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第六章

馬には乗ってみよ人には添うてみよ05

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 晴天の元、魔王城の庭園では魔族には珍しくなく、人間には珍しい花々が咲き誇っていた。
 その庭園に、トピアリーの中に二人、足を踏み入れる。
 イェンはリーベを抱えて青年は片手に大きな袋を抱えて。
 先日エルが現れた際は慌ただしさのため花なんて見る余裕もなかったが、改めてその広く丁寧に整備された庭園をぐるっと見渡し、青年は感銘の声を漏らす。

「ここの庭師はいい仕事をするな」
「そりゃどうも。今度本人に伝えておくよ」

 ため息混じりにイェンがそう言ってリーベを抱え直す。

「おぶい紐でもあればな」

 青年の言葉にイェンは「何それ?」と言いながら再度リーベを抱え直す。
 リーベはリーベで外の景色にテンションが上がっているのかその亜麻色の瞳をキラキラと輝かせ、きょろきょろと辺りを見回し落ち着かない。

「コラおてんばお嬢ちゃん、良い子だからちょっと大人しくしてくれよ落としちゃうだろう」

 この愛らしくほっぺをピンクに染めたぷくぷくむにむにお嬢さまはここ数日すっかり元気だ。
 青年が初めてこの小さなお姫さまを抱き上げた時の赤ん坊特有の心地良い重さを思い出す。今でもそうだがけれど違う、綿のような軽さと、痩せこけた細さはどこへやら、このむちむち体型がそれを現している。

(食欲旺盛だもんなぁ。て言ってもいくらなんでも回復早過ぎないか?)

 最初の頃はミルクを戻してしまうリーベにどうしたものかと心配したが、今ではすっかりお気に入りの味となっており、こっちが心配するほど飲み続けるようになっていた。
 おそらくこのちっこい体も生きようと必死なのだろう。

(まぁなにはともあれ元気なのが一番だよな)

「まいったどうしよ、このお姫さま」

 持て余すイェンの姿に青年はくすっと笑って「おぶい紐でもあればいいんだけどな」とリーベへ手を伸ばして抱っこを代わる。

「おぶい紐?」

 リーベと交換で袋を受け取りながら聞きなれないその単語にイェンは首を傾げた。

「赤ん坊を紐で背中とか前でこう抱っこしたりおんぶしたり出来るようにするんだよ。紐で支えれば手が空くから疲れないし、赤ん坊も落ちないから安心だろう?」
「あぁそういうこと、あー待ってもしかしたら何か代わりになりそうなもん入れて」

 イェンは袋の中をあさって何かないかと探しながら

「そうださっきの部屋に関する事だけど」
「んー?」

 リーベを空高く抱き上げ、きゃっきゃっと笑うリーベに青年の頬もゆるむ。

「さっきはハクイ様がいる手前引き受けちゃったけどさ、あの部屋ってあくまでその子の部屋であって、アンタって一応その子のお世話係みたいなもんだよね?」
「んー? それが?」
「お世話係の都合の良い部屋にするのってなんかおかしくない?」

 青年はリーベを空高く抱き上げたまま、イェンの方を見て固まった。

「…………確かに」
「その子があの部屋気に入ってるぽいのにさ、アンタの好きなように変えるのってどうなの? その子の部屋なのに」
「……確かに」

 畳み掛けるように投げかけられた言葉にぐうの根も出ない。
 ブリキの玩具のようにぎこちない動きでリーベへ向き直り、青年はしまったと。
 そのままゆっくりとリーベを胸に抱きかかえ、己の身勝手さ、立場を分かっていない言動に。

(あぁつい、この浮かれ頭!)

「確かにその通りだわ……駄目だなこういうところがホント、俺の悪いとこだわ」
「まぁでもその世話役にとって使い勝手が悪いってならそれはそれで問題だし、僕はあそこで寝起きしてないけど、アンタは寝起きもしてる訳だし、どうする?」
「そこまで言っておいてどうするも何もあのままでいいよもう。考えてみたらお姫さまが気に入っているのに変えちゃうなんて可哀想だ」
「寝台は?」
「しばらくお伽噺おとぎばなし気分を味わうのも悪くないよな」
「良かったじゃあ全部あのままってことで」

 気分良く鼻歌をうたいだすイェン。

「あぁないわ、おぶい紐に出来そうなの無い」

 そして止まる鼻歌。諦めて袋を締め紐を持って肩に担ぐ。

「しょうがない。次に出掛ける時はなんか用意しとくよ」
「そっかそうだな。ありがとう」
「いえいえ」

 二人は気を取り直して歩き出す。
 ぽかぽかの陽気はまさにお散歩日和びより。庭園のその整備された見事なまでのトピアリーの中をゆっくりと歩いて、リーベが瞳を輝かす姿に青年まで嬉しくなる。と、リーベが自身の首に下げられているそれに気付いた。

「あ、まずい」

 案の定、首から下げた魔晶石を口の中へ入れようと

「まてまてまてまてまて‼︎」



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