気がするというか、なんとなく避けたいのは確かなんだよなぁ。そもそも普段使う必要のない類の術だし……あぁそっか慣れないのかも」
確かにその通りだ。邪気をやどす魔族が好き好んで使うような術ではない。むしろ存在するだけで凄いのではないか。と言うかそもそも邪気があるから魔力が扱えるという事は、その邪気の影響を受けないようにするこの術はむしろありがた迷惑な代物だろう。
(待てよ。もしかして応用すれば相手の魔力や魔術を封じ込むのに使えるのか?)
そう考えると、この類の術が存在するのも頷けるとういうもの。
——のんびりと庭園を散歩して、ある場所で青年がふと立ち止まる。
リーベが嬉しそうに「だぁ!」と声を上げた。
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