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第六章

馬には乗ってみよ人には添うてみよ04

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「それ首に下げて、リーベのぶんもあるから庭でも散歩しよう」
「なんだよこれ?」
「本当はアンタに渡したくないんだけどね。すぐ好き勝手歩き回りそうだからさ、でもここに閉じこもったままってのも身体からだにも精神的にも良くないし」
「だから何これ?」
「僕の魔力をこめた石だよ」
「それで?」
「けど条件がある。それを付けたまま勝手にどっか行かないって約束すること。あとこれ渡したこと魔王さま達には内緒で」
「つまりこれがあれば邪気の影響を受けないと?」

 ご名答とイェンは軽く拍手する。

「普通に説明して欲しいんだけど」

 するとハタキを指し棒がわりにイェンは語り出す。
 嫌がらせかと思うほどやけに長ったらしい説明だったが、要するに〝魔力を石に変えた〟らしい。そしてこの石には結界の術が施されている。そのため身に着けている間はその者を邪気から守ってくれるとか。
 ちなみに今のところそれ以外は付加されていない。

「なるほどお守りみたいなもんか。俺ってなんてラッキーな男なんだ。いいもん貰ったよ」

 鼻歌交じりに首に下げる。

「ところで邪気以外からは守ってくれないのか?」
「くれないなー。さっきも言ったけどそーゆー感じにしてあるからさ」
「ケチだなぁ」
「お言葉だけどね。一個につき一つ効力をつけるのが普通なの、一つ付けるだけでも大変なのに二つだなんて、これでも頑張ってー」
「ウソウソありがとう」

 青年は小言を遮りながら、こんなに自分達に甘くてあとで怒られやしないのかと多少心配になる。
 するとコンコンと扉をノックする音が響いた。
 慌てて首に下げた石を外し寝台へと隠すと扉へ向かって「どうぞ」と声をかける。
 入って来たのはハクイだった。

「何もかわりありませんか?」

 ハクイが問うとイェンは特に何もなく平和だとこたえる。
 その短いやり取りをただ流し見て終わろうとしたが、思い出して「あっ」と声を上げた。

「そうだハクイ様! 何個か言いたい事があるんですけど」

 まずこの部屋だ。
 この寝台はまるでそう、御伽の国のお姫様が使ってそうなファンシーキュートなピンクのベッドだ。
 リーベの為にあつらえたのだろうが、彼女はまだベビーベッドで事足りている。
 では誰がこのお姫様のベッドに毎日寝るのかと言うと、そう青年だ。
 とっくの昔に成人した男が一人、このひらひらとしたひだのついたパステルカラーピンクの可愛らしい寝台で寝る。
 なんともおかしな状況に流石に耐え難いものを感じていた。

「もっと俺用にして欲しいんですが、駄目ですか?」
「なんだそんな事ですか、それならイェンに頼むといいですよ」

 話を振られたイェンが直ぐにハクイへと向き直り「かしこまりました」と両の腕を自身の胸の前へと伸ばして両手を重ね、そのままこうべを垂れる。

(変わった作法さほうだなぁ)

 青年はそんな事を思い見ていたが、とりあえずこれでようやくこのある意味居心地の悪い寝台からは解放されそうだ。
 そうだ忘れちゃいけない居心地が悪いと言えばそもそもこの部屋だ。ファンシーなアトラクション、いな、今も空中を浮遊するユニコーンやウサギなどのぬいぐるみ、そしてパステルカラー全快の不思議な空間と備品をなんとかして貰おうと思った時だ。
 タイミング悪くもハクイは誰かに呼ばれて出て行ってしまった。
 話があればまたの機会にと言い残して……。

「え、ちょっと」

 残念だがどうにもこのファンシー空間とはもう暫く仲良くしなくてはいけないらしい。

「あぁてかマールのこと言うの忘れてた!」

 俺としたことがと頭を抱える。だがその頭に何かがどしっとぶつかった。

「イタ~?」

 ぶつかり落ちてきた物を慌てて両手でとらえると、それはリーベの着替えなどを詰めた袋。

 顔を上げれば

「ほらさっさと行くぞ」

 イェンがリーベを抱き上げてそう言った。


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